第10話 グレートリス

 俺たちの馬車は、森の踏み固められた道を走っていた。だがグレートリスは道から外れた、木々が立ち並ぶ場所から来ている。


 ウールの背中を追って走るも、道が整備されていない上に重いリュックを背負っているため、かなり体力が奪われる。

 

 俺がなんとか二人に追い付いたときには、すでにグレートリスとの戦闘が始まっていた。そこは少し開けた場所で、剣を振り回すことも容易い。


 「でやあぁぁぁぁぁぁ!」


 ギルが助走をつけて剣を振りかぶる。しかしその剣は、グレートリスの脳天に直撃することなく、腕で跳ね返されてしまった。

 

反動でよろけたギルに、すかさずグレートリスが飛び掛かる。剣でなんとかガードするも、剣を弾き飛ばされしりもちをついた。


 とどめを刺そうと腕を振り上げたグレートリスは、くるりと向きを変えウールに向かって走った。


 「くそっ何でばれた」


 ウールはファイアーボールを撃とうとしていたのだが、グレートリスの突進を避け不発となった。


 「おい、何か策はないか。ギルの剣が通らないなんてことは初めてだ」


 俺は感じたことのない緊迫感に押しつぶされそうだった。だが攻撃を避けた際に隣に来たウールの言葉で自分のすべきことを思い出す。


 グレートリスの詳細を知っているのは俺だけだ。前にグレートリスのステータスを見ておいてよかった。

 

 俺がグレートリスに意識を集中させると、先ほどのメルのようにステータスが表示された。一度みた種族の魔物も再び見ることができるようだ。

 

 しかしその数値に違和感があった。前は耐久力の数値が20と少し程度であったのだが、このグレートリスの数値は45だ。しかし魔力の数値が50くらいであったはずが30ほどまで減少している。


 個体差があるのかなど、この世界の魔物について詳しくないが、今はこの数値に従って考えるしかない。


 耐性やスキルについては変更が無い。先ほどのウールの攻撃に気づいたのは、おそらくメルと同じ危険察知のスキルだろう。


 そうなると——


 「ギル! こいつを何とか引き付けてくれ。剣で倒そうと思う必要はない!ウールの魔法と俺の巻物で攻める!」


 ギルを囮にしてウールが仕留めるのがベストだろう。俺も巻物の魔法で援護すれば、危険察知も少しは惑わせられる。


 「それと、こいつはおそらく敵意を感じ取れる!」


 「なるほど、刃が通らないなら試してみる価値はある」


 ウールはそう言って、俺とグレートリスを挟める位置に移動し始めた。


 それを見たグレートリスがウールに攻撃を仕掛けようとするも、ギルが剣で斬りかかる。危険察知によって攻撃対象をウールからギルに変更。ウールはグレートリスを挟める位置にまで移動することができた。


 「よっしゃあ、頼むぞふたりとも!」


 ギルがグレートリスの猛攻をなんとか剣でしのいでいる。

 その隙に俺はすでに取り出していた数枚の巻物を見た。


 「炎っぽいマークがついている。これは……多分水。この竜巻っぽいのは風かな?」


 巻物にはそれぞれマークがついていて、手に持っていたものは炎、水、風属性

の魔法だと思われる。


 グレートリスは地属性、炎属性に強く風属性に弱い。ならば——


 「ウール、こいつは炎属性魔法に耐性を持っている! できれば闇属性で攻めてくれ! 」


 それを聞いたウールは親指を立ててオーケーサイン。だがグレートリスはスライムと違って闇属性に弱いわけではない。苦手と言っていた闇属性魔法で倒しきれるかどうか。


 そこで重要になるのは、おそらく風属性の巻物だ。


 俺は急いでリュックを下ろし、残っていた巻物を確認した。風属性の巻物は全部で2つだ。これを有効に使わなくてはならない。


 その間に、ウールがダークミストを放っているのが見えた。グレートリスは、互角の戦いをしていたギルから離れ、ウールに向かっていく。


 突進してくるグレートリスにダークミストが炸裂するも、あまり効果が感じられない。

ギルがグレートリスに向かって注意を引こうとするが、ウールを完全にロックオンしている。


ひるむことなく突進するグレートリスに向けて、俺は咄嗟に手元にあった巻物を投げた。


 初めて巻物を使うため本当に魔法がでるのか不安であった。だが放り投げられた巻物は空中で開き、片端から徐々に消えていった。その間およそ一秒くらいである。巻物が消えた直後、グレートリスに大量の水が降り注いだ。


 「よし! 巻物は使える」


 その効果よりも、想像以上に本格的な魔法が出ることに喜んだ。これなら俺でも戦力になれる。

 

 水を食らったグレートリスはいったん動きが止まり、その間にウールはギルの隣に移動した。


 

 グレートリスは二人のほうを向き、赤い目を光らせ唸っている。

 俺はその隙にグレートリスのステータスを確認した。


 「生命力は35か。想像以上に残っているな」


 ギルの剣があまり効かない以上、倒しきるには時間がかかる。それまでは特にギルが耐えられるかがカギだ。しかしギルの様子を見るに、かなり疲弊している。

  

 彼の剣がことごとく腕で跳ね返されているのだ。体力の消費はいつも以上に激しいのだろう。


 それならば早めに風属性の巻物を使ったほうがよさそうだ。


 グレートリスが二人に向かって走り始めたのを見計らって、俺は風属性魔法の巻物を投げた。


 「二人とも避けろ! 」


 二人は左右に飛んで避けた。その間に、突進しているグレートリスに巻物の魔法を当てる算段であったが、途中で急旋回。巻物が手から離れた頃には、グレートリスは俺の目の前にいた。

 

 巻物から放たれた魔法は竜巻を発生させ、辺りの草木を巻き上げている。


 「はずした……!」


 そう言った直後、俺は強い衝撃と共に地面に横たわっていた。

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