情報収集

「えーと……まず、死体発見時の状況を教えてもらえますか?」木場が今度こそ気を取り直して尋ねた。

「はっ! 死体が発見されたのは昨晩の22時半頃、普段は使われていないこの小屋から明かりが漏れていたところ、不審に思った管理人が小屋の中に入り、死体と警部殿を発見したそうです」

「死亡推定時刻は何時頃なんですか?」

「被害者の姿が最後に目撃されたのは、昨晩の18時頃です。近くのコンビニエンスストアの防犯カメラに姿が映っておりました。殺害されたのはそれ以降でしょうね」

「となると、18時から22時半の間ってことか」木場が手帳に情報を書きつけた。「その管理人は、何時から何時まで公園にいたんですか?」

「普段の勤務は、朝の9時から21時までだそうです。ただ、その日は管理人部屋でナイター中継を見ていたために遅くなったらしく、22時頃まで部屋にいたそうです」

「それで帰ろうとしたら、死体を発見したってわけですね……。管理人部屋はどの辺りにあるんですか?」

「公園の北側です。正門から見るとちょうど反対側ですね。管理人の家は西門から歩いて10分ほどのところにありますから、不審な点はありません」

「あの、この小屋って何に使われてるものなんですか?」茉奈香が口を挟んだ。

「昔は物置として使用していたようですが、1年ほど前に別の物置が出来たとのことで、それ以来使用していないようですね」

「そっか。だからこんなに寂れてるんですね」茉奈香が納得して頷いた。

「そう言えば、ガマさんが凶器を握り締めてたって聞きましたけど」木場が尋ねた。

「はい、被害者はナイフで心臓を一突きされていました。警部殿が手にしていたナイフにも血痕が付着しており、血液は被害者のものと一致しました」

「でも、ガマさんも気絶してたんですよね? だったら犯人が、ガマさんの手に凶器を握らせた可能性もあるじゃないですか!」

「確かにそうなのですが、当の警部殿が黙秘されていますから」渕川がため息をついた。「事件当日、警部殿は20時頃に退庁されましたが、以降の行動は判明していません。何故あの時間に公園にいたのか? そして何故あの小屋にいたのか? 一切答えてくださらないもので、我々も捜査を進めようがありません」

「ガマさん……どうして……」木場が唸った。

「被害者は警部さんと面識があったんですか? 確か身元不明って言ってましたよね」茉奈香が割って入った。

「わかりません。それについても警部殿は黙秘されています。被害者は30代後半と見られる男性でしたが、身元を証明する所持品を一切身につけていませんでした。服は綺麗でしたから、ホームレスというわけではなさそうですが。あ、そうそう……」

渕川が不意に言葉を切った。木場は不思議そうに渕川の顔を見返した。

「被害者の死体ですが、一点だけ奇妙な点がありました。発見された当時、死体の傍に赤い葉が落ちていたのです」

「赤い葉?」

「はい。形から紅葉だと思われます。ただ見ての通り、自然公園内の木はどれも枯れていて、紅葉が残っている木はどこにもありません。被害者はどこからこの葉を持ってきたのか? 何故それを握り締めていたのか? まるで理由がわかりません」

「うーん……何か、わからないことだらけですね」木場がボールペンで頭をぐりぐりやった。「被害者の身元も不明ら公園に来た理由も不明、ガマさんとの関係も不明。おまけに死体の傍には謎の紅葉の葉……。これじゃどこから手をつけたらいいかわかりませんよ」

「とりあえず、その管理人さんに話聞いてみたら?」茉奈香が提案した。「死体発見した時のこと、詳しくわかるかもしれないし」

「それもそうだな……。渕川さん、管理人さんはどこに?」

「今は管理人部屋で、他の捜査員の事情聴取を受けているはずです。それが終われば話を聞けると思いますよ」

「わかりました! じゃあ、さっそく管理人部屋に……」

「あー、その必要はないと思うよ」

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