第116話【バカうま田舎料理と一時の休息】

 宿に戻った僕達は夕食を食べるために食堂へと足を運ぶ。


「夕食はオススメで頼むよ」


 席についた僕達の注文を取りに来たライラにそう伝えると「ではお任せコースでお運びしますね」と軽くお辞儀をして厨房に入っていった。


「さて、どんな料理が出てくるかな?

 マリルさんの話だと山菜料理と山鳥料理が美味しいそうだけど」


 僕はそう言いながら明日からの旅について料理が来るまでリリスと話しあっていた。


「お待たせしました。

 山鳥のソテー山菜添えとキノコのスープ、あと白パンになります」


 ライラはそう言いながらテーブルの上に次々と料理を運んでくる。


「おおっ! こいつは美味そうな料理だな。

 さっそく頂くとしよう」


「熱いうちに食べて下さいね」


 ライラが厨房へと戻るのを横目に見ながら僕達はアツアツの料理に手をつけた。


「うおっ? 肉が柔らかくて食べやすくて味もいい。

 この料理だけでも泊まる価値があるんじゃないか?

 他の宿には行った事がないから比較出来ないけど宿の大きさだけで人が少ないなら勿体ないよな」


「そうね。少なくとも料理に関しては素材は安価なのでしょうけど町で採れたものばかりで鮮度が良いのと、この宿の料理人の腕が良いのでしょうね」


「ライラさんは給仕をしていたから料理を作ってるのは父親なのかな?」


 僕達はそんな事を話しながら食事を美味しく完食した。


「ああ、美味しかった」


「そうね、良い料理だったわ」


 僕達が食事を終えて一息ついているとライラがポットを運んできて食後の紅茶を淹れてくれた。


「料理のほうはどうでしたか?」


 ライラの問に僕は「凄く美味しかったですよ」と絶賛をした。


「それは良かったです。父も喜ぶ事でしょう。

 では、ゆっくりとお休みくださいね」


 ライラはそう言うと食事の終わったテーブルの片付けを手早く済ませて他の接客業務に戻っていった。


「よし、じゃあ僕達も部屋に戻って休むとしようか。

 明日からまた数日間は馬車での休息になるだろうからベッドで休める日はしっかりと休息をとるとしよう」


 僕はそう言いながらリリスと共に借りた2階の部屋のドアを開けると良く掃除の行き届いている清潔感のある部屋が現れた。


 部屋の広さはそれほど広くは無いが、ベッドが2つに小さなテーブルに椅子が2つ、テーブルの上にはポットとカップが置かれていた。


「いい部屋だね。

 清潔感もあるし、窓もあるから光も入ってくる。

 落ち着いてゆっくりと休めそうだね」


「そうね。だけどベッドがダブル……ゴニョゴニョ」


「ん? 何か気になる事でもあったかい?」


「い、いえ。何でもないわよ。

 そうだ、今日は宿での宿泊だからいつものをお願いしても良いかな?

 旅の野営では人の目があるからとてもやってもらう訳にはいかないし……いいかな?」


 リリスは僕の顔を下から見上げて上目遣いでお願いをしてくる。


「あ、ああ。もちろん喜んでさせて貰うよ」


「ふふ。ありがと。

 じゃあせっかくだから紅茶を1杯飲んでからお願いしようかな。

 そのほうが良く眠れそうだから……」


 リリスはそう言うとテーブルにあったポットから紅茶を淹れてくれる。


「ナオキも一緒にどうぞ」


「ああ、ありがとう」


 僕はリリスから紅茶のカップを受け取るとそっと一口飲んでみた。


「うん、いい香りだね。味も渋くなっていないし、上手に淹れてあるね」


「本当ね。紅茶は淹れ方が良くないと渋味が出て飲みにくくなるんだけどこの紅茶は美味しいわ」


 ふたりして紅茶の味を堪能したので僕は「うーん」と大きく伸びをしてからリリスに「どうぞこちらに。僕の可愛いお嫁さん」と言いながら手を取ってベッドへとエスコートした。


「ふふふ。ありがとう」


 僕が先にベッドへ座り足を開いた間にすっぽりとリリスの華奢きゃしゃな身体が収まる。


「じゃあ失礼して治癒魔法をかけるよ」


 僕はリリスを後ろから抱きしめる形で右手を彼女の服の下からそっと入れ、身体を這わしながら魔力溜まりを探す。


 もう何度もやっている行為だがやはりお互いが緊張をしながら行為は続く。


「あっ、その辺りがいいわ。

 もっと強く抱きしめても大丈夫よ」


 リリスの言葉を聞きながら魔力溜まりまでたどり着いた僕はいつものように魔法を唱えた。


「――完全治癒ヒール


 こうなってしまうと後はお決まりの魔力注入に入る。


「あっ、ナオキ(の魔力)が私に入ってくる。

 あそこ(魔力溜まり)が熱くなって溶けてしまいそう」


 ――いつもの如くはたから言葉だけ聞くとかなりアブナイ会話になっているリリスに聞いている僕の方が赤面をしながらじっと耐えるのがいつもの寝る前の儀式だった。


「あああっ……」


 いつもながら盛大に昇天してしまったリリスをそっと抱えてベッドへ寝かせた僕は治癒魔法を受けて幸せそうな彼女の頬に軽くキスをして「おやすみリリス」と呟いて自らも隣のベッドへと潜り込んだ。


 婚姻の儀式は済ませたが、いつか何処かにきちんと落ち着くまではまだまだ本当の意味で深い関係になるのは先の事だと自らの心を戒めながら僕も眠りについた。 

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