第2話 ボン爺とババ様

 町に入った俺とメルはまっすぐババ様の所に向かう…のではなく少し寄り道をすることにした。

 メルが森で採取した植物や木の実を売るためであった。


 歩いているうちに町を観察したところ中世ヨーロッパ風であるのだが、それよりも少し裕福くらいに見えた。

 

 ——本当に異世界に来たんだな。でも異世界に来たなら俺にチート能力の一つや二つくれよ!


 そう。すでにステータスは見てしまった。あれが全てなのだ。年下の少女にパワー以外の能力すべてで負け、助けられた。恥ずかしいことこの上ない。何か隠しスキルみたいなものに期待するしかない。


 ため息をつく俺の横で、メルが少し速足になったことに気づいた。そこはちょうど町の中心部。人出が多く、店が多く立ち並んでいるところであった。


 「どうしたんだ?急に速足になって」


 俺が声をかけると、メルは少し下を向いて首を横に小さく振る。


 「ううん、なんでもないよ。気にしないで」


 なんでもないわけではなさそう、という気がした。

 よく周りを見ると、人々がこちらを好奇の目で見ている。


 俺の恰好が珍しいのだろうか。確かに中世ヨーロッパの世界観に半袖短パンのパジャマ男がいたら浮くに決まってる。

 早いところ着替えを買えるようにする必要がある。


 中央通りを抜けると薄暗い道に出た。

 こんな場所に店があるのだろうか。とあたりを見回すが、家が並んでいるようにしか見えない。


 「ここ、ボン爺の店。」


 メルが指をさした建物は植物のつたに覆われている物々しい建物であった。


 「ここ…なのか。なんていうかお化けでも出そうだな」


 「こう見えても、れっきとした店だよ!」


 メルは全く物怖じせずに扉を開け、中に入っていった。

 おそらく常連客か何かだろう。でないとこんな店にノータイムでは入れない。


 「ボン爺!今日も買取頼みます!」


 「おおメルお嬢ちゃん。と、そちらの若い男は誰かの?ついにデキたのかい?」


 店の奥に白髪のお爺さんが座っており、冗談を飛ばせるほど元気なようだ。相当年はとってそうだが。


 「違いまーす!」

 

 俺が口を開くわずか前にメルが切り込んだ。否定が激しい。


 「俺はメルさんに助けてもらってその…」


 「フォッフォッフォッ。メルお嬢ちゃんは強くなったからのう。まあ、早く入りなされ」


 店の中は不思議な匂いで充満していた。

 扉から入って正面に通路があり、その奥にボン爺が座っている。そのさらに奥には扉があるため、部屋あるようだ。

 通路の両側には何段もある棚に植物が展示されていて、おそらくこれらが商品なのだろう。要はファンタジーの世界でいう薬草を売る店のようだ。


 「ボン爺。今日はこれを買い取って!」


 「フォッフォッフォッ。大量じゃのう。」


 メルが買取をしている間、俺は店の商品を見て回った。

 どの商品の植物も色が暗く、とても体にいいものとは思えなかった。


 「これ真っ黒じゃねえか。こっちにはこんなのも売られてるのか」


 炭のように黒い植物も売られていた。まるで用途がわからない。


 しばらく時間がたって買取が終わったようだった。

 紫色の植物の匂いを嗅いでいた俺は、メルに手招きをされた。ボン爺のもとへ行くと、どうやらステータスのことについて話しているようであった。


「大夢君といったかのう。君は人の名前や能力を知ることができるんだって?」


「ええそうです。でもこれって皆そうなんじゃ—」


 話を始めるとボン爺の奥の扉があき、杖をついた老婆が現れた。腰が曲がっており、背丈は俺の腰ほどまでしかない。


「あらババ様!なぜここにいらっしゃるのです?」


 あれが噂の物知り、ババ様か。さすがに年齢は馬鹿にならなそうだし気になる!


ステータスを確認したいところであったが、俺の良心がまだ勝っている。レディーの年齢を勝手に確認するなどあってはならないのだ。


「なにやら面白い話が聞こえてきてねぇ。薬を作ってたんだが放り出してきちまったよ」


 年相応のゆっくりとした話し方だ。だが謎の包容力を感じる。年というものはここまで重みのあるものなのだろうか。


「ババ様はステイタスってご存じですか?」


 ステータスではなくステイタスと覚えてしまったようだが、あまり変わらないし訂正は後でいいか。


「ステイタス?とな?知らないねぇ。わっしが知らない魔法やスキルは無いはずだがねぇ」


 ステータスを本当に知らないのか?メルが全く知らない様子であったことに少し違和感があったが、その時はメルが何らかの理由で知らないだけだと思っていた。しかし魔法やスキルを熟知しているというババ様が知らないという。これはもう皆知らないってことになるのだろうか?


 「新しい魔法なのかねぇ。とても気になる気になる。一度わっしのステータスとやらを見てくれんかね?」


 「いいんですか?名前や年齢もわかってしまいますが」


 「何の何の。別に隠してるわけではないからねぇ」


 ババ様の年齢や本当の名前を知りたかったので許可をもらえたのはありがたい。遠慮なく見させてもらおう。


 「ステータス!」



 名前: ババ

 年齢: 145歳

 職業: 魔法書店店長


 生命力:3↓

 魔力 :5021

 パワー:1

 俊敏さ:1

 耐久力:1


 使用可能スキル/魔法: 火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 地属性魔法 光属性魔法 闇属性魔法 妨害魔法 鼓舞魔法 治癒魔法 その他 


 耐性: 無し


 状態: 魔王の呪い



 俺が声を出すと、今までと同じようにステータスが表示された。


 名前がババってそのままかよ。こんなことあるのか?そして年齢は当たり前のように地球の最高齢を超えてくる。

 生命力は3で下矢印がついてる。よくわからないがこれってまずい状態である気がする。

 魔力は飛びぬけている。さすがは知らない魔法は無いというだけある。


 そしてババ様の特徴的なステータスを見ていた俺は、メルや俺のステータスにはなかった欄が追記されていることを発見した。


「状態、魔王の呪い?なんだこれは」


 俺がふと口にすると、穏やかであったババ様の顔はみるみるうちに青ざめていった。

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