第3話 衣食住

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 街中での追いかけっこは数分ほど続いた。

 いくらステータスが高くなって、筋力やらが強化されたとはいえまだ慣れない体だ。

 それに運動するのだって久しぶりなんだ。慣れない動作で変な動かし方でもしてしまったせいで体はすでに悲鳴をあげていた。

「あ、あのっ……ど、どうしてっ……逃げるん……ですかっ……」

 しかも驚くことにあの少女はここまで俺について来ていた。

 もう、そんなに体力あるならあの場面も一人で何とか出来たんじゃないかと思う……。

 とは思いつつも、こうして追いつかれた以上はもう逃げる訳にもいかない。

 ……でもコミュ症すぎて逃げ出してしまったなんて言えるはずもなく。

「お、お礼をされるほどじゃないから……」

 息を整えながら苦しい言い訳をこぼす。

 体が疲れ切っているせいで、まともな思考すら出来ない。

「そんなことないよ!私すっごく助かったんだからっ。私本当に感謝してるのよ」

「ど、どどうも……」

 少女にまっすぐ見つめられてしまい思わず視線をそらす。

 というかこの子、もう息切れしてないし。一体どんだけ体力化け物なんだよ……。

「そ、それじゃあ俺は急いでいるので……」

 とにかくこれ以上こんな綺麗な子と一緒にいるとどうなるか分からない。

 それにあくまでも俺は二次元に恋しているオタクなんだ。

 現実に萌えを見出してもろくでもないことになるというのは学校で身を持って実感したからな。

「急いでるなら仕方ないか……。あっ、じゃ、じゃあせめて名前だけでも教えてくださいっ」

 名前……名前か……。

 う〜ん……この世界の名前ってどうなんだろう?

 多分俺達の世界と大分違うだろうから、本名を言ってもだめそうだな……。

「――太一です」

 まぁ無難に下の名前だけでいいだろう。

「タイチさん……。うん分かった覚えておくわ」

「そ、それじゃあ……」

 こんな名前覚えられてもな。

 まぁ、とにかくこれでこの子から離れられるなら上等だ。

 異世界だから変な女の子とのイベントを期待してしまうが、現実そんないいことは起こらないと俺は知っている。

 だからこそ俺は裏切られない二次元の世界だけでいいんだ。


「……あっ、でもこの世界に萌え文化はなかったんだ」


 改めてこの世界はひどいな……。まぁ異世界だから仕方とも言えなくもないけど。

 でもこうなったら自分で萌え文化を生み出すしかないのか?

 ――いや、この先生きていくためだ。

 早く萌え成分を補充するために一刻も早く萌え文化を作り出さねばいけないな。

 だけど……、


「俺……今日からどうやって生きていこう」


 萌え成分どうこう以前に、衣食住も保障されてないこの状況でどうやって生きていけばいいんだ……。

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