第134話【王都からの帰り道】
――爵位を貰ってしまった。
成り行き上で女王陛下を助けた代償に神のスキルが使えなくなった事に対する王家からの補償だ。
名誉爵位なので普通の貴族のように領地はないが、これがあると王国内で暮らす限り食いっぱぐれる事はないそうで、要するに好きな事(利益の出ない事)をしていても何とかなると言うありがたい補償だった。
王都では有名な占い師が謀反を起こした罪で断罪された話が持ちきりでまだ王都での活動をほとんどしていなかった僕達の噂が出る事は無かった。
「――それではこちらの手紙をアーロンド伯爵へ、もう一枚の手紙は斡旋ギルドのギルドマスターへ渡すように願います」
僕達は魔力が戻りきらないうちに王都を出る事にしたので宰相のダランが今回の件で僕に与える屋敷と定期的な給金を本来王都へ納める税金から捻出するようにとの指示が書かれた手紙を持たせたのだ。
「領都サナールまでの馬車に護衛の手配までして頂いて本当にありがとうございます。
王都へは来て早々にこのような事になってしまい、王都の皆さんに女神様の祝福を届けられなかった事は残念に思いますが形はどうあれ女王陛下をお救い出来た事、誇りに思います。
どうぞ、これからも良き王国の発展を願っております」
僕はリリスと共に女王陛下に深く礼をして王都を後にした。
* * *
旅は「これほど平穏なものなのか?」と思えるほど順調に進み、程なくしてアーロンド領の端にあたる町ザザールへと到着した。
ザザールでは以前お世話になった宿で一泊してその時知り合った仲の良い姉妹とも交流をして楽しい夜を過ごした。
「では、領都サナールへ向けて出発しましょうか」
次の日にはザザールを出発し、何かとお世話になった町、バグーダに寄ることになった。
「バグーダか……。
一応、斡旋ギルドのアーリーさんには挨拶をしておいた方がいいだろうね」
「まあ、これからの事を考えると黙って通過するのは悪手でしょうね。
ただ、ナオキが爵位を賜ったと知ったらまたあの人が何か企みをしそうではあるのだけどね」
リリスは以前アーリーギルドマスターから色々と面倒を押し付けられた経験からあまり深く関わりたくない雰囲気を出しながらそう答えた。
「まあ、基本的には悪い人ではないと思ってるんだけど自分に正直なんだろうね。
でも、何かあった時は頼れる存在ではあると思うよ」
「まあ、それは否定しないけどナオキだって名誉爵位とはいえ貴族の仲間入りをしたんだから立場上は同等以上である事をよく認識しておいてね。
「うへぇ。僕にそんな威厳のある言動なんてどだい無理な話だと思うんだよな。
僕がそうボヤいていると「くすくす」と笑いながらリリスが僕の頭を撫でてくれた。
「ナオキはナオキのままで良いと思うわよ。
爵位を持ってても無理に偉そうにしなくても良いし、カルカルに戻ったら何か町の人のためになる事を一緒にやれたら嬉しいな」
リリスはそう言うと僕の手を握りしめて笑った。
「では、バグーダの町では2日程滞在しましょう。
なに、従者や護衛にも良い休憩となる事でしょう」
馬車を操る御者の責任者は僕達の要望を快く承諾してくれた。
「前にバグーダを出発してから約3ヶ月ほどの時間が過ぎているけどお世話になった人達は元気にしてるかな?
それなりに会っておかなければいけない人が多くてゆっくりする暇は無いかもしれないけれどやっぱりバグーダに行ったら温泉は絶対に外せないよね」
僕は元日本人という事もあってか温泉には人一倍興味があって前回滞在した時もバグーダでは密かに満喫していた。
「そうね、温泉はいいわよね。
カルカルでも温泉って掘れないのかな?」
「どうだろうね? 地下水脈に温泉の効果があるお湯があれば良いんだけど……。
そう言えば温泉の効果とかって鑑定で調べるものなのかな?」
「基本的にはそうね。
でも、アーロンド伯爵領内ではバグーダの町でしか温泉は発見されてないのが現状なの」
「まあ、地下水脈の関係だろうから仕方ないのかもしれないな。
まあ、温泉は無理でも大きなお風呂は作れるだろうからそれでも良いか……」
そんな他愛もない会話を楽しみながら旅は終盤を迎えたが、今回の旅は王家が準備してくれた馬車での移動だったので、約1ヶ月におよぶ長旅の最中も基本的にリリスと話すしか無かった。
だが、そのおかげで先日からうまく使えない治癒魔法の検証をする時間も出来てとても有意義な時間となった。
「――明日にはバグーダに到着しますが、まずはどうされますか?」
御者の男が僕達の行動について確認をする。
「まずは斡旋ギルドへ行こうと思ってます。
その後は一度宿をとってから薬師ギルドと案内所にも顔を出そうと思ってます。
ですので、斡旋ギルド前に降ろして貰えれば2日後の出発までは自由にされていて良いですよ。
出発は2日後の朝、中央噴水広場に集合としたいと思います。
それで良いですか?」
「ナオキ様がそう言われるのであればそうさせて頂きます」
御者の男はそう答えて頷いた。
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