第11話 思わぬ援護

 何が起こった? 背中に植物の温もりを感じながら状況を整理する。


 俺は確かに風属性の巻物を投げた。しかしそれを察知したグレートリスが俺に目標を変えて突進し、突き飛ばした。


 結局巻物の魔法ははずれ、グレートリスに有効な風属性の巻物は残り一つ。水属性の巻物は何事もなく当たったために、察知できないものだと思っていたのだが。


 当のグレートリスは背後から攻撃を仕掛けたギルと交戦中。ウールは隙を見て闇属性魔法を放っている。


 俺も全身の痛みをこらえながら立ち上がった。


 「大夢! リュックの中の黒い薬を飲め! 」


 グレートリスの攻撃を避けながらウールが言った。


 俺は急いでリュックの近くまで戻り、中を漁った。中には小型の剣や衣服など、様々なものが入っていたが、何やら怪しげな容器があることを発見した。


 「これ絶対にボン爺の薬だろ」


 見覚えのあるどす黒い色。この効用を知らなければ、誰も買う人はいないだろうというほどの匂いと味。だが俺はボン爺の薬に一度助けられている。

 俺は一瞬の躊躇いもなく手のひらサイズの容器のふたを開け、喉に流し込んだ。なるべく舌に触れないように……。


 だがこの薬は変な味や風味も無く、むしろ爽やかな口当たりである。


 「逆に心配になるな」

 

 そうは言ったが、薬の効果は上々である。全身の痛みは嘘のように消え、力がみなぎってきた。


 「今ならグレートリスくらい殴り倒せそうだ!」


 と、元気に立ち上がったが


 「バカ言うな。タイミングを見計らって、一番効く巻物をぶち込むことだけに集中しろ」


 と、近くまで来ていたウールに聞かれていた。

 

 俺は冷静になって、いくつかの巻物を手に持った。風属性、水属性、そして光属性魔法の巻物を一つずつ。


 「グレートリスは風属性に弱い。あと一つしかないから絶対に当てる必要がある」


 「だが奴は攻撃を察知するんだろ?拘束できればいけそうだが」


 ウールの言う通り拘束してから確実に当てるのがベストだ。だがそんな手立ては思いつかない。

 

 「とりあえずギルが囮、ウールと俺で攻めるのを続けるしかない。消耗戦になるがいずれは倒せる」


 だよな、とこぼしてから、ウールは再びグレートリスへの攻撃を開始した。


 俺も手始めに光属性の巻物を投げる。が、グレートリスがこちらに向かってくるそぶりはなく、ギルと交戦中である。


 天から現れた光の柱がグレートリスに直撃し、一瞬動きが止まる。


 「助かったぜ!」


 ギルがそう言って、いったん距離をとる。


 今回は巻物攻撃を察知するそぶりをなぜか見せなかった。あまり敵意を持っていなかったのだろうか。何にせよ魔法が直撃したのはかなり大きい。


 グレートリスの生命力を確認すると、27であった。なかなか倒しきるのは難しいようだ。


 「ギル、この巻物の魔法ってあんまり強くないのか?」

 

 ギルは頭をポリポリ搔きながら、


 「あーいいやつは高いんだよ。ほら、わかるだろ? だから安い巻物だけど我慢してくれ」


 と言った。


 巻物の相場とかは知らないが、ポンポン買えるなら皆買うだろう。一冒険者が持っている巻物は、基本安くて弱い魔法ってことだ。


 こうなるとやはり風属性の魔法を当てるしかない。

 拘束できる魔法の巻物とかは無いのだろうか。


 そんなことを考えているうちにグレートリスが攻撃を再開した。すぐさまギルと交戦し、ウールが魔法を放って気を引く。そこに俺が巻物の魔法を放つが、今度は当たらない。

 グレートリスは、俊敏な動きでウールと俺の魔法を避けてギルを攻撃している。さすがのギルも、体力に限界が来ているようだ。


「そろそろまずい……ッ!」


 徐々に押され気味になり、ついにギルが片膝をついた。


「まずい、もう……!」


 俺はグレートリスの気を引くためだけに、最大限の敵意を向けて風属性魔法の巻物を

 投げようと振りかぶる。


 だがその瞬間にグレートリスが向きを変えて俺——ではなく、俺とウールの間に突進し始めた。


 「——エターナルフリーズ」


 どこからか美しい女性の声が聞こえた。その声の直後には、グレートリスの足元が凍り付き、身動きが取れない状態となっていた。


「今だ!」


 ウールの声と共に、俺は風属性魔法の巻物をグレートリスに向けて投げた。


 身動きが取れなくなったグレートリスを中心として竜巻が発生し、その体を飲み込んでいった。


「ギャアァァァァァ!」


 というリスとは思えぬ声を出しながら、グレートリスは倒れた。


 生命力を確認すると0である。見事に討伐成功だ。


 氷結魔法を放った声の主のほうを見ると、先ほど荷台に乗っていた少女が立っている。やはりメルだ。だがなぜここに来たのだろうか?


「君は……!?」


 ギルは驚きの表情を見せる。


 「ご主人様に、時間がかかっているようだから様子を見て来いと言われたので……」


 ギルに対し、メルは微笑みながら言った。


 「そうは言ってもこんな魔法を使えるのかよ……」


 確かにメルの魔法は的確に、グレートリスの動きを奪った。しかも俺たちに当たらないよう、少し威力を抑えたようである。


 ステータス画面で氷結魔法の詳細を見ていないからわからないが、よほど高位の魔法なのだろうか。


 「では戻りましょう。ご主人様がお待ちです」


 メルは半回転し、馬車のほうへ戻ろうとしている。


 だがここで戻っていいのだろうか。

 メルはフロストの性を持ちながら、なぜか使用人を名乗っている。さらにステータス画面でも無職と表示されている。


 これはウールが言っていた、落ちこぼれの娘に酷い扱いをしているという話の通りだ。メルのことで間違いないだろう。


 俺は、意を決して口を開いた。


 「君、本当に使用人なのか?」

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