第9話 接近する魔物
俺、ウール、ギル、そしてメルに似た少女を乗せた馬車が出発してから、10分ほどが経過していた——
荷台の馬車が先頭、それにフロスト家の馬車が続いている。今は何事もなく草原を抜け森を走っているところだ。草原にはスライムがいるのだが、馬車のスピードに追い付くことはできないため気にする必要はないらしい。
「今のところは異常なし…と」
ギルが剣を磨きながら鼻歌を歌っている。
まずは順調な滑り出しをみせていることを、俺も喜ぶべきだろう。
「この森ってどんな魔物がいるんだ?」
俺の知っている魔物はスライムとグレートリスの二種だ。他に魔物が存在するのなら知っておいて損はないだろう。
「そうだな、俺の知っている限りではまずグレートリス。それとマジカルドッグにゴブリンとか…あと名前は知らないが飛んでいるやつもいるな!」
かなり物騒な名前が並んでいる。その中でも一番どうしようもない魔物は、おそらく飛んでいるやつだ。空から来られては剣も届かない。
「でも安心しな!こちらから仕掛けなければ、基本的に襲ってくることは無い奴らだ。俺が保証しよう!」
ギルはお得意のサムズアップ。
ギルの言う通りなら安心だ。グレートリスのような足の速さの魔物に襲われたら逃げ切るのも困難だ。人類最速の男が全速力で追いかけてくるなんてまっぴらだからな。
「もし襲われてもギルとウールが追っ払ってくれるから安心だな」
「大夢はいざという時に荷物もって逃げんなよ?」
ギルが俺の背中をポンポンと叩く…が、力が強いのか痛い!早くステータスを確認してそのパワーの数値を拝みたいところだ。
そう思ってギルの顔を見ると、その視線の先にいる少女が右手の人差し指で、壁のほうを指している様子が見えた。
少女は俺の顔を見て何やら口を動かしている。
口の動きだけではわかりにくいが、「あ・お・お・あ・う・う」というような動きをしている気がする。
何を伝えようとしているのだろうか。繰り替えし同じ口の動きをしている。表情もかなり真剣で切羽詰まったような表情だ。
その少女に意識を強く向けていると、目の前にあのステータス画面が現れた。
「でた…」
うっかり口にしてしまったが、二人は笑って
「なんだ幽霊でもいたか?」
と茶化すだけであったのでほっとした。
そのステータス画面は見覚えのあるもので、名前はメル・フロストと書いてある。やはりこの少女はメルであった。なぜステータスが表示されたのかはわからないが、おそらく一度見たものはもう一度表示できるのであろう。
ふと俺の目に入ってきたのは、使用可能スキル『危険察知』である。
もしかしてこれを利用して何か危険を伝えようとしているのではないだろうか?
もう一度少女の口を、目を凝らして見る。
「ま・も・の・が・く・る…魔物が来るってことか!」
「おい、今なんて言った?」
つい口に出して言っていた言葉に、ウールが嚙みついた。
メルは危険察知で魔物の気配を感じたのだろう。これに関してはギルとウールに伝える必要がある。
「魔物が来るって言ったんだ。少し気配を感じて…」
メルと知り合いであることはなるべく知られないほうがいい。それはメルもわかっているのだろう。だから俺に口パクでこのことを知らせたのだ。
「そんなことができるのか。わかった、少し外を見てみよう」
ギルが立ち上がり、荷台の後ろ側から身を乗り出し上に登った。
「ちなみにどの方向から感じたとかわかる?」
荷台の上からギルの声だけがした。
もう一度メルを見ると、俺から見て左手をずっと指している。おそらくこれは魔物のいる方角なのだろう。
「進行方向からみて左手だ」
「りょーかい!」
荷台の上から、俺たちに見えるように腕をおろしてまたもサムズアップ。索敵はギルに任せて大丈夫だろう。
しかしギルの話によると、仕掛けない限りは魔物は襲ってこないはずだが、メルによると魔物が“来る”と言っている。何か理由があるのだろうか?
「おい二人とも!グレートリスが一体向かって来てるぞ!完全に狙われているみたいだ」
ギルのかなり焦った声が聞こえる。
「一回馬車を止めたほうがいいかもしれん」
ウールもそう言って荷台の後ろから身を乗り出す。
「魔物が接近している!一回馬車を止めてくれ!」
ウールがそう言うと後ろの馬車が減速し、直後に荷台の馬車も減速を始めた。
急に減速を始めたので、身を乗り出していたウールは少しバランスを崩したが、すぐに立て直している。そしてすぐに
「おい、そのリュック持って降りろ」
と言って、ウールはほぼ停止した馬車から飛び降りた。
馬車が完全に停止したのを見計らって、俺もリュックを背負い馬車を降りる。重みからすこしよろけたが、転ぶほどではなかった。
グレートリスの動向を見ていたギルも荷台の上から飛び降り、剣の柄に手をやる。
「馬車に近づきすぎる前にこっちから行くしかねえ!」
そう言って剣を抜き飛び出していった。
「大夢、リュックの上のほうに巻物が入っている。まあ知っているかもしれんが、それを対象に向かって投げると記録されている魔法が発動するってやつだ。護身用に持っておけ」
今度はウールもギルに続いてグレートリスが向かって来ている方向に走っていく。
俺も急いでリュックを下ろし、巻物を取り出した。
こんな便利な代物があるなら先に言っておいてくれよ…
そう思いながら、再び重いリュックを背負ってウールの後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます