第123話【奇跡を必然に起こせる能力】
「――
いつもの言葉、理不尽な不幸など無いものとされる圧倒的な祝福にガイルは目を見開いていた。
魔力の注入が始まるとサラサの身体が光を帯びて彼女の頬が赤らむのが分かる。
――ビクッ!
魔力の注入量が多くなった瞬間に彼女の身体が大きく反応する。
「おい! 本当に大丈夫なんだろうな!」
彼女の様子を伺っていたガイルが声を荒げるが集中している僕には届かない。
代わりにリリスが止めに入り大丈夫だと説明をする。
「お静かにお願いします。
サラサさんの身体から光が発せられている間はまだ治療中です。
治療が終われば光が身体に収束して落ち着くので暫くはそのままでお願いします」
リリスの言葉に「ぐっ」と衝動を抑えたガイルは側にあった椅子に腰を下ろして手のひらを併せて祈りだした。
「もう少しで終わりますのでご自分でも治りたいと祈ってください。それが治癒に一番効果がありますから」
僕はそうサラサに伝えながら魔力の注入を最後までやりきった。
「――これで治療は終わりです」
サラサの身体から光が消え、僕が彼女の胸から手を離したのを見たガイルが椅子から勢いよく立ち上がり僕に問う。
「サラサの声はどうなった!?
治療は成功したのか?」
ガイルは僕の答えを聞く前にサラサの手を取って彼女にも確認をしたがサラサは声を発する事は無かった。
「やはり無理だったではないか!」
ガイルがそう叫んで僕に掴みかかろうとするが自らの立場からの自制心でギリギリで踏みとどまる。
「――完治は絶対です。
それが女神様から授かった祝福ですから」
ガイルの威圧感を前にして僕は冷静にそう答える。
「ではなぜサラサは言葉を話すことが出来ない!?」
ガイルの興奮が収まらない中で僕は彼女に
【完治済、身体に異常はありません】
「やはり完全に治っていますね」
僕はそう呟くと彼女にむかってゆっくりと語りかけた。
「サラサさん。あなたは生まれつき声を発する事が出来なかったので、まだ自身で話すという事が頭の中で理解出来ていない状態なのです。
しかしながら、あなたは耳も聞こえるし僕達が話している言葉も理解出来ています。これはあなたが言葉を話す基礎は十分に備えている証拠になります。
声を出せば喉の声帯が振動するために頭や身体がびっくりするかもしれません。
はじめから大きな声を出す必要はありませんのでゆっくりとご自分の名前を発音してみて貰えますか?
リリス。寝たままでは声は出しにくいので彼女をベッドから身体を起こしてあげてくれ」
「分かったわ。
サラサさん。どう? 起きられそうかな?」
僕の指示にリリスがサラサをベッドから起こして座らせる。
「ガイルさん。どうぞ彼女の前に来て手を握ってあげてください」
「サラサ……」
ガイルは言われるままに彼女の前に膝をついて目線を合わせて手を握る。
「さあ、サラサさん。勇気を出して思いを声に出して見ましょう。
大丈夫です、女神様は絶対ですから……」
僕の励ましにサラサは頷くと少しばかり息を吸い込んでからゆっくりと口を開けた。
「サ・ラ・サ」
まだ、少しばかりかすれているが彼女の口から皆が認識出来る発音が聞こえた。
「サ・ラ・サ」
もう一度ゆっくりと発音をしてみると今度ははっきりと綺麗な声が部屋に響いた。
「サラサ!!
うおおおおおっ!!」
次の瞬間、ガイルが叫びながら彼女を抱きしめた。
「サラサが、サラサが……」
ガイルはその次の言葉が出ずに嗚咽をあげながら涙を流していた。
「お・じ・い・さ・ま、い・た・い・で・す」
まだぎこちない話し方ではあるが彼女の口からはもうはっきりと言葉が出てきていた。
「――もう大丈夫のようですね。
彼女の場合は生まれつきのものだったので話す事に慣れていないだけのようですのでこれからゆっくりとリハビリがてらお話しをしてあげてください。
彼女自身、言葉は理解出来ていますので慣れればすぐに普通に話す事が出来るようになると思いますよ」
僕はそうガイルに伝えると「では僕達は先程の部屋で待ってますので落ち着いたらこれからの話をしたいのでお願いしますね」と言い残して部屋を出た。
「サラサさん、治って良かったわね。
でも、最初声が出なかった時は正直私も内心焦ってたわよ」
応接室に戻るとリリスがそう話しかけてくる。
「うん。前に声が出なくなった患者さんがいただろう?」
「ロシュちゃんですね。
彼女は事故で突発的に声が出なくなったんでしたよね」
「うん。その子は怪我が元で声が出なくなっていただけだからその怪我さえ治れば元通りになるのは当たり前なんだ。
でもサラサさんはそうじゃない。彼女は生まれつき声が出せなかったと言われたから身体が治ってもすぐには話せない可能性がある事は予想してたんだ」
「だからあんな説明をして声を出す事を手助けしてたんですね」
リリスが感心して僕の隣で何度も頷く。
「まあ、これでギルドマスターの協力は得られるだろうから後はいかに国王様に認めて貰うかだな。
そうそう都合よく国王様の側近の女性が怪我や病気になっている事なんてあるもんじゃないだろうし、いくら国王様が女性の王様であっても彼女自身に治癒魔法をかける訳にもいかないだろう。
まあ、彼女自身が死にそうな怪我や病気にでもなってたら話は別だろうけど、もしそんな状態ならば面会が叶うはずがないからね」
ガイルの依頼を完了させた僕達は彼が部屋に現れるまでこれからの行動について話し合うのであった。
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