第150話【始まりの神木の地へ】
カルカルに戻って来てから一週間がたった日、前から訪れたいと思っていた神木の地へと向かう準備が整い僕は朝からそわそわしていた。
「緊張してる?」
リリスが僕の顔を覗き込んでそう聞いてくる。
「そうでもないよ。神木の地と言われているみたいだけど僕にとっては目が覚めたら寝ていただけの場所だからね」
僕が微笑みながらリリスの頭を撫でると笑みを浮かべて寄り添った。
「――では、出発しますが神木の地へ入る小道へは私どもは立ち入ることが出来ません。
入る事の出来る者は神の祝福を授かりし者のみになります。
そもそも、神木の地へ続く小道の合流する馬車道もその先の行き止まりにある神の
月に一度、決められた者が
ダルマルが馬車を操りながら僕に説明をする。
「では、僕が馬車に拾って貰ったのは偶然だったのですか?」
僕は初めてこの世界に来た時、小道を抜けたところで馬車に出会ってカルカルまで連れてきて貰った事を思い出してそう問いかける。
「それはわかりませんが、過去に同様の事があったと聞いておりますので神様の方で馬車の通るタイミングをはかってくださっているのではないかと思われます」
「そうですよね。でなければあんな巨木の下に送り届けられても町までたどり着けないですもんね」
僕はダルマルの話に納得をして頷いた。
「その場所にはナオキひとりで行く事になるのよね?
本当に大丈夫かな?」
隣に座るリリスは馬車が進むにつれて表情が曇っていく。
「心配しなくても大丈夫だよ。
分かれ道からは歩いて数分くらいの場所だし、あの巨木が目印になるから迷うはずがないよ」
僕はそう言いながらも来た時の記憶を探る。
(そういえば巨木から本当に小さな小道をたどってこの大きな道へとたどり着いたけど歩いてほんの数分の距離なのに巨木の姿が見えなかったような気がするな)
「どうかされましたか?」
考えこむ僕にダルマルが声をかける。
「いや、神木へ向かう小道の場所を正確に覚えてなかったけど大丈夫かなと思ってね」
「それならば大丈夫です。
もともと私共は神木へたどり着けないのですが、何故かあるポイントになると風が急に止まって凪の状態になるのです。
おそらくですがその辺りからご神木へと繋がる道があるはずで、神の祝福を授かっているナオキ様ならばきっと見つかると信じております」
ダルマルのあまり根拠の薄い説明を聞きながら(上手くいかなくても怒ることだけはしないようにするか……)と自分に言い聞かせながら目的地へと馬車は進んだ。
――ひゅう。
なんとなく見覚えのあるカーブで風が一瞬強く吹いたと思うと急に全くの無風状態へと変わった。
「もしかしてここがその場所ですか?」
僕が尋ねるとダルマルは「私も初めての事ですからはっきりとは言えませんがおそらく間違いないと思います」と答えた。
「だけど、小道なんて……」
僕がそう言いかけた時、突風が吹いてあきらかに今まで無かった道がそこに現れた。
「これが神木へと続く道……。
やはり言い伝えは本当だったのですね。
では、ナオキ様。お気をつけていってらっしゃいませ」
ダルマルは馬車を止めて僕が降りるのを待つ。
「ナオキ……。
本当は私も一緒に行きたいけれど、それによって悪い事が起きたらナオキに顔を向けられないから待っているね」
リリスは今にも泣きそうな顔を隠すことなく僕の頬に手を置いてキスをしてきた。
「絶対に帰ってきてね。
約束忘れたら一生許さないからね」
「ああ、もちろん。約束する」
「――では、私共はこの奥にある
馬車で数分の距離ですので万が一ナオキ様がご神木より戻られた際、我々の馬車が居なかった時は申し訳ありませんが
「わかった。そうさせて貰うよ」
僕はダルマルにそう告げるとリリスに「じゃあ行ってくるよ」と声をかけてから小道に入って行った。
* * *
(記憶のとおりならばこの道を真っ直ぐに数分歩いた所に巨木があるはずだ。
目の前の景色が変わらないのは多分だけど女神様の結界があるからだと思うんだよな。
町の人達は神木までたどり着けないって言っていたし……)
僕はそんな事を考えながら真っ直ぐにのびた小道をひたすら歩いた。
(絶対にこんなに遠くは無かったはずだけど……?)
行けども行けども神木といわれる巨木の姿は見えない。
さすがに不安が高まってきた時、ふとある事が頭をよぎった。
(そういえばこの世界に来た時にカード型のマニュアルがあったよな。
大抵の事はあの時に頭に入ってきたけれど、まだ確認していない項目があった可能性もあるよな。
あれは、たしか収納魔法になおしてあったはず……)
僕はそう考えて収納からカード型のマニュアルを取り出した。
「お、これだこれだ。
これを手に持って、知りたい事を考えるだけ……」
僕が神木の地へのたどり着き方を検索するとあっさりと方法が頭に浮かんできた。
「うわっ。そんなこと知らないと絶対に無理だわ」
その方法が分かった僕はボヤキながらもその場に片膝をついて手を併せて祈った。
「我を神木の地へ、そして神との面会へと導いてください……」
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