第120話【噂の天才占い師との遭遇】
拠点となる宿を決めた僕達はそれから数日の間は王都の街を散策して回っていた。
「やっぱり王都はお店の数も種類も格段に多いんだな。
人も多いし、これは治療をするにしてもかなり厳選してやらないとこっちが先に倒れるくらい忙しくなる可能性が高いだろうね」
「そうね。バグーダの時みたいに薬師ギルドが協力してくれたら上手く回るかもしれないけれど王都には有力者の知り合いも居ないし、ナオキの治癒魔法の噂もきてないから一筋縄ではいかないでしょうね。
あ、だからといって無差別に治癒するのは絶対にやっては駄目だからね。
いい? 約束だからね」
リリスとそんな話をしながら大きな雑貨屋の前を通り過ぎようとした時に店の中から呼び止める声がかかった。
「そこの可愛いお嬢さん。
今、王都で一番当たると評判の神占い師『ゴッツァイ』様の占いを間近で見ることが出来て運が良ければ占って貰えるかもしれない占い観覧券が当たるキャンペーンを実施中だよ。
うちの商品をなんでも3つ買うと抽選券が、金貨1枚分買うとその場で観覧券をプレゼントしちゃうよ!」
前にマリルに聞いた自称『神の目を持つ男、ゴッツァイ』か……。
見てみたい気もするけど関わり合いにならない方が正確なんだろうな。
「そうね。その方が良いわよね」
僕の意見を聞いたリリスは店の店員を見るとすました顔で答えた。
「すみませんが、占いには興味がありませんのでお断りしますね」
「おや、ゴッツァイ様の占いに興味がないとは若い女性とは思えない発言ですね。
もしかして田舎から出て来たばかりでしたか?」
アーロンド伯爵領内で2番目の町であるカルカル出身のリリスであったが、さすがに王都と比べれば所詮は田舎の地方都市、田舎者の言葉に少しだけ反応したが表情を変えずにスルーをした。
「本当に有名なんですね」
雑貨屋が見えなくなるまで歩いてからリリスが僕にだけ聞こえるように呟いた。
「そうだね。
占いをしてもらう権利じゃなくて占いをしてる所を見れる権利に価値があるのが驚いたよ。
普通、占いって静かな個室かなんかで相手と向き合って静かに運勢なんかをみるものだと思ってたをんだけど、今は占っている所を見せるのも商売になるんだね」
僕は別の意味で感心していると前の方がざわざわと人だかりの出来た場所に出くわした。
「なんだあの人だかりは?」
遠目に見ると輪の中心に若い男が見えてその周りを若い女達が取り巻きになっている。さらにその周りには荷物持ちだろうか、気の弱そうな男達が2人ばかり少し離れて着いていた。
(どこかの要人、もしくは貴族のボンボンかなにかだろうか……。
とにかくあまり関わりたくない雰囲気があるから避けておこう)
僕はそう感じてリリスと共に道の脇に移動してその集団に道を譲ったが、中心の男がこちらに気がつくと突然リリスに声をかけた。
「おっ! ここらでは見ない可愛い娘じゃないか。
ぜひ僕に君の名前を教えて貰えないかな」
どうやら僕を見た訳ではなく、リリスを見て声をかけてきたらしい。
「え? リリス……ですが、あなたはどなたですか?」
「おお!? この王都で僕の顔を知らない娘が居るなんて究極にショックですねぇ。
きっと田舎から出てきたばかりのイモガールなのでしょう。
いえいえ、言い訳なんてしなくても大丈夫ですよお嬢さん。
そんなあなたに僕自ら自己紹介をして差し上げましょう。
これでも僕はこの王都で今一番有名なクールガイ、神の目を持つ男『ゴッツァイ』と申します。
そこのイモボーイなんか置いといて僕と一緒に行きませんか?
この美しい僕の下僕達の一員として側に居る事を許してあげようじゃないか」
自称『神の目を持つ男』は精一杯のカッコいい(と思っている)ポーズを決めてリリスの手を取った。
「……………」
突然の意味不明な行為に僕は固まっていたがリリスは呆れ返ってジト目で「あ、間に合ってます」と言って男の手を払い除けてポケットからハンカチを取り出すと手を吹いてから僕の手を握り反対側へ歩いて行こうとした。
「まてまてまてーい!!」
ゴッツァイは初め何が起きたか理解出来ないでいたが、自分の誘いを断られたと認識したとたんにブチ切れて叫び声をあげた。
「まだ、何かご用ですか?」
呼び止められたリリスは冷静に男に向き直り返事をする。
「何かご用ですか?じゃない!
この僕が誘っているのを断るとか頭がイカれてるんじゃないか?」
キレている男は意味の分からない事を怒鳴り散らす。
今までの周りの人間がイエスマンばかりだったのだろう。
男の態度を見ても誰も止めようとはしない。
「あなたのお誘いはお断りしましたのでついて行く道理はありません」
リリスは再度はっきりと断りの言葉を述べる。
「はあ!? いいから俺が来いって言ってんだよ!
おい!そこのイモ野郎、さっさとその女に言い聞かせて俺に差し出さないか!
さもないと……」
男のあまりの豹変ぶりに危険を感じた僕は男とリリスの間に割り込んで男の襟元をグッと掴み、耳元で
「さもないと……どうするのですか?
このまま締め上げても良いですし、後に憂いを残さないために死んで貰うのも良いかもしれませんね」
「なっ!? 貴様! 僕に手を出せばどうなるか分かっているのか?
僕のバックには貴族がついているんだぞ!」
(聞いていたとおりだな。貴族ともめるのは避けたいが、この場をどう切り抜けるかだな)
「どこの誰と繋がってるって?」
情報を引き出すために僕はわざと曖昧な聞き方をする。
「へっ! 聞いて驚け『アクヤクノ子爵様』だ!
貴様のような奴は僕への侮辱罪で牢屋にぶち込んでやるからな」
僕に襟元を捕まれながらもイキがるゴッツァイに僕はため息をついて言った。
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