捜査 ―2―

出来る捜査を

 小宮山達のいる現場を後にし、木場はひたすら公園内を直進していた。公園内は外から見るよりも広く、現場から離れるにつれて捜査員の姿は疎らになり、南北の通りと交差する十字路に差し掛かった辺りで1人も見えなくなった。時折寒風が思い出したように吹きつけ、木場はコートの前を合わせる。身体だけでなく、心まで凍えるように感じられるのは寒さのせいばかりだろうか。

「ちょっと、お兄ちゃん、待ってよ!」

 後ろから追いかけてきた茉奈香にコートを掴まれ、木場は立ち止まった。茉奈香は木場の正面に回り込むと、怒った顔で腰に手を当てた。

「何なのよあのオジサン! あたしのこと部外者呼ばわりして!」

「お前はどう見ても部外者だろ……」木場が頭を掻いた。

「違うよ! あたしには、お兄ちゃんの助手っていう立派な役割があるんだからね!」

「どっちにしても同じだよ。自分は捜査から外されちゃったし……」

「お兄ちゃんはそれでいいの? 今までだって勝手に捜査することあったんでしょ? 何で今回はそんな簡単に引き下がるのよ」

「いくら自分でも、刑事部長から直々に注意されちゃあどうしようもないよ」木場が肩を落とした。「それに、今まではガマさんがいたから多めに見てきてもらったようなものだし……」

「そのガマ警部さんがピンチなんでしょ!? お兄ちゃんが動かなくてどうするのよ!?」

 茉奈香がずいと木場に迫り、木場は思わず顎を引いた。

 もちろん、自分だってこのまま引き下がりたくはない。だがどうするのだ。まだ捜査も序盤で、関係者の情報もろくにわからない状況で撤退を命じられてしまった。こっそり捜査を続けるにしても、何から手をつければよいかわからない。

「何かないの? 警察が見落としてる情報とか」茉奈香がなおも言った。

「そう言われてもなぁ……」

 木場は困惑して辺りを見回した。近くに園内マップがあったので、傍まで行って現在地を確認する。

 木場達がいるのはちょうど公園の中央部分に当たる十字路だった。北側を見ると、管理人室と書かれた小屋の絵が描かれている。こちらでは管理人の事情聴取が行われているだろう。小屋の絵から視線を下げると、南側に『正門』と書かれていた。こちらからは後続の捜査員が派遣されてくるはずだ。そして西側にある小屋が死体発見現場。このエリアを調べられないのは言うまでもない。この状況で調べうる場所があるとすれば――。

「……東側かな」

 木場が呟いた。園内マップによれば、東側のエリアには大きな池があり、付近には鮮やかな花や木の絵が描かれている。春や秋には木々が色づき、風光明媚な様相を醸し出すのだろう。

 だが、枯れ木しか見るもののないこの時期に、わざわざ門から離れたエリアに足を運ぶ人間がいるとも思えない。言い変えれば、捜査は後回しになるということだ。

 何が見つかるとも期待できなかったが、木場は藁にも縋る思いでそのエリアに向かうことにした。


 十字路から10分ほど歩いたところで、木場は東側のエリアに辿り着いた。視界いっぱいに広がる池を眼前にして、背もたれのあるベンチが数台並んでいる。池の周辺には冬木立が生え、ベンチを包み込むように影を落としている。こんな寒空の下でなかったら、恋人達が肩を寄せ合うのにうってつけの場所だろう。だが、もちろん今は人っ子一人おらず、風が虚しく音を立てているだけだ。

「とりあえず来てみたけど……こんなところで何か見つかるのかな?」木場が首を捻った。「ここまで来るのに、現場の小屋から20分はかかったし」

「わかんないよ! 一見何にもなさそう場所の方が、重要な手がかりが見つかるって言うじゃない!」茉奈香が自信満々に言った。

「重大な手がかりって?」

「例えば……被害者の運転免許証とか、犯人の携帯電話とか、後は別の凶器とか?」

「そんなに上手くいくかなぁ……」

 木場はなおも首を捻ったが、何はともあれ捜索を開始することにした。

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