第145話【カルカルに戻ったふたり】
あいかわらず旅は順調だった。しっかりと護衛のついた馬車を襲う頭の悪い盗賊はもちろん獣の
「えっと、カルカルに着いたらすぐに斡旋ギルドに顔を出してアルフさんからの手紙を渡して僕達が住む家を紹介して貰わないといけないよな。
どんな家を紹介してくれるのか楽しみだけど自分の家となると管理が大変になるからあまり大きな家じゃなければいいけど……」
「私もカルカルで斡旋ギルドに所属してたけどギルドが所有する個人宅レベルの家の情報は聞いたことがないのよね。
あるとしたら領主様の別邸か税金を払えなくて差し押さえになった商人の元お店あたりなんだけど、あんな大きな建物は必要ないしそれこそ管理人や侍女が必要になるレベルよ」
リリスは受付嬢をしていた時に読んだ資料を思い出しながら自分の意見を述べる。
「さ、さすがにそれは無いんじゃないかな?」
「私もそう思いたいけど一応ナオキは貴族様になるんだから普通の平民が住むような平屋の一軒家とはいかないと思うわよ」
「ふう。やっぱり断っておけば良かった気がしてきたよ。
もし、能力が戻らなかったら生活に困るかもしれないと思った僕が浅はかだったのかな?」
僕がため息をつきながらボヤいていると「そんなに悩まないで良いと思うわよ」とリリスが優しく頭を撫でてくれた。
(そうだな。まずはカルカルに戻ってから今後の事を決めていけばいいんだよな)
僕はリリスに寄り添いながらひとまず不安を胸にしまっておいた。
* * *
――5日後。トラブルもなく予定どおりにカルカルへ到着した僕達は道中お世話になった御者や護衛の人達にお礼言って酒場での飲み代を少し多めに手渡したら大変恐縮された。
皆は2日ほどカルカルで休んでから王都へ帰る事になったが、無事に僕達をカルカルまで送り届けられた事に安堵していた。
「長い道のりでしたが本当にありがとうございました。
王都へ帰られましたら女王陛下に感謝の意をお伝えください」
僕はそう伝えると御者の長と握手を交わしてから別れ、斡旋ギルドへと向った。
――からんからん。
どこの斡旋ギルドでも同じドア鐘の音だがなんとなくカルカルのドア鐘の音は他の町と違う気がする。
初めて訪れた町だったからに過ぎないのかもしれないし、リリスと出会ったギルドだからかもしれない。
そんな事を考えながらリリスと受付へ向かうとリリスの元同僚受付嬢達が次々と声をかけてきてくれた。
「お帰りなさいリリス!」
「王都に行ってたんだってね。向こうの話を聞かせてよ」
「やっぱり
「あー、私も行ってみたいな」
「ところで結婚したって本当なの?」
「えっ!? それ本当だったの?」
「なら、もしかしておめでたでこっちに帰ってきたって訳?」
「いや、旦那が貴族に叙爵されたから貴族婦人としてこのギルドのマスターになるとかなんとか……」
女子が3人あつまれば
「カ、カオスだ……」
僕は顔を引きつらせながら彼女達がおさまるのを少し離れて眺めながら呟いた。
パンパンパン。
突然受付の奥から手を叩く音が響き、男性の声がその場を遮った。
「はいはいはい。そこまでだ!
お前達、今は休憩時間でもなければ就業後の飲み会でもないぞ。
懐かしいのは分かるが目の前の利用者を蔑ろにすることは許さんぞ」
「ギ、ギルドマスター!
すみませーん! すぐに仕事に戻ります!!」
リリスの周りに集まって来ていた元同僚の受付嬢達はギルドマスターのラーズが姿を見せると慌てて各自の窓口へと戻って行った。
「バタバタして申し訳ない。
ナオキ殿の話は領都のギルマスから連絡を受けていますので確認と説明のために応接室へとお願い出来ますか?
ああ、もちろんリリスさんも同してもらって構わないよ」
ラーズはそう僕達に伝えると側にいた職員の女性に案内とお茶を頼むと「資料を取ってくるから先に行っておいてください」と言い執務室へと向った。
* * *
――数分後、ラーズが資料を手に応接室へと入って来た。
「そうですね。
まずは先日、領都のギルマスから頂いた手紙の確認事項から始めたいと思いますがナオキ殿……いえ、ナオキ様とお呼びした方が良いですかね。
先日、女性陛下よりナオキ様が爵位を賜ったとありました。
名誉爵位との事でしたが、これに間違いはありませんか?」
「はい、間違いないですね」
僕はそう言うと女王陛下から預かった貴族の短剣を取り出して見せた。
「ありがとうございます。
では、次に女王陛下よりこのカルカルに屋敷を準備するようにとの話が来ています。
それで、領都のギルマスが領主様と協議した結果、カルカルのギルドが所有する物件のうちの一つを譲渡することになりました」
ラーズはそう言うと町の地図を取り出して場所の説明をする。
「場所は町の中心部から東寄りの閑静な区画にあるギルドの保養施設なのですが暫くそこを使って頂こうと思っております」
「暫く……とは?」
ラーズの言葉に引っかかった僕は率直に理由を聞いてみた。
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