第9話 労後

「――は〜い、今日もお疲れ様〜」

「あっ、カオリさん……」

 仕事終わり、今日も一日慣れない労働に疲れた俺は一人カウンターでぐったりしていると、奥からカオリさんがお茶を持ってきてくれた。

 カオリさんはエリの母親で、あのダインさんの奥さんだ。

 しかしその実、見た目は相当に若くてまだ二十代とも言われても相当信じられるほどだ。

 そしてエリがカオリさんの遺伝子を受け継いでくれて本当によかったと思う。

「あっ、タイチーっ!仕事終わったのっ?」

「うん、今終わったところだよー」

「じゃあまた一緒に本読みましょ」

「そうだね。じゃあすぐに行くよ」

「はーい!じゃあまた部屋で待ってるからね〜」

 エリはそう言って部屋へと戻っていく。

 どうやら俺の仕事が終わるのを待っててくれたみたいだった。

 あの日以来、エリとは本の趣味ですっかり仲良くなってしまい、最近では毎日のようにエリの部屋でこの世界の本を読み漁っていた。

 異世界という非日常な世界で、しかもあんな美少女と日々昼夜を共にしているということもあって、俺の深刻な萌え不足は僅かにだが抑えられていた。

「じゃあご飯が出来たらまた呼びに行くわね〜」

「あっ、はい。おねがいしますっ」

 異世界に来てから約一週間。仕事をして本を読みあさりる生活。

 この一週間、あまり異世界要素が全く感じれないのはどういうことだろうか……?

 俺って本当に異世界に来たんだよな?

 ダインさんに弟子入りしたのは覚えているが、結局あれから音沙汰なしだし……。

 そもそも一週間暮らしてみて思ったが、この街は平和そのものだった。

 魔王軍に怯えている様子もなく、ただただ平凡な日々が続いていた。

 ――本当にこの世界に魔王なんてのがいるのか?

 俺はそんな疑念を抱きつつも、だが新たな本の魅力におされて俺はエリの部屋に移動する。




「だめだっ!足りない!萌え成分が足りないっ!」

 しかしその日の夜、俺はとうとう我慢の限界がきた。

 可愛い女の子の絵がみたい!可愛い女の子の物語が読みたい!萌え成分が欲しい!

 これはいよいよ不味い……。

 萌え成分が足りないストレスで死んでしまいそうだった。

「――ちょっといいか?」

 するとそんな俺の心情を知ってか知らず、ダインさんの声と共に扉がノックされた。

「どうしました?」

 もしかしてさっきの叫び声がうるさすぎた?

 善意で住ませてもらっている以上、皆に迷惑だけはかけないように気をつけていたんだけど、流石に今回は不味かったかもしれない……。

「明日からお前の修行を始めるから準備しておけよ」

「……え?」

 しかし返ってきた言葉は想像の斜め上をいくものだった。

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