第41話 騒乱のはじまり②

今回の作戦の簡単な流れとしては――


①アルフレッドが婚約者のルナリアを伴って神殿に訪れる。


②アルフレッドとルナリアは、イチャイチャで甘々なバカップルを演じて、案内役となるライオス神殿長やその取り巻きである神殿関係者の注意を引き付ける。


③その間にキースが主導となって、洗脳されている魔術使い達を安全な場所に移動させる。


④神殿の外に待機している、レオが率いるアルフレッドの先鋭部隊が、無力化された神殿長達を捕縛する。


――というものだ。


今までアリシテーニア王国は、洗脳された強力な魔術使いを側に置くライオス達に迂闊に手を出すことができなかった。

魔術使いと争う事態になれば、大勢の無関係な国民達を巻き込むことになる。大切な国民達が蹂躪されるのだけは避けたかったから、歯がゆい思いをしながらも堪え、機会を待つことしかできなかったのだ。

しかし、神殿内の好き勝手な振る舞いだけでなく、アリシテーニア王国の第二王子にまで手を出そうとしたライオス達に、遂に国側の堪忍袋の緒が切れた。

『二度と逆らおうとしないように徹底にやってしまえ』という王の言葉の元、アルフレッド達は動いている。



「これは我らが祀っている神々の像です」

腹黒狸親父の内の一人がそう説明した。


「まあ!とても素晴らしいですわ!こんなにも神々しい神の像を初めて見ました」

ルナリアは両手を合わせ、魅入られたかのように、神の像を見つめた。


「まるで神が目の前に降臨されているかのようですわ……」

「そうでしょう、そうでしょうとも」

ルナリアの反応に気を良くしたのか、ドヤ顔で頷いている。


……ルナリアの本心も知らずに。


神々の像は七色に光り輝くクリスタルで作られていた。一目で高そうなことが分かる。

……はっきり言って、無駄使いである。

神殿の中には、こんな風に無駄にお金をかけている所だらけだった。


『神殿はもっと質素な造りなのかと思っていましたわ』とルナリアが問えば、返ってきたのは『神々を祀る神殿をきらびやかにすればするほど、信仰の力が高まるのです!』と、よく分からない返事が返ってきた。

敬虔な祈りを捧げる神殿は質素であるべきとは言わないが、ゴテゴテな貴金属類が飾られた神殿は胡散臭さしか感じない。

自分達が私腹を肥やしている様子を隠すことなく、堂々と見せびらかしているのは……魔術使い達がいるから。

――つまり、国はどうせ何もできないと舐められているのだ。


「アルフレッド様もそう思われますでしょう?」

隣に立つアルフレッドの腕に、自らの腕を絡ませながら見上げると、アルフレッドは神々の像ではなく、ルナリアを見つめていた。


「ああ、いつ見ても私の女神は美しい」

アルフレッドは蕩けそうなほどに甘い笑みを浮かべる。


「ア、アルフレッド様ったら、私ではなく神々の像のことですのよ!?」

「仕方ないじゃないか。私の女神は君なのだから」

ルナリアの髪を一房掬ったアルフレッドは、その髪に口付けた。


「も、もう!」

アルフレッドの片腕を両手で掴み直したルナリアは、真っ赤になった顔をそこに埋めた。

演技だと分かっているのに、動揺してしまうのが悔しい。


アルフレッドの大きな手がルナリアの頭を撫でると

、生暖かい空気が、ルナリア達を包み込んだのを感じた。


ああー!恥ずかしい!

……でも、やらなきゃ!


――始め、ぽっちゃり令嬢のルナリアに向けられる視線は、『何でこの女が選ばれたのだ』と言わんばかりの、とても冷ややかなものだった。

折れそうなほどに細い女性を好むのは神殿も同じで、ルナリアはその真逆の体型だったのだ。


痩せて着飾ったルナリアに目を引き付けるという作戦も考えたが、これはアルフレッドだけでなくキースにも頑なに拒否された。

痩せる位なら連れて行かないと断言されたので、諦めた。……何故だ。


次に考えたのが、『ルナリアマスコット化計画』である。目指すはゆるキャラ!

その為には、明るく穏やかな笑みを常に絶やさないこと。

細かろうがぽっちゃりしていようが、愛想が良ければ、可愛いものは可愛いのだとルナリアは思っている。

ぽっちゃり体型を生理的に受け付けないという人以外ならば、どうにでもなる。何故なら人は絆され、情に流される生き物だから。


――それでも例外はいる。


微笑むルナリアの視線の先には、虚ろな眼差しのカミーユがいた。

その視線を向けられるだけで、背筋に鳥肌が立つ。

『何でお前がここにいる!?』という言葉が喉元まで何度も出かかったが、必死に飲み込んだ。


できれば他の魔術使い達と一緒にいて欲しいと願っていた。そうすれば、キースが安全に彼を逃したはずだから。

だが、ライオスは、カミーユを自分の元に置いた。

ライオスにとってのカミーユは、子供ではなく駒でしかない。


……あのまま二度と会いたくなかった。


「次はどこに案内していただけるのでしょうか?」

ルナリアは、敢えて人好きのする笑みを浮かべた。


……虚ろな視線を誤魔化す為に。

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