第15話 傾向と対策
「えと、つまりどういうことだってばよ?」
ギルが頭をポリポリと掻いている。意味が分からないという表情だ。
「メルと姉で戦ってもらう。一騎打ちだ」
俺がそう言うと、ギルとウールは目を見合わせ、
「はぁ!?」
と同時に言った。
いきなりそんなことを言っても理解されないかもしれないが、これが最善だと思っている。
「メルお嬢ちゃんに戦わせるのかよ」
「お前、結構酷なこと考えるな」
ギルとウールが口々に色々と言っているが、もちろん俺も考えがゼロなわけではない。ほぼ直感ではあるが。
「まあ待て、適当に言っているわけじゃないんだ」
俺はいったん二人を落ち着かせる。
「姉のメルへの執着を打ち砕くために必要なんだ。メルが直接倒せば、姉よりも実は優れていることが証明される」
ギルは俺の言葉を聞き、首をかしげる。
「それって……メルお嬢ちゃんが勝つ前提じゃないか? そもそも姉に勝てないから酷い扱いを受けているんだろ?」
確かにギルの言う通りではあるが——
「メルは想像以上の潜在能力を持っている。自分で気づいていないだけかもしれない。姉に戦闘で負けるとは思えないんだ」
メルはかなりの種類の氷結魔法を所持していた。あれだけの魔法を扱える人間が弱いはずがない。魔力も最大値を見ていないため、底がわからない。
ただ心配要素は、姉のステータスを確認していないということだ。この依頼中に、なんとかステータスだけでも確認しておきたい。
「とはいっても姉の強さもわからないだろ。メルも簡単に首を縦に振るとは思えんしな」
「まあそこら辺は俺がなんとかする。ただ、これは一度きりのチャンスだと思う」
もしメルが姉に負けてしまったら、二度と解放のチャンスが訪れないかもしれない。姉がメルよりも上であると確定しまうし、姉や両親の扱いはより酷くなるだろう。
ウールの言う通り、メルもこの話を聞いて簡単には「うん」と言えないだろう。俺もかなり気が引ける提案だ。しかし、この状況を打開するためにメルの力は必要不可欠。俺たちだけではどうにもならない部分もある。
「その通りだな、負けたら終わりだ。だがそんな危険な賭けにでる必要はあるのか?もっと平和的というか……なんかあるんじゃないか?」
ギルが身を乗り出して口を開く。
「俺も同感だ。他の策を試してからでもいいだろう。いきなりこんな賭けにでるのは危険すぎる」
ウールもギルに賛同している。
こうなるのも無理はない。だが他に根本的な解決法はあると思えないのだ。
「それにだ。姉がじゃあ戦おう!とはならないと思う」
ウールが続けて言うが、これに関しては筆談の内容を見る限り問題は無いと思う。
「メルの姉は、彼女より優秀であるという優越感に浸っている。親もそれを疑っていもいないだろう。それを逆手に取るんだ」
「と、いうと?」
ギルがさらに身を乗り出す。
「つまりだ。姉はメルとの一騎打ちを断れない。断るということは、負けを認めて逃げ出すということだからな」
ギルが乗り出した体をもとに戻し、ウールの顔を見る。ウールは少しニヤッとして
「お前、さては性格悪いな?」
と言った。
「でもな、やっぱりこの策はリスクが大きすぎる。俺たちが口出しすることではないかもしれないが、一度話しを聞いてしまったからな。無関係というわけにはいかん」
と、ウールが続ける。
俺個人としては、メルの能力を見ているから勝つ確率は高いと思っている。だが二人は知らない。
ステータスの存在を隠しつつ伝える必要がある。
「メルは氷結魔法のかなり高位の魔法まで使える。おそらくこの前の魔法以上のだ。あれで落ちこぼれと言われる筋合いはないし、姉にだって勝てる」
「え、あの時以上の魔法があるのかよ。それでも姉は落ちこぼれ扱いしてくるのか」
ギルが驚きの表情を見せる。
「そうだ。それに他の方法で解決しようとしても、姉が妹より上だと思っている事実は変わらない。これは根本的に覆す必要がある」
「俺は責任を持てない。が、確かに言われてみればその通りだ。他のどんな解決法を探しても、根本的に解決したとは言えない」
ウールがそう言うと、ギルも大きく息を吐いて
「そうだなー姉の気持ちをへし折らないと意味が無い。その通りだ。だが今すぐに、というわけにはいかないだろ?」
「もちろんだ。姉と戦うために、相応の準備が必要となる。メルに確認しておきたいこともあるしな」
帰りの馬車でこのことを、筆談でメルに伝えてもらうつもりだ。
加えてメルの外出期間に会う約束もとりつけてもらおう。
そして俺は姉のステータスを確認する必要がある。その機会が訪れることを願うしかない。
「準備って?」
ウールが首をかしげる。
それに対し、俺はギルばりのサムズアップでこう言った。
「それはお楽しみ。強いて言うなら……そうだな。傾向と対策だ! 」
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