第146話【ギルドの事情と仮の住まい】

「実は貴族になられたナオキ様にあてがう屋敷がカルカルには無いのです。

 そもそも、領地には貴族として領主様がおられるだけでナオキ様のように領地を持たれない名誉爵位の方は存在すること自体が稀なのです。

 ですので、これから領主様を通じて王家より資金援助を取り付けてから新たに屋敷を建てなければなりません。

 おそらく半年から一年くらいはかかるのではないかと思い、その間はギルドが所有している施設にお住み頂こうという訳です」


 ラーズはそう話すと建物以外の人員や設備についての説明を続けた。


「それで施設には現在、施設管理人と料理人が専属で配備されています。

 本来ならば貴族の屋敷には仕事の手配を携わる『執事』と食事を準備する『料理人』、身の回りの世話や屋敷の清掃の他、来客対応に『侍女』が数名配備されるのが一般的ですがナオキ様は領地を持たない方ですので仕事の関係は専属の執事を雇うよりもリリス殿がサポートした方がギルドとのやりとりもスムーズにいくのではないかと思われます。

 侍女に関してはとりあえずではありますが住み込みで働ける者をギルドよりひとり派遣しております。

 料理人はひとりだけですので休ませる必要がある時は外食するか侍女が簡単な調理が出来ますのでそちらで対応をしてもらってください。

 今までの説明でなにか質問はございますか?」


「そうですね。

 今のところは特にないですので現場を見てからになるかと思いますね」


「分かりました。では、早速ですが施設の方へご案内させて頂きます」


 ラーズはそう言うとソファから立ち上がり資料をまとめてからギルドの外に待たせていた馬車へと向った。


   *   *   *


「思ったよりも閑静な地区だな。

 でも、町の中心部からは少しあるけれどゆっくりと過ごすには快適な環境かもしれないな」


 施設に到着した僕が初めに感じた感想を呟くとそれを聞いていたリリスも同意する。


「そうね。私もギルドに勤めていたけどこの施設はまだ使った事がなかったから中の部屋には興味があるわ」


「どうぞこちらへ。

 現在の従業員を紹介します」


 ラーズは僕達を施設のホールに案内するとそこには彼が説明した3名の従業員が待っていた。


 男性2人に女性がひとり、その中のひとりに僕達の見知った顔が並んでいたので思わず驚いた声を出してしまった。


「ナナリーさん!? どうしてここに?」


 領都で別れたはずのナナリーがメイド服をしっかりと着込んで目の前に居ることに驚いたが当のナナリーは笑顔で挨拶を返してきた。


「領都サナール斡旋ギルドに所属するナナリーです。

 この度、アルフギルドマスターよりここの専属メイドとして派遣の勅命を受けましたのでこうして住み込みで働く事になりました。

 屋敷の清掃から夜のご奉仕までなんでもお申し付けください」


「ああ……そうなんだね。

 うん、いろいろとあるだろうけど宜しく頼むよ」


(ナナリーさんが見送りに居ない時点でおかしいとは思ったけれどまさかこんな事を考えていたとは……)


 僕がいろいろと考えているとラーズが残りのメンバーな紹介を進める。


「管理人をしているダルマルです。基本的に外部との接触は私が担当致します」


「料理人のゴウシュといいます。ご主人様の好みと苦手をお聞かせ頂けたらそれをベースに献立を組み立てて参ります」


「当面はこの3名が対応しますが今後も人材が必要になるようでしたら私にお申し付けくだされば人材の手配をいたします」


 僕達たナナリーが知り合いである事についてはラーズはまったくのスルーを決め込んでいて何事もなかったように淡々と話を進めていった。


「では、私はまだ仕事がありますのでこれにて失礼しますね。

 何かあれば管理人のダルマルか侍女のナナリーにお申し付けくだされば私に連絡がくると思いますのでその時は対応させて頂きます」


 ラーズはそう言うと深々とお辞儀をしてから待たせていた馬車に乗り込んで斡旋ギルドへと帰って行った。


「では、私達も持ち場に戻りますのでご用件があればお声をかけてくださいませ。

 中の設備に関してはナナリーに説明しておりますので彼女に案内をするように指示しております」


 管理人のダルマルはそう告げるとゴウシュと共に奥の部屋へと入って行った。


 その場に残された僕達にニコニコと笑顔のナナリーが「では施設内の案内をしますね」と言って一部屋づつ説明をしてくれた。


   *   *   *


「まさか、さすがにナナリーさんをカルカルまで送り込んでくるとは思わなかったよ」


「そうね。アーリー様あの人のやることは自分のためなのか娘のためなのか時々分からなくなるけれど今回のことはナナリーさん本人が望んだことなんでしょうね」


 これから暫くの間泊まる部屋に案内された僕達はナナリーが居たことに苦笑いをしながらも本人の意思を尊重して特に問題視はしなかった。


「でも、この部屋は理想的なバランスでつくられているわね。

 豪華すぎすに質素すぎす。もちろん平民の私からすれば十分に豪華な部類にはなるんだけどね」


 僕達にあてがわれた部屋は施設の中でも一番豪華な部屋で普通ならばギルドマスタークラスが泊まる部屋のようで寝室の横に執務室が併設されていて仕事も同時にこなせる間取りだった。


 僕達が一息ついていると入口のドアがノックされ、ナナリーが声をかけてきた。


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