第121話【新たなる情報と作戦】
「あんたにバックが居るように僕にも後ろ盾になってくれる貴族が居るんだよ。
アーロンド伯爵様なんだが、さてどちらの力が強くてどちらが裁かれるのかな?
あんたのお得意の占いで未来を占ってくれよ」
僕の言葉に男は既に戦意を喪失していた。
「これに懲りたら僕の妻に気安く声をかけないでくれよ」
僕はそう言うと男の手を離した。
「くっ! 覚えていろ!」
手を離された男はドサリと尻もちをついて恨み節を言う。
「そうだ、今回のお詫びにせっかくだから色々と教えて貰おうかな」
その後、悔しそうな顔で睨む男から多くの情報を引き出した僕は最後までブツブツ文句を言う男に再度釘を刺してから開放した。
「今に見ていろ! 絶対に後悔させてやるからな!」
男は最後まで捨てゼリフを吐きながら戸惑う取り巻きを引き連れて逃げ帰って行った。
「――あんな事して本当に大丈夫なの?」
男達の去った後でリリスが心配してそう聞いてくる。
「うーん、五分五分かな。
伯爵様の威光が効けば大人しくしてるだろうし、なんとしても仕返しをしたいと考えるならば裏で人を差し向けてくるかもしれない。
気がかりなのはあいつがこの王都で有名って事なんだよな。
下手したら民衆がみんな敵になる可能性もあるからそうなるとかなり厄介だと思う」
「それについて何か対策はあるの?」
リリスが不安そうな表情で聞いてくる。
自分のせいで僕まで危険な目に会いそうだと思っているのだろう。
「残念ながら即効性のある対策は今の所は無いだろう。
でも、あいつから面白い情報を引き出せたからその線でなんとかしてみようと思うんだ」
「面白い情報?」
「ああ、だけど簡単には会ってもらえる人じゃないから何か方法を考えないといけないだろう」
――この日はこのまま街をうろつくのは得策ではないといくつかあった候補の宿に泊まる事になった。
「良い宿ね。他のところも泊まってみないと分からないけど、特に問題がなければこの宿にしても良いかもしれないわね」
事件のあった場所から一番近くにあった宿に入った僕達は思ったよりもいい宿に感心していた。
「やっぱり王都は違うのかしらね。このレベルの宿は他の地方都市だったら貴族専用の宿になると思うわ」
そんな事を言いながら部屋に入ると「ふう」と息を吐いてソファに座った。
「紅茶でも飲む?」
リリスが気を利かせて紅茶を淹れてくれる。
「ありがとう。いただくよ」
僕は彼女から紅茶のカップを受け取ると一口飲んでから話を始めた。
「まず今回の件で分かった事は『ゴッツァイは僕と同じ神の祝福を受けし者』という事だね。
でなければ占いだけであれだけの人気と貴族のバックを得る事は出来ないだろう。
まあ、僕も領都ではやらかしたからそのへんは分かるだろ?」
「それならば、彼は神様から貰った
「うーん、悪用かどうかは今の所なんとも言えないんだけど、能力を上手く使って人気を得ている事は間違いないだろうね。
ただ、同じ神の祝福を授かりし者としては他人に威張り散らす言動は好きじゃないし、ましてやリリスに手を出そうとした事だけは黙っておけないよ」
そうなんだ。僕は別に奴が王都で人気だろうが、神様からの祝福を自分の利益のために使っていようが正直どうでもいい事だった。
だけど、リリスに目をつけて侮辱して、さらに自分のものにしようとした事は許容出来る事ではない。
だから、僕は僕の能力を利用して奴に対抗する力を得る。
「具体的にどんな方法なの?」
「あまり気は進まないけど僕も貴族の威光を借りようと思う。
実際に王都では効果はないけれどアーロンド伯爵に貰っているお墨付きを見せて国王に謁見許可を取ろうと思うんだ」
「国王様に?」
「ああ、ここは王都だから僕が今までやってきたような方法で薬師ギルドと斡旋ギルドの協力を得て治療をしていくのは難しいと思うんだ。僕は王都ではまだ無名だからね。
それよりも奴に目をつけられてる状態だとまず間違いなく邪魔をされるだろう」
「だから国王様に直接許可を求める訳?
でも、本当にそんな事がうまくいくの?」
「普通ならば難しいだろうね。
だけど奴を締め上げた時に面白い話を引き出せたから勝算はあるんじゃないかと思ってるんだ。
リリスは今の国王の事はどれだけ知ってる?」
「えっ? 今の国王様よね?
確か3年前に前国王が病気で王位を退位した際に王子の居なかった国王は一人娘に王位を譲ったとされてるはずよ」
「うん、よく知ってるね。
さすが元斡旋ギルドの優良受付嬢様だね」
僕の言葉に照れ笑いをしながら「でも、それがどうかしたの?」と聞いてくる。
「これはほとんど知られていないそうだが、その女王様も『神に祝福された者』なんだそうだ」
「……それ、本当なの?」
「まあ、奴が言っただけだから嘘の可能性もある。
だが、奴には占いのチートがあるし王都での信用もあるからおそらく本当の事なんだと僕は思っている。
とにかく一度会って話をしてみたいと思ってるんだよ」
「話は分かったけど上手く行かなかったら無理はしないでね」
リリスは僕の案に不安そうな顔でそう言った。
「もちろんさ。無理そうなら王都での活動は諦めてカルカルに戻ってリリスとのんびり過ごすのもいいかなと思ってるんだ」
「本当!? カルカルに戻るの?」
リリスが勢いよく椅子から立ち上がり僕の言葉に期待をする。
「まあ、いずれは戻りたいと思ってるよ。それがすぐになるか、この王都で僕の理想を果たした後になるかはまだ分からないけどね」
僕の言葉にリリスは何度も頷いて「絶対に約束よ」と繰り返した。
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