人間に捕まったおれは、段ボール箱の中に入れられて閉じ込められていた。重石をされているのか、箱の蓋はびくともしない。

 自力での脱出はあきらめ、わずかに空いている側面の小さな穴から鼻先を出す。草木が放つ緑の香りや湿った土のにおいがした。どうやらおれは、まだあの庭にいるようだ。

 屋内でなければ、なんとかこの箱から出られれば逃げだせる。そう、箱から出られれば──


「へへっ、あんたドジったね」


 箱の外から、誰かがおれに話しかける。穴から鼻先を引っ込めて外を見れば、声の主はさっき逃げた野良猫だった。


「おまえは……おい、なんとかしておれを助けてくれ!」

「助ける? そいつは無理な話だぜ。段ボール箱に乗っかってんのは、古新聞の束だ。とてもじゃないが、猫の力じゃ動かせっこねえぜ」


 なんてこった。聞かされた現状に、最悪な気分がより下向きになる。


「人間の金魚を盗んでいたのは、おまえなのか?」

「へへっ、まあな。ここは障害物が多いけどよ、理想的な餌場なんだ。なにせ、食べても食べても金魚が増え続けるんだからな」

「なに? そんなバカな話があるか!」

「本当だって。食ったら食った分だけ、場合によっちゃ、それ以上の数があそこの鉢に補充されるのさ」


 その話が本当だとしても、どこかしっくりとこなかった。

 消えてしまった金魚を人間が買い足したとしても、そう何度も同じことを繰り返すものなのだろうか? 野良猫による被害が頻発しているのなら、庭先でなく室内で金魚を飼えばいいはずだ。

 年配の男と若い女が揉めていたのも気になる。女のほうは動物に優しいだけかもしれないが、なにか引っ掛かるものがおれにはあった。


「おっと、人間サマのお出ましだ。じゃあな!」

「あっ、おい!」


 野良猫がいなくなり、程なくして庭先に姿を表したのは、人間の男の子と女の子だった。


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