第7話 招待


「萌え?萌えとは一体なんだ……?」


 冒険者になるための目的を堂々と宣言したところ、やはりこの世界に萌え文化がないことが分かった。

 だからすぐ様々な種類の本を集め、また色んな人に広めるというもっともらしい理由をすぐに述べた。

 そう、この世界には萌えがないのだ。

 俺の唯一が生きていくための四大欲求のうちの一つがないのだ。

 だったら自分で作るしかない。

 そう考えた俺はまずは自分で萌えが詰まった小説を作ることにした。

 アニメは当然ながら一人では絶対に作れない。かといって俺はそこまで絵がかける方ではないので漫画も無理だ。

 それを考えると結果的に消去法で小説となる。


「なるほど……。まぁ、理由は人それぞれだ。いいだろう。娘を助けてもらった恩もある。一つ私が面倒を見てやろうか」

「あ、ありがとうございますっ」

 ダインさんの考えるものと俺が思っているのは絶対に違うだろうが、なにはともあれ、ようやく冒険者としての第一歩を踏み出せそうだ。

「へぇ〜、タイチってそんなに本が好きなんだっ。じゃあ私の是非私の部屋に来てみてよ!私が今まで集めた本がいっぱいからきっとタイチの知らない本もあるはずだよっ」

 さっきも思ったがどうやらこの少女は相当な本好きみたいだな。

 確かにこの世界の本がどんな作風なのかすごく気になるから正直とても読んでもない。

 でも……だからといって女の子の部屋に行くなんて勇気は俺にはないぞ。しかも両親を目の前にして。

「ねぇっ、ほら来て来てっ」

「あっ」

 しかし少女は俺の気持ちもいざ知らず、腕を引っ張ってきた。

「じゃあお父さんちょっとタイチ君借りるねっ」

「あぁ、好きにしなさい」

 いやなんでそんな普通に返事してるんですか……。年頃の女の子が三十を過ぎたいい大人を部屋に入れようとしてるんですよ?

 ――いや、違うか。今は神の力によって十代半ばの少年になってるんだった……。

 これに関しては完全に神の趣味のようで、神曰く「おっさんは汚い」という心のない言葉により俺はおっさんから少年へとジョブチェンジしたのだ。

「あらあらぁ〜。私達外に出て行った方がいいかしらぁ?」

「いやっ!結構ですっ!」

 あげくの果てにはお母さんまでもがそんなことを言い始めてしまった。

 全く、この家族はどうなってるんだ……。

 いや?もしかしてこれが異世界の常識なのか?

「…………」

「うっ……」

 異世界では娘に対してそこまで過保護じゃないのかと思ったが、すぐにダインさんの視線に気づいて俺は背筋を凍らした。

 ――絶対に何があっても変な気だけはおこしちゃだめだ。

 じゃないと俺は死んでしまう。

 異世界という世界に来たからこそ俺は生まれて初めて殺気というものを感じた。

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