第97話【リリスの臨時受付嬢講義⑤】
「お疲れ様だったね。あれから大丈夫だったかい?」
僕とナナリーが宿の食堂で夕食を食べているとリリス達が宿に帰ってきた。
「ええ、一度回復してしまえば暫くは大丈夫よ。
だから今日から毎日夜にやってもらおうと思うわ。
それで一日を乗り越えられるようならばだんだんと頻度を少なくして最終的にはゆっくり休めば回復するくらいまで仕事の負担を減らせれば任務完了になるわ」
「そう簡単に行けばいいけど、実際問題で結構大変なんじゃないのか?」
僕とリリスが話していると内容が理解出来ていないクレナが話に入ってきた。
「今の話は私の事ですよね?
回復とか、夜にするとか何の事なのですか?」
「ん? クレナさんは倒れた時の事は憶えてないのか?」
僕がリリスに聞くと「ええ、全く憶えてないでしょうね」と答えた。
「そうか、ならば夜にするのならばきちんと意思確認をとらないと駄目だからな」
「分かってるわよ。
あの時は倒れて意識が無かったから仕方なく治療してもらったけどそうでなければきちんと手順は踏んでやるわよ」
「あの……。
結局、何の事かの説明はして貰えるんでしょうか?」
横から不安そうな声でおずおずと聞いてくるクレナにリリスが「もちろんよ。食事が終わって温泉に入ったらあなたの部屋でするからその時に詳しく説明するわ」と告げて自分の食事を注文した。
「する?って何をするんですか?
凄く嫌な予感しかしないんですけど。
はっ!? まさかこの場ではとても言えない事を強要してきて……」
――すぱん!
クレナの妄想がエスカレートさしてきたのでリリスが自作のハリセンでクレナの頭頂部を
「いったーい! なにするんですか?」
叩かれた頭をさすりながらクレナが非難の声をあげた。
「こんなところで変な事を大声で喋りだすからよ!」
リリスの言葉に周りを見るとひそひそと話しては顔を背ける食事中のお客が沢山いたのでクレナは顔を真っ赤にしながら『またやってしまった』とばかりにテーブルに突っ伏した。
「ほら、もういいから早く夕食を食べて温泉に入ってきなさい」
ちょうどリリスとクレナの注文した料理がきたのでそう促すとリリスは黙々と食事を進めた。
* * *
「――言われたとおり温泉に入ってきましたけど一体なにがあるんですか?」
夕食後に名物の温泉に入ってきたクレナを部屋で3人が待ち構えていた。
「とりあえず、この書類を読んで下の同意書にサインしてね。
あ、一応形だけ同意書になってるけどあなたの場合は強制だから同意出来なくてもサインをして貰うわよ」
「なんですかそれ?
めちゃくちゃ怖いんですけど……お金ならありませんよ、やっと見習いから上がったばかりなんですから」
クレナはそう言いながら同意書に目を通す。
「治癒魔法の使用に関する同意書……ですか?
治癒魔法を行使するにあたり、治癒士が魔力溜まり付近(具体的には心臓の辺り)を直接手で触れる事になりますが治癒魔法発動条件に必要な事ですので同意を願います」
クレナはその同意書を読んで頭の中でシミュレートをする。
「えっと、心臓の辺りを手で触って魔法をかける……」
クレナは自らの手を心臓に持って行きその位置を確認してある事に気がついて顔が赤くなる。
「え? これ何かの冗談ですよね?」
クレナの問にリリスは真顔で「いいえ。真面目な話ですよ」とあっさり返す。
「え? だって、治癒士ってナオキさんの事ですよね?
ナオキさんってどう見ても男性ですよね?」
クレナは戸惑いながら僕を見ると直ぐにリリスの方を向いて涙目になる。
「そんな情けない顔をしないの。ナオキの治癒魔法は万能だから怪我や病気はもとより疲労から美容にまで効果があるのよ。
タダで綺麗になれるって凄くラッキーな事だと思うけどね」
リリスの『美容に効果』と『綺麗に』のワードにクレナの耳がぴくりと動く。
「それ、本当ですか?」
「嘘を言っても仕方ないでしょ?
特別に触らせてあげるから私の肌に触ってみなさいよ」
リリスの言葉にクレナはそっと彼女の身体に触れてみる。
初めに腕から確認して顔、脚ときて胸やお尻までペタペタと触って見る。
「こ、こら!
何処を触ってるのよ!
腕と顔だけで十分でしょ!」
くすぐったかったようでリリスが非難の言葉を言う。
「凄い……。
なんて綺麗ですべすべなお肌なの」
クレナも年頃の女性で人に見られる仕事についているだけあって『美容』に関しては人一倍関心が高かったようだった。
「受けます!
私、綺麗になりたいです!」
当初の目的とはズレた認識となったがクレナは綺麗になれると聞いて前のめりでリリスの両手を握って叫んだ。
「え、ええ。分かったけど規則だから一応サインは頂戴ね。
あと、この治療は疲労回復が目的だから美容は副産物的なものと考えてくれると嬉しいかな。
それと、この治癒魔法の効果については基本的に他言無用よ」
リリスは念の為にクレナに他言無用の念を押す。
「分かりました。
確かにそんな話が知れ渡ったら女性が押し寄せてきてナオキさんが大変な事になりそうですもんね」
クレナはにこにこしながらリリスから言われるとおりにベッドなや仰向けで横になり、からだの力を抜いてリラックス状態になる。
「じゃあ始めるよ」
僕の言葉を聞くとクレナはいきなり現実に引き戻されたように緊張から身体を硬直させる、やはり男性に胸を触られるのには抵抗があるのだろう。
「緊張するのは分かるけど力を抜いてリラックスしないと効果が半減するよ」
僕はそう言いながらクレナの胸に手を触れる。
ふかっ。
見た目よりも弾力性のあるしっかりとしたふたつの山が僕の手を押し返そうとする。
「んっ……」
クレナが小さく反応するが、僕は聞こえないふりをして魔法をかけた。
「
魔法が発動をして、いつものように魔力の注入が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます