第6話 雷

 「弱点を知るのは大事なことだ。その点、剣でスライムに立ち向かっているギルは非効率的だな」


 前方で数体のスライムを相手に剣技を披露しているギルを見ながら俺は言った。

 しかしギルの剣の腕は確かなもので、攻撃を一発も食らうことなく倒してみせた。


 「おーい見てたかー。結構倒したぞ!」


 スライムを倒し終えたギルが手を振りながら走ってくる。

 仕方なく手を振り返すと満面の笑顔だ。


 「どうだ?俺の剣の腕は」


 息を切らしながら膝に手をつき、達成感に満ち溢れた表情で聞いてくる。


 「ま、まあ凄かったよ剣の腕は」


 「こいつ曰く剣でスライムを倒すのは馬鹿のやることだってな」


 と言ってウールが口角を少し上げてそっぽを向いている。一瞬、ウールもこんな顔もできるんだなと考えたが、


 「おいそんなこと言ってない!ギル!本当だよ!」


 ギリギリでツッコミ成功。しかしギルは


 「ひどいじゃないか大夢。ウールは嘘をつかないぜ」


 とにっこり。普段の信頼を利用した悪質な冗談じゃないか!


 「でもいいとこついてるな、大夢。確かに俺よりもウールのほうがスライムを素早く倒せる。だがな、森の中には俺のほうがさっさと倒せる魔物が多い。見せてやるからついてこい!」


 そう言って今度は森に向かって走っていった。

 

 森には耐久力が低い魔物が多いのだろうか。経験から魔物に対するある程度の知識はあるようだ。


 ウールはため息をつきながらも「いくぞ」と言って歩き始めた。


 「そういえばもう一人仲間がいるって言ってたよな」


 先に行ったギルを追いかけ、ウールと共に歩いていた俺はふと疑問に思った。この二人に割って入れる仲間がいるのだろうか、と。


 「ああ、アイラという女だ。治癒魔法を得意としている。性格は…そうだな、ギル寄りだ」


 なるほど。これはウールがいないと成り立たなそうなパーティーだ。ウールも苦労してるんだなとウールを見つめていると、


 「何見てんだ気持ち悪い」


 と睨まれてしまった。


 二人が森に入ると、ギルが剣を構えているのを発見した。


 「おいギル、今度は何と戦ってるんだ」


 ウールからの問いかけに、ギルは顔をピクリとも動かさずに答えた。


 「おう、グレートリスだ。こいつは戦ったことはあるんだが毎回苦戦している。やばそうだったら助けてくれよッ!」


 ギルは体長1 mを超える、リスに酷似している魔物に突撃していった。ギルが切りつけるも、体毛が固いのか刃が通らない。

 

 とりあえずステータス確認をしよう。


 種族: グレートリス

 

 生命力:55

 魔力 :52

 パワー:38

 俊敏さ:152

 耐久力:23


 使用可能スキル/魔法: 危険察知 

 耐性: 地属性◎ 炎属性〇 風属性×


 生命力、魔力共にスライムの比じゃない。特に俊敏さが高いのは面白い。リスがそんなにも速いイメージは無いのだが。

 

 しかしグレートリスを見ると、体長が1 mくらいある。これは通常のリスの5倍ほどの大きさだ。

 通常のリスは時速約9 kmで木の上を走れる。単純に五倍すると時速約45 km。これは人類最速の男よりも速く100 mを走れる!かなり厄介だ。s

 

 それに風属性×か。ウールは炎属性と闇属性、俺はなにも使えない。ほかに使える人は…。

 剣で戦っているギルを見ると、ギルのステータスを確認し忘れていたことを思い出した。


 そうか、ギルがもしかしたら使えるかもしれない。


 「ステータス」


 心の中でそうつぶやくと、頭に雷が落ちたような衝撃を感じた。


 痛い痛い痛い痛い痛い——


 中から脳をえぐられるような不快な感覚。言葉では言い表せないほどの痛みに、声にもならない音を出し、その場に座り込んでしまった。


 「おい!大夢!どうした!」


 「大夢⁉ぐはッ…ちょっとリスさん待ってくれよ」


 「ギル、どうする?戻るか?」


 「だな。グレートリスは俺が見る。ウールは大夢を運んでくれ!」


 二人が遠くで何かを言っているが聞き取れない。周りは何も見えない。

 いったい何が起きたというのか。このまま死んでしまうのだろうか。


 そう考える時間も十分に与えられず、俺は深い闇の中に沈んでいき、そのまま気を失った。

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