第147話【ナナリーの軌跡とまっすぐな想い】
「ナナリーです。
紅茶をお持ちしましたがいかがでしょうか?」
ナナリーの声に反応した僕が答える前にリリスが「お願いするわ」と返していた。
「失礼します」
ドアを開けてナナリーが紅茶のポットとカップにお菓子をのせたカートを押しながら部屋へと入ってくる。
「長旅お疲れ様でした。
先日は領都までご一緒させて頂きありがとうございました。
では、ごゆっくりおくつろぎください」
ナナリーがそう言って戻ろうとしたのをリリスが止める。
「ナナリーさん。
少しお話したい事があるので一緒にお茶をしませんか?」
「――よろしいのですか?」
リリスの言葉にナナリーはリリスの目を見ながら答える。
「ええ、あなたが今の立場に収まった経緯も知りたいですし、これから暫くは毎日顔をあわせる間柄になるので変なわだかまりは早々に解消しておきたいと思いますので……」
リリスは笑顔のままでナナリーにそう告げた。
(なんだか雲行きが怪しくなってきたから避難をしたほうが良いのかもしれないな……)
「僕に聞かれたくない話だったら席を外すけど居ても大丈夫なのかい?」
僕は恐る恐るリリスに問いかけると「当然、居てもらわないと意味がないわよ」と逃げ道を塞がれてしまった。
「――分かりました。
ては、私のカップを用意しますので少しばかりお待ちください」
ナナリーがそう言って部屋を出た。
* * *
「――お待たせしました。
では、何からお話をすれば宜しいのですか?」
自らのカップに紅茶を注いだナナリーが四角いテーブルの向かい側に座って微笑む。
「だいたいの予測はつくけど、一応あなたがここに来た経緯を伺ってもいいかしら?」
リリスも特に怒った雰囲気はなく淡々と質問をする。
「たぶん、ご想像のとおりではないかと思いますけど母の指示で領都のアルフおじさまに手紙を届ける事になりました。
信じられないかもしれませんがその時点ではここに派遣される事は知りませんでした。
ただ、ナオキ様と一緒に領都まで旅が出来ることが嬉しくて……それだけで十分に幸せな事でした。
――領都についてアルフおじさまに母からの手紙を渡すとそれを読んだおじさまは頭を抱えて深いため息をつくと私に言ったのです。
『すぐにギルド便を準備するから今日中にカルカルへ向けて出発しなさい』と。
なにが起きているのか分からなかった私ですがアルフおじさまの指示を断ることも出来ずにおじさまの書いた手紙を持ってカルカルの斡旋ギルドへと向けてその日のうちに領都を出ました」
そこまで一気に話したナナリーは紅茶を一口飲んでから続きを話しだした。
「カルカルについてからラーズギルドマスターへ手紙を渡して待っていると彼からこの施設の職員になる事をすすめられました。
もともとこの施設はギルドの保養施設なので職員もギルドの関係者が行っていました。
それでその枠に母が私を推薦したようなのです。
地元のバグーダでは母の影響力が強すぎるのでなにかとコネ扱いをされてしまうのですがカルカルくらい離れてしかも保養施設の職員ならば騒がれる事もないだろうとの事でした」
ナナリーの説明にリリスは頷きつぎの質問をする。
「それで?
ナナリーさん自身は納得してこの仕事につく事にしたの?
それともお母さんの指示だから仕方なくやってるのかしら?」
「最初は何でわざわざカルカルまで来てギルド保養施設の職員をするのか分からなかったのですけど先日、この施設に新たに貴族を叙爵された方が屋敷を新たに構えるまで仮の住まいにすると聞かされて『ああ、ナオキ様とリリスさんの事なんだな』と理解して納得しました」
「ナナリーさんが納得して仕事をされるのであれば問題はないでしょう。
では、最後に私が一番聞きたい事を聞いておくわね」
リリスはそう言うとナナリーの目を見て彼女に問いかけた。
「あなたはナオキと結婚したいと思ってますか?」
リリスとしては当然聞いて置かなければならない案件で僕としてはあまり積極的にあげて欲しくない話題だった。
リリスの質問にナナリーは少し目を伏せて考え込むが意を決して僕達を見据えてはっきりと答えた。
「――もちろん思っています。
ですが、ナオキ様はリリスさんと婚姻を結ばれていることは当然知っていますし、たとえナオキ様が貴族となられた今でも重婚を希望するとは思っていません。
それはナオキ様がリリスさんをただひとりの妻として愛しているからだと思います」
「そう、ならばナオキの事は諦めて純粋に職務として私達に接するつもりなのね?」
ナナリーはリリスの言葉に寂しそうな表情を浮かべてどう返事をするか迷っていた。
「わたしは……」
迷いながらもなんとか言葉にしなければならないとナナリーが口を開いたところでリリスがそれを止めた。
「意地悪な質問をしてごめんなさいね。あなたの気持ちは十分に分かったわ。
その答えは今出さなくて良いからしまっておきなさい」
うつむくナナリーにリリスはそう声をかける。
「――申し訳ありません」
ナナリーがリリスに頭をさげて謝ると「いいのよ。その気持ち、立場が逆だったら凄くよく分かるから」と優しく微笑んだ。
二人の会話を側で聞いていた僕は自らのものすごい空気感にただただ紅茶を飲むしか出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます