第19話 Fランク冒険者

 冒険者ギルドの扉を開けると、昨日と同様にテーブルがいくつかあり、それぞれに野蛮な人相の輩が多く座っていた。

 だが、あのジンとかいう筋骨隆々の男の姿は無いようだ。

 

 奥には受付があり、昨日と同じ女性が立っていた。

 俺たち三人は受付に向かい、ギルが依頼の完了を報告した。


「依頼達成おめでとうございます。先ほど確認もとれましたので、報酬をどうぞ」


 そう言って、受付の女性は巾着袋をギルに渡した。

 おそらくお金が入っている袋だろう。だがあまり量があるようには感じられない。


「ちなみにいくら?」


 少し卑しいかもしれないが、気になってしまったのだから仕方がない。


「確か金貨2枚と銀貨5枚だ」


 なるほど、一日がかりの依頼でこれくらいか。牛の料理は一人前で金貨3枚くらいと言っていた。牛が高価なのか報酬が少ないのか……おそらく中世の世界観なら牛が貴重なほうだろうが。


「大夢は色々込みで銀貨5枚だったよな」


 ギルは袋から金貨2枚を取り出し、二人で分けた。そして俺は銀貨5枚が入った袋を受け取る。想像以上に重量があり、油断していた腕が少し下がった。


「じゃあギルドに登録します」


 俺は袋から銀貨1枚を取り出して、受付に登録料として出した。

 1日ぶりに返ってきたこの場所で、やっと新たな一歩を踏み出した気がする。


「そういえば昨日ぶりね」


 受付の女性は手際よく銀貨を受け取り、書類のようなものと珍しい見た目のペンを取り出した。


「この紙に自分の名前を書いて。その名前でギルドに登録されるから」


 俺がペンを手に取って名前を書いたが、受付の女性は少し眉を吊り上げて


 「あ、偽名とか自分の名前以外の文字を書くのはダメダメ。それで登録されるのよ?」


 と不機嫌そうだ。

 俺の書いた文字が元の世界のものだからだろう。この世界の文字はまだ知らないけど、名前くらいは書けるようにしたほうがよさそうだな。


 「こいつ話せるけど読み書きができないんですよ。でもよくわからない異国の文字は書けるってやつで……」


 ありがたいことにギルがすかさずカバーに入ってくれた。

 改めて考えると、話せるのにその言葉を読み書きもできず、別の言語の読み書きはできるって変人すぎる。


 「あらそう、変な人ね。でもそのまま登録されるから後悔するなら今のうちよ。登録証に今書いたものが刻まれるの。このままでいいの?」


 まあ自分がわかればいいだろう、と頷いた。

 受付の女性は、本当にいいのね?という顔をしていたが、観念したのか俺の書いた紙を引き取り、代わりに片手に収まる程度の長方形の板のようなものを渡してきた。


 おそらくこれが登録証というものだろう。俺の名前と、何やらよくわからない文字が上のほうに記載されている。


 「この文字って何です?」


 「これは冒険者ランクよ。あなたは登録直後だからFランク冒険者。ランクが低いと受けられる依頼も限られてくるの」


 なるほど、俺みたいな初心者が危ない依頼を受けないようにということだ。

 

 「へえ、ちなみにギルとウールはどれくらいのランクなの?」


 「俺らは二人ともCランクだぜ!やっと護衛任務ができるようになったところだ」


 ギルは自慢げに鼻の下を搔いている。一方のウールは


 「まあそういうことだ。せいぜい精進したまえFランク冒険者さん」


 と言って意地の悪い笑みを浮かべている。

 

 今思えばウールとギルは俺よりも数倍は強かった。それでCランクならば、俺はそこまですら上がれないのかもしれない。


 冒険者ギルドの登録証を手に、俺たちはいったんギルドの外に出た。登録証は大切にするよう言われたが、しまう場所も限られているため仕方なく巾着袋に入れた。


 「それで、メルお嬢ちゃんの件だが。彼女は2日後の昼頃、ボン爺の店で、だそうだ」


 ギルドの外にでてすぐにギルが口を開いた。

 

 「了解、それと計画のことは?」


 「それはだな——」


 ギルが一つ咳払いを挟むと、代わりにウールが口を開く。


 「お前から聞くようにと伝えてある。さすがに姉と戦えだなんて俺らの筆談で言えることじゃない」


 ということはまだ言っていないのだ。あくまで俺が何かしらの作戦があるから来てくれと伝えたのだろう。


 昨日の夜は、疲れからか深く考えていなかったが、このような大事なことを断りにくい筆談で聞くのは良くない。

 直接俺の口から言わなければいけないことだ。


 「だよな。俺から言うようにするよ。それと、昨日から色々と世話になった」


 俺は改めて礼を言った。


 この二人には詰みかけた所を助けてもらったのだから、感謝してもしきれないほどだ。

 もし声を掛けられていなかったら、今頃はあのジンとかいう男に洗いざらい話してしまっていたか、食べ物を恵んでくれる家を探していたかもしれない。


 「いいってことよ!また困ったことがあったら、ここに来れば大体いるぜ!」


 もう何度見たか、というサムズアップと共にギルが歯を光らせながら言った。それからギルは手を腰に当て、さらに続けて口を開く。

 

 「それと、もしメルお嬢ちゃんが姉貴と戦うことになったら教えろよ。応援しにいくからよ!」


 「ああ、連絡するよ。それじゃあ二人とも元気でな」


 俺は二人に手を振ると、ウールは腕を組み

 

 「あんまり危ない橋を渡るなよ。あとお前もっと筋トレでもしろ、すぐ死ぬぞ」


 と俺の心に突き刺さる別れ文句。

 

 俺は苦笑いをしながら手を振り、少しずつ歩き始めた。

 ギルは『また会おうぜ』と言いながら手を振っている。


 別れを惜しみつつも俺は二人に背中を向け、少しずつ離れていった。

 またいつでも会えるので、悲しいという気持ちは無い。



 それよりも、まずは人生初給料が嬉しいのだ。労働の対価にお金をもらい、そのお金を自由に使う。これが働いたことのない高校生である俺にとってどれほど憧れていたことか。


 俺は巾着袋を開け、中の銀貨をまじまじと眺めた。

 銀貨の神々しさに目がくらみそうだが、それよりも腹の虫がうるさいほどに鳴いているためそれを抑えなければならない。


 やはり朝がパン一つなので、昼頃まではもたなかったのだ。


「まずは、腹ごしらえだ」


 町の大通りまで出た俺は、食べ物を提供してくれそうな店を探し始めた。

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俺だけがステータスを確認できる世界 小山シオン @k-shion0222

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