第135話【バグーダの町の斡旋ギルド再び】
次の日、馬車は予定通りにバグーダの町へと辿り着いた。
入口の審査は馬車に王家紋章がついていた為に最優先で処理をしてくれて何だか申し訳ない気がしたが御者の男は「ナオキ様は貴族の一員ですから当然です」と告げて斡旋ギルドへと馬車を走らせた。
「ナオキ様、斡旋ギルドへ到着しました。
では、私どもは先日指示のあったとおりに行動致しますので宜しくお願いします。
但し、くれぐれも時間厳守にてお願い申し上げます」
御者の男は僕達が馬車から降りるのを確認してからお辞儀をして従者や護衛達と何処かへ向けて馬車を走らせて行った。
――からんからん。
久しぶりに聞く斡旋ギルドのドア鐘の音に懐かしさを感じながら中へ入ると受付の窓口から声が部屋にかかった。
「リリスさんにナオキさんじゃないですか!?
王都へ行かれたのではなかったのですか?」
受付窓口から飛び出して来たのは以前リリスが講師をしたクレナだった。
「お久しぶりね、クレナさん。
アーリーギルドマスターに取りついで貰えるかしら?」
リリスがクレナに伝えると「すぐに確認してきます」と足早に奥へと向かう。
「元気にやってるみたいね。安心したわ」
リリスはクレナの様子に表情を緩ませながら彼女を見送った。
「――お待たせしました。
ギルドマスターがお会いになるそうですので応接室へどうぞ」
数分後にはクレナが戻ってきて僕達を応接室へと案内してくれた。
「では、こちらにて少しお待ちください」
クレナはそう言うとソファに座った僕達に紅茶を出してから受付の仕事に戻っていった。
「――待たせましたね。
予想よりもかなり早い戻りの様ですが何かトラブルでもありましたか?」
アーリーは部屋に入るなり僕達に質問を投げかける。
「まあ、色々とありまして王都での活動をせずにカルカルへ戻る事になったのです」
「色々と……ですか?
なにがあったか伺っても良いかしら?」
「そうですね。
では、僕達か王都に着いてからの流れを話しましょうか」
僕は王都に着いて直ぐに有名な占い師とトラブルがあった事、王都の斡旋ギルドマスターの伝手で女王陛下に面会した時に起きた事件についての事、咄嗟に蘇生を行ったが魔力不足で倒れた事、それによって今までどおりには治癒魔法が使えなくなった事、そして女王陛下を救ったとして名誉爵位を賜った事などを端的に説明していった。
「名誉爵位!? 女王陛下から直々に名誉爵位を賜ったと言うの?」
色々と説明した中でアーリーが一番驚いたのは名誉爵位を賜った事で証拠の短剣を見せたところ、急に態度が……と言うか言葉使いが丁寧になった。
「――まさか、本当に爵位を賜るなんて……。
ナオキ様の治癒士としての功績は確かに素晴らしいものでしたけど陛下に認められて貴族に叙爵されるとは思いませんでしたわ。
それで、今日訪問のご用件は今話された内容の報告と情報共有という事で宜しいでしょうか?」
その急な変化に違和感を覚えた僕は「急にどうされたんですか?」と聞いて隣に座っているリリスに脇を肘で小突かれた。
「どうされた? じゃないでしょ。
ナオキが貴族に叙爵されたと報告したからギルドマスターが気を使って言葉使いを変えたんでしょ。
いくらギルドの長とはいえ、立場的には貴族のほうが身分は上なんだからね。
威張りすぎるのも駄目だけどいつまでも平民の時と同じ感覚で接していたら相手側に迷惑がかかるという事を自覚してね」
――とんでもない事になった。
僕は治癒士としての仕事が万全な状態で出来ないかもしれないとの不安から女王陛下の提案した言われる『年金』の感覚で受け取れる給金を受け取るには名誉爵位という本当に名前だけ貴族の一員となる必要があるとの言葉を信じて賜ったが、まさかギルドマスターが頭を下げて伺いをたてる立場になるとは全く想像していなかった。
「アーリーギルドマスター。
僕は成り行き上でこのような立場になっただけですのであまり気を使わないでください。
出来れば話し方だけでも今までどおりにして貰えると助かるのですが……」
僕はそう伝えて話し方だけでも戻して貰えるように頼んでみた。
「そう申されましてもナオキ様は王家から認められた貴族としての立場がありますのできちんと対応させて頂くのもギルドマスターとしての責任ですわ。
それよりも、貴族になられたということは重婚が認められたという事ですので二人目としてうちの娘などいかがでしょうか?」
リリスと結婚したために一度は諦めた話をこれ幸いと蒸し返すところは話し方は気をつけても相変わらずのアーリーだった。
「バグーダではこの後、薬師ギルドに顔を出しておきますね。
そして、明日一日ゆっくりしてから領都へ向かう予定ですので、もし何か用事があれば以前泊まった宿……テンクウ温泉だったかな? に泊まってますからそちらに連絡をお願いしますね」
「分かりましたわ。では、さっそく娘を
「いやいや、そういうのは必要ないですから勘弁してください」
僕はアーリーの提案をやんわりと拒否しながら斡旋ギルドを後にした。
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