第14話 執着の理由②
「いい加減にするんだ!」
アルフレッドは苛立っていた。
堪え切れずに上げた怒鳴り声に、弟のノエルだけでなく、ルナリアもビクリと大きく身体を揺らしたことにアルフレッドは気付いた。
ノエルはよりにもよって、ルナリアへ暴言を吐いたのだ。可愛い弟だが、ルナリアのことだけは看過できない。
自分より五歳も下の弟の暴挙を諌めるのに、大人気なかったのは分かっていたが、いつも余裕のあるフリをしているアルフレッドでも、この時ばかりは自分を止められなかった。
――数日前。ルナリアへ自分の想いを告げた時、ルナリアは酷く動揺をしていた。
動揺だけでなく、微かな怒りが混じっていることにも気が付いた。
婚約した日のアルフレッド失言のせいで、ルナリアに好かれていないだろうとは思っていた。
その失言のお陰で今の可愛らしいルナリアになったことは嬉しい誤算だ。
余計なことは何も言わないルナリアの優しさに甘えて、今まで彼女の無遠慮に触ってきた。
最近ではアルフレッドが自由に触れても無反応だったルナリアが、想いを告げた後には、ちょっとしたことで頬を染めたり、抵抗したりと、自分を意識しだしてくれたことが分かって嬉しかった。
ルナリアは愛玩動物扱いされていると思っていたらしいが、アルフレッドはずっと愛を持って接していた。
ルナリアがアルフレッドの顔を気に入っていることにも気付いていた。
アルフレッド的には特に思い入れのない自分の顔でも、ルナリアが好きになってくれるのなら、存分に利用しよう。
この顔で見つめてドキドキしてくれるなら、何度でもする。
今、好かれていないのだとしても、これから好きになってもらえたら良い。
婚約をしている自分達にはまだまだ時間があると、アルフレッドは思っていたが――ルナリアは違っていたらしい。
ありのままの今のルナリアが好きだと言っているのに、何を思ったのか、急に『痩せようと思っている!』とルナリアが言い出した。
これは、今のルナリアが好きだと言っているアルフレッドから、逃げようとしているとしか思えなかった。
――そんなことさせてたまるか。
ルナリアはどこもかしこも柔らかくて、包み込むような彼女の優しさと可愛らしさに心から癒やされる。
王としての責務を果たす自分の傍らには、ルナリアがいて欲しい。
人々はもっとルナリアのように自由であるべきだ。
コルセットなんて必要ない。
痩せていようが、ふくよかだろうが、健康ならば何ら問題はないのだから。
趣味嗜好は人それぞれで、アルフレッドにとってのの理想がルナリアだ。
不健康に細い女性よりも、ぽっちゃりしているルナリアが良い。
……こんな風に思うアルフレッドを心から理解してくれるのは、この世界にはきっとルナリアしかいない。
ルナリアへの想いは純粋な愛情だけでなく、アルフレッドの抱える闇ともいえる執着が込められている。
だから……ルナリアを逃さないように。
アルフレッドがいないと生きていけないように管理し始めた矢先に、アルフレッドの方が忙しくなった。
毎日会いたいのに、会って確認したいのに、どうしてもオルステッド家に行くことが難しい日ができた。
どうしてもルナリアに会いたかったアルフレッドは、ルナリアが逃げられない確実な方法を選んで王城へ招いた。専属護衛騎士のレオを使ってまで。
王城に到着したルナリアを両手を広げて迎えに行き、膝に乗るのを嫌がるルナリアをどうにか丸め込んで膝に座らせ、ルナリアの為に特別に用意させた菓子を食べさせながら、ルナリアの柔らかさと、可愛らしい反応を楽しんでいる時にノエルが現れた。
アルフレッドが一緒にいるのにも拘わらず、ルナリアに好き放題言い始めた。
一体誰に吹き込まれたのか、ルナリアへ悪意を向ける弟と、悪意を向けられているのに笑顔で受け流してしまおうとするルナリア。
心なしか、ノエルの登場に喜んでいる節のあるルナリアにも苛立った。
――アルフレッドはルナリア愛しているというのに、ルナリアはアルフレッドの愛を少しも信用していない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。