第72話【拠点探しとナナリーの仕事】

 混浴告白騒動いろいろなことがあった夜だったが、僕達は以前からの約束どおりに男女の一線を越える事は無かった。


 ただ、リリスの疲労回復と銘打った『就寝前のスキンシップ治癒魔法』は今後、毎日行う事になり、僕の心臓が持つかどうかの方が心配の種になった。


「本当にいい宿だったね。

 この町を離れる最後の日は絶対にまたこの宿に泊まることに決めたからね」


「うん。僕もそうしたいと思ったからしっかり仕事をしなくちゃね」


 次の日の朝、少し遅めの朝食をとり、宿を後にした僕達は楽しげに話しながら町の案内所を訪れた。


「すみません。

 少し聞きたい事があるのですがどなたか町の宿について詳しい方が居られませんか?」


 案内所のカウンターでは観光客などに町の説明をする案内嬢が資料をテーブルに並べて熱心に話をしていた。


「宿屋の情報ですか?

 ならば適任者が居ますので少しお待ちくださいね」


 その案内嬢は僕達を個別のブースに案内すると自分の担当仕事に戻っていった。


「なんだか、仕事の流れが斡旋ギルドに似てますね。

 部屋の造りも似てるし受付嬢……ここでは案内嬢だけどお客の捌き方がそっくりなのよね。

 まあ、だからと言って何か問題になる訳じゃないんだけどね」


 リリスの感想を聞きながら待っているとひとりの小柄な案内嬢が資料を抱えてブースに入ってきた。


「おまたせしま……きゃっ!?」


 その小柄な案内嬢は手に持った資料を落としてそれにつまづき派手に転んだ。


「おっと!?」


 彼女の転んだ先にちょうど僕が座っており、その身体を全身で受け止める形になった。


 むにゃり


 受け止めた彼女の凶器のような確かなふたつの弾力が僕の身体に押し付けられる。


「ご、ごめんなさい。

 受け止めてくれてありがとうございます」


 案内嬢は慌てて起き上がると受け止めてくれた僕に深々と頭を下げてお礼を言い、顔を上げて固まった。


「ナオキ様!?」


 その声に反応した僕は驚いた表情で聞き返していた。


「ナナリー……さん?

 どうしてここに?」


 僕は意外なところで彼女に出会った事に疑問形で聞いていた。


「どうしてって、私、案内所ここで働いてますから」


 ナナリーの言葉に横からリリスが割って話に入ってくる。


「でも、ナナリーさんはお母様が斡旋ギルドのギルドマスターをしていますよね?

 だったら斡旋ギルドの受付嬢をしているのが自然じゃないですか?」


 リリスの言葉にナナリーは特に不機嫌になる事も無く事情を話してくれた。


「確かにお母様は斡旋ギルドのマスターをされていますし、私に対して甘い所があるのですが、斡旋ギルドの事になると妥協をしない所があってまだ未熟な私が受付嬢に抜擢されたら贔屓ひいきだと周りからの批判が目に見えてましたから……。

 で、とりあえず斡旋ギルドの下部組織である案内所の案内嬢として勉強してから斡旋ギルドへ行くようにと案内所こちらにお世話になっているのです」


 ナナリーはそう説明しながら持ってきた資料をテーブルに並べていく。


「ナオキ様にアザを治して頂いたおかげで自分に自信が持てましたのよ。

 また、お会い出来て嬉しく思いますわ」


 資料を並べ終わったナナリーは僕達の向かい側の椅子に座りオススメ宿屋の説明の為に条件を聞いてきた。


「どのくらいの期間でいくらくらいの予算でしょうか?

 場所は? 部屋の間取りは?」


 マニュアル通りなのだろうが必要な条件を全て確認してくる姿勢は好感がもてた。


 全ての条件は前もって決めてあったので難航することなく最終的に数軒の宿屋に絞られた。


「では、実際に宿屋に行って確認されますか?

 今選ばれている宿屋は何処も問題のない宿ですがあくまて条件だけであって外観や内装は好みがありますから」


 ナナリーの説明に頷いたリリスが「そうね。コレとコレとコレの3箇所ほど案内をお願い出来るかしら? その中から決めたいと思います」と言って席を立った。


「では、案内の準備をして来ますので入口の辺りでお待ち頂けますか?」


 僕達の了承を得るとナナリーは僕達を残して奥の部屋に入っていった。


   *   *   *


「こちらが1軒目になります。

 この宿は食堂に酒場が併設されているのでお酒の好きな方にはオススメです。

 いろいろな種類のお酒が提供されているので必ず好みのものが見つかると思いますよ」


「好みのお酒……」


 リリスの表現が少しばかり緩む。


(こう見えてリリスは美味しいお酒が好きだからな……あまり呑み過ぎないように気をつけてあげなきゃな)


「こちらが2軒目になります。

 この宿の特徴は食事が美味しいとの評判が高い事ですね。

 肉料理からスープまで腕のいい料理人を領都から引き抜いてきたそうでそれを目当てに泊まるお客も多いそうです」


「美味しい料理……」


 リリスの表情がさらに緩む。


「毎日食べるものだから食事が美味しいのは嬉しいよね」


 僕は素直な感想を伝える。


「最後にここが3軒目になります。

 えっとこの宿は……ナナリーはメモを見ながら説明を続けた。

 お風呂が素敵なのと長期滞在だと他の2軒に比べて料金が安いプランがあるのが特徴ですね」


「風呂がいいのは嬉しいね。

 しかも長期割引がきくのもありがたいな」


 それぞれに惹かれる内容に僕は決めきれずにリリスに全て丸投げした。


「僕では決めきれないから頼むよ」


 手を合わせる僕を見てため息をついたリリスは少し考えてからどの宿にするかを決めてくれた。

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