第14話 三度目の起床
「ここは……」
俺は本日三度目の起床。
一瞬何をしていたかを忘れ、癖でスマートフォンを探したがあるはずもない。
ここはボン爺の店とは違い、不思議な匂いはしない。
天井を見る限り木造建築で、背中の感触的に悪くないベッドだ。
いったん記憶を整理しよう。
俺はウール、ギルの依頼を手伝って馬車に乗った。そこでグレートリスの襲撃を察知して、メルの助けもありこれを討伐。
気づいたら眠りに落ちて今に至るという感じか。
俺が建物内にいるということは、寝ている間に依頼が完了してしまったのか?
「おーい起きたかー?」
部屋の扉の外から、ギルの声が聞こえた。ふと扉のほうを見ると、ベッドが三つある広い部屋であることに気づいた。
「今日お前を運んだのは二回目だ、金払え」
扉が開くと同時に、ウールの声も聞こえた。
俺が起きていると気付くと、すぐにギルが駆け寄ってきた。
「急に寝ちまうからびっくりしたぜ!まああの後魔物に襲われずに、無事にエルグラントへ到着した。だから安心しろ、依頼の半分は終わった」
そうだった。依頼は行きと帰りの護衛だ。
俺が寝てしまったのは、おそらく体力の限界。スライムに襲われボン爺の店やギルドに行き、二人の戦闘技術を見た後に護衛任務。人生で一番忙しい日かもしれない。
「ああ運んでくれて助かったよ。毎回迷惑かけて悪い」
と言って俺は体を起こした。
「いいってことよ! グレートリス戦だって、お前の知識が無かったら多分負けていたしな」
ギルはお得意のサムズアップ。
俺のステータス確認も役には立ったと思うが、メルの助けが大きかった気がする。
「——メル。メルはどうなった?」
寝起きで忘れていたが、メルを助けようとなったはずだ。今、三人がここにそろっているということは、メルはフロスト家のもとにいる——
「メルお嬢ちゃんは、フロスト家と共に今夜のパーティーだそうだ。そのためにここへ来たらしい」
パーティーか。貴族ならよくやることだろうが、落ちこぼれと酷い扱いをしている娘も連れて行くものなのか。
そもそも落ちこぼれの娘なら捨ててしまうという考えはないのだろうか。
「フロスト家にとって、パーティーにメルは必要なのか? 落ちこぼれの娘という扱いなら、他の貴族に見せたくないと思ったんだけど」
俺の疑問を聞くと、ギルは俺の横のベッドに座り口を開いた。
「そこも含めて、筆談の内容を伝えるよ。お前が寝ている間も結構話せたしな」
それからウールもギルと同じベッドに座り、筆談の内容について話し始めた。
まずは今のメルが置かれている状況だ。
メルが猫のたとえ話でしたように、落ちこぼれとして酷い扱いを受けている。
話かけても無視され、都合のいいときだけ話しかけられる。
ご飯は一日二食で、基本残りもの。最悪忘れられて、一食ももらえない日があるらしい。
また、外出を咎められることは無いということだ。これはメルに生き延びる能力が無いため、逃げられないと思っているからだろう。
それを利用して森で植物を採取。それをボン爺の店で売って、食べ物や服などの与えられない分を補充しているらしい。住処さえあれば十分に一人暮らしができそうだ。
また使用人と名乗っていたのは、あのエドワルドという男の指示であった。貴族以外と会う時はそのように名乗らせているらしい。
そして、パーティーにメルが連れていかれる理由だ。
メルにはやはり姉がいて、彼女と比べられることが多いらしい。
姉は出来が良く、何一つ勝てるところが無い、とメル本人は思っているようだ。
あの氷結魔法の種類の多さを見る限り、戦闘能力は高い気がするが。
そして姉は、妹と比べられることで優越感を感じている。
他の貴族たちには自分の凄さと、メルの無能さをよく語っているとのことだ。
姉はかなり性格がねじ曲がっているようだ。
おそらくパーティーにメルを連れていく理由がこれだろう。
貴族が集まる中で、私はこの子よりも優れている。と語り歩くのだ。
そんな生活が長く続き、メルは心身ともに疲れ切っているという。
おおまかなメルの状況についての話はこれくらいだ。
そして、筆談の中でギルとウールが考案した解決策だ。
まずは強引にメルを連れ出して逃げる。これは姉が一番許さないことだろう。自分が優越感に浸るための道具がいなくなってしまうのだから。
貴族ならばある程度のネットワークがあるはず。逃げ切れるとは思えないし、ここまでギルやウールを巻き込むわけにはいかない。連れて行くのはあくまで俺ということになる。
ということでこれは却下した。
次に俺たちが交渉するというものだ。
ただ、何もなしにメルを解放しろというのは無理だろう。だからと言ってお金で解決することもできない。
それに、そんな解決法はメルが望まないはずだ。
ということで却下。
「まああれこれ出たけど、やっぱり難しいな」
ギルが腕を組みながら言った。
「でも俺が言い出したことなのに、こんなに考えてくれるのは本当にありがたいよ」
「お前が文字を読めないし書けないからな。結論はお前が出せ。それが言い出しっぺの役目だ」
ウールが少し顔を赤らめながら言った。
二人が考えてくれたことはありがたいが、結局どうすればいいのかが難しい。
問題点はどう連れ出すか、と連れ出した後だ。
連れ出した後はどうとでもなると思ったが、追われることなく連れ出すことが難しい。
特に、姉がメルを必要としている間は無理だろう。
メルが必要な理由は優越感に浸るため……。
そうか。考える必要もない。簡単なことじゃないか。
「正面突破だ」
ギルとウールのきょとんとしている顔を見ながら続ける。
「メルが、その姉とやらを正面から倒してしまえばいい。本当はどちらが上かを証明するんだ」
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