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「まったく、思いがけない運動のおかげで、余計に体が暑くなっちまったぜ」
「どうしよう……あのおやっさん、うちの店に何度か来たことがあるから、きっと大将に告げ口するに違いないよ!」
涙目のサイモンが、痛めた後ろ足を一心不乱に舐めながら誰となく愚痴る。いや、おれに聞こえるように、わざと大声で独り言をしているのだろう。
「なんてこった、今度こそ追い出されちまう! ぼくは縄張り争いなんて一度もしたことがないから、どこにも行き場がないよ!」
「もうわかったから、静かにしてくれサイモン」
「それじゃあ肉三郎……」
「ああ、あの人間の誤解を解くのを手伝うよ。このままじゃ泥棒猫扱いで、おれまで毎日狙われ続けることになるからな」
待ってましたと言わんばかりに、両目を閉じるサイモンが喉を鳴らしながらおれの顔にすり寄り、頭を何度も執拗にこすりつけてくる。
「やめろって、バカ! 暑苦しいだろ!」
「へへへっ、嬉しくてつい。だけど肉三郎、誤解を解くったって、いったいどうするんだい?」
「先ずは……そうだな……あの家に戻る」
「ええっ?! しょ、しょ、正気なのかい!? さっきの様子じゃ、おやっさんは、ぼくたちを箒でボコボコにするつもりだよ!?」
「危険なのはわかってるが、情報が少ないからな。現場をじっくりと調べられれば、真犯人の尻尾を掴めるかもしれないだろ?」
おれの言葉に、サイモンが苦虫を噛み潰したような表情へと変わる。一緒には行きたくないと、無言の抵抗をしているのだろう。
「おまえまでついて来ることはない。おれだけで調べてくるよ」
それに、またトゲを踏んづけて鳴かれたら面倒だしな。
言葉の続きをのみ込んで、ふたたびおれは来た道を戻った。
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