第122話【国王との面会に必要なこと】
次の日、僕達は斡旋ギルドのマスターへ面会希望を出した。
ここでも伯爵のお墨付きが役に立ち少しばかり待っただけで面会の許可を貰うことが出来た。
「――君が噂の治癒士かい?」
先に通された応接室に背の高い壮年の男性が入ってくるなり僕を見てそう言った。
「噂のかどうかは分かりませんが、治癒士をしているナオキと言います。
この度は急な訪問にもかかわらず面会をしてくれてありがとうございます」
僕が挨拶をして頭を下げるとその男性も自己紹介を始めた。
「王都斡旋ギルドの長をしているガイルだ。
それで今日はどんな用件だ?
これでも忙しい身だから手短に頼むぞ」
ガイルはそう言うと僕達の前なソファに座った。
「僕はアーロンド伯爵様の領内でそれなりの数の人々を治療してきました。
伯爵領内では薬師ギルドとの兼ね合いで僕の出来る事はやりきりましたのでもっと多くの僕を必要としているであろう王都に来てみたのです。
しかし、僕は王都ではほとんど無名ですので国王様に面会して王都で治療をする許可を頂きたいと考え、どうしたら国王様と面会が出来るか考えた結果、多少なりとも融通のきく斡旋ギルドから面会の許可をお願いして貰えないかと思い、お願いにあがった次第です」
「うーむ。確かに君は伯爵領内でそれなりの成果を出している事はギルド便経由で聞き及んでいるが国王様ともなるとそう簡単に会えるものではないぞ」
「王都の斡旋ギルドマスターでも難しい事ですか?」
ガイルは腕を組んで「うーむ」と唸りながら考えを巡らせる。
「何かメリットはあるか?」
「え?」
「俺が君を国王様と面会させる労力と時間に見合うものを君は差し出せるか? と聞いているんだ」
「そうですね。
僕は治癒士なので人を治療する事しか出来ません。
あ、いえ先日馬の治療も出来ましたので、もしかしたら他の生き物でも治療が出来るかもしれません」
「治療……か。この王都には優秀な薬師や他ではあまり居ない魔術士も何人かはギルドに所属している。少しばかり治療が得意でも
ガイルは腕を組んだまま、厳しい表情で僕の答えを待つ。
「そうですね。
少しばかりでは難しいでしょうけど僕はこれでも『女神の加護を受けし者』として世の中に恩返しをしています。
その
「いや、だがら
「彼らには出来ない範囲(部位欠損修復等)の治療が僕には出来ます。但し、女性限定という制約はありますが……」
ガイルの言葉を食い気味にすぐさま反論する僕にまた「うーむ」と唸ると『パンッ』と膝を叩き、「そこまで言うならば見せてもらおうか」とソファから立ち上がった。
「――ついてこい。
今の時間ならば書庫に居るだろう」
ガイルはそう言うと応接室から出て建物の奥へと僕達を連れていく。
――コンコン。
「俺だ。入るぞ」
ガイルはドア越しに声をかけてから部屋へと入る。
「ここだ。入っていいぞ」
ガイルの言葉に僕は頷きリリスと共に部屋へ入るとまだ10代前半くらいの若い女性がテーブルに本を積み上げて書類の整理をしていた。
「サラサ。ちょっといいか?」
ガイルはサラサと呼んだ女性に確認をすると彼女はガイルと僕達を見てコクリと頷く。
それを見たガイルは僕を見て説明をしてくれた。
「彼女の名前はサラサと言う。俺の娘の子供、つまり俺の孫娘だ。
サラサは生まれつき声を出す事が出来ない。
この子が産まれた時に産声をあげなかったので初めは生きているのか死んでいるのか分からなかったそうだ。
だが、心臓は動いているし泣こうとする仕草はあったので生きていると喜んだものだ。
しかし、やはり
声が出せないために今はギルドの事務として働いてもらっているがいつかとの思いはあった。
もし、君がサラサを治療出来たならば君の要望を全力で支援する事を約束するがどうだ、やってみるか?」
ガイルは期待と諦めの狭間で僕に難題を持ちかける。
「もちろん治療させて貰いますよ。大丈夫です、同様の患者を治した経験もありますし、これでも女神様の祝福を授かりし者の一員です。
必ず治療を成功させて見せますよ」
僕はそう言うとリリスにいつもの誓約書をガイルに提示と説明を頼んだ。
「――ここに書かれている内容は間違い無いのか?」
誓約書の内容を読んだガイルが僕に確認を求めてくる。
内容が身体に触れる治療である為に確認される事は多かったので別段慌てる事もなく冷静に「はい」と答えた。
「そうか、報告どおりだな」
ガイルはそう言うとその誓約書をサラサに渡して内容の確認をさせる。
「サラサ、いいな?」
サラサは誓約書にサインをするとリリスに手渡し僕の前に立った。
「出来るだけ身体の力を抜いて欲しいのでベッドに横になるか、椅子でもゆったりとしたソファに座って貰えると治療がスムーズにいくのですがそういった場所はありませんか?」
「横になれる場所だな?
ならばギルドの宿直室を使えば良いだろう。
この奥の部屋になるからついてくるがいい」
ガイルが先に部屋から出るとサラサがその後をついて行った。
「――これでいいか?」
連れて来られた部屋には2つのベッドがあるだけの簡易部屋だった。
「――結構ですので治療を始めたいと思います。
始めに、誓約書にもあったように胸部に触れますが服の上からで大丈夫ですので横になられてリラックスをしていてください」
後ろからくるガイルの無言の圧力を感じながら僕は彼女の胸に手を重ねると治癒魔法をゆっくりと唱えた。
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