第133話【女王陛下からの報奨】

「――とまあ、そのように落ち着いたのだ」


 女王陛下は暗殺の主謀者である占い師のゴッツァイを粛清しゅくせいして洗脳されていた者達の治療を行った事を話してくれた。


「僕が寝込んでいる間にそんな事があったのですね。

 彼とは初めて出会った時からあまり良い印象はありませんでしたが……。

 そうですか、そこまで野心の強い男だったのですね」


 僕はゴッツァイに出会った時の態度から傲慢な性格なのだろうとは思っていたがそこまでとは思わず女王陛下からの説明に驚きながらそう答えた。


「――まあ、女王わたくしに刃を向けたのですから、この結末も仕方ない事でしょう。

 それよりも、この度のあなたの功績を考慮して報奨を与えようという事になったのだが……。

 どうだ? このまま王都に留まって王宮の専属治癒士として私に仕える気は無いか?

 もちろん王都に屋敷を準備して給金も破格の待遇を約束しよう」


 女王陛下の後ろにはいつの間にか宰相のダランが控えていて、うんうんと頷いていた。


 地方に在席している平民である僕に対しては王家に仕える事が出来ると言う事は破格の立身出世物語であるが僕が出した答えは……。


「大変光栄でありがたいお話しですが辞退させてください」


「なぜだ? 王家に仕えると言っても城に縛り付ける訳ではなくそなたがやりたい仕事ことをやっても良いのだぞ?

 前に許可をした治癒士としての活動を王都で行うのもきちんとした診療所を用意してそなたの思うがままに出来るのだぞ?」


「だからですよ」


 女王は僕の言葉の意味が分からずに首を傾げて困った顔をする。


「今回、そのような結論に至ったのは3つの理由からです。

 実は前に同じ考えで診療所を開いた事があったのですが、そこで働いている薬師の方々の仕事を奪う形になり多くの方が廃業される事になりそうでした。

 その時は話し合いで患者の住み分けの形で重症患者のみ僕の方で診ましたがそれでも多くの人が僕を頼りにしてくれました。

 それ自体は大変嬉しかったのですが、本来僕自身の望みはこの世界で怪我や病気に困っている人、全員を救いたいと思っていたのです。

 女神様から授かった能力ちからがあればそのくらいの事は十分出来ると当初は思ってましたが、所詮僕一人で出来る事など微々たるものであると思い知らされたのです。

 そして、2つ目は……」


 僕はそう言うと自らの手のひらを見つめてグッと握りしめると女王に視線を戻し続けた。


「実は先日の蘇生から治癒魔法が使えないのです。

 こんな現象は僕がこちらの世界に来てから一度も経験した事がありません。

 この状態は暫くすれば回復するのか、それともこのまま一生変わらないのかは現時点では分かりません。

 つまり、今の僕はその辺にいる一般人と同じ……いえ、仕事としていた治癒魔法が使えない事から一般人以下でしかありません。

 そして、最後の理由として……」


 僕はそう言うとチラリとリリスを見てからひと呼吸置いて次の理由を説明した。


「今までの理想を追求するよりも僕の中に大切なものがある事に気がついたからです」


「それはそなたの横に居るリリス殿の事か?

 彼女ひとりの存在とそなたの理想とでそう結論を出せるほどのものなのか?」


「そうですね。もし、僕が女王陛下のような立場であればひとりの身近な者よりもより多くの国民の事を優先させるのが使命としたかもしれません。

 ですが、僕はたまたま女神様からの恩恵で普通の人とは違ったアプローチの出来る少しだけ特別な能力を持っただけの人間で、その根底には見知らぬ大勢の人より目や手の届く身近な人と深く交わりを持つ事を是とする人間なのです」


 僕の真剣な表情を見た女王は少し困った表情をして後ろに控えるダランの方を見た。


「では、ナオキ殿はこれからリリス殿の故郷であるカルカルへ戻られるのですかな?」


 ダランは女王からの視線を僕に移してそう問いかけた。


「そのつもりです」


「――そうか、治癒魔法が使えないとなると無理矢理王宮に留まらせるのは逆に苦痛となるであろう。

 ならばわたくしを救ったそなたに対しての報奨は如何にすれば良い?

 どうだダラン? 妙案はないか?」


 僕の理由を聞いた女王はダランに良い代案がないか問う。


「――そうですな。

 今のナオキ殿の状態を考慮すれば暫くの休養をするのが一番ではないかと思われます。

 彼も希望しているカルカルの町に屋敷を準備し、相応の給金を支援されるのが宜しいかと……」


「ふむ。しかし、その程度では国を救った者への報奨としてはいささかか少ないのでは無いか?」


 女王はそう言うと僕とリリスの顔を見てニヤリと笑みを浮かべると予想もしない事を言い出した。


「ならばそなたに爵位を授けようぞ」


「「えっ!?」」


 女王陛下の言葉に僕とリリスの声がハモる。


「いやいや、爵位なんて僕には不用なものです。

 爵位なんか貰ったら領地の経営もしないといけないし、それこそゆっくりなんてしていられないですよね?」


 僕は必死になって女王の発言を撤回させようと試みた。


「まあ、そう慌てるでない。

 爵位と言ってもそなたに与えるのは『名誉爵位』であって領地経営などはしなくても良いものだ。

 この爵位は一代限りのもので残念ながら子供には引き継がれないもので、その人物が王家の者に対して恩を与えた礼に与える爵位なのだよ。

 これがある限り、そなたが生活するのに必要な給金が定期的に王家から支給される証となるのだ。

 そして、その人物は政治には口を出せないが王家の客人として他の貴族からの命令は受け付けないで良いのが特徴なのだ。

 まあ、だからと言って何でも好き勝手をして言い訳ではないがな……」


 女王はそう言うと宰相のダランを見たが彼は黙って頷いているだけであった。

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