第66話【2度目の蘇生魔法】
「おかあしゃま!」
少女は叫びながら倒れ込んだバークの横をすり抜けて部屋に入って行った。
「バークさん!」
僕は目の前で倒れ込んだバークを放ってはおけずに身体を揺すって声をかけた。
「リリスは中の確認を頼む!
患者が居たら状態の確認もしてくれ!」
僕はリリスに指示を出してからバークの状態を確認する。
(息もあるし、脈も正常だ。
ショックで気を失っただけだろう)
そう判断した僕は彼を床に仰向けで寝かせてから部屋に入った。
「リリス!」
部屋の中ではベッドに横たわる女性と必死に起こそうとする少女が目に飛び込んできた。
「おかあしゃま!起きて!」
その様子に僕はリリスを見るが、静かに首を振った。
「――
僕は少女の母親の症状を確認する為に鑑定魔法を使った。
『心肺停止状態――。
死後30分が経過しています』
「!!!」
僕は鑑定結果に目を疑ったがリリスの様子からも間違いないと判断した僕は治療に入ろうとしたがリリスに止められた。
「まだ、バークさんの許可がとれてません。
気持ちは分かりますが本人の許可が取れない状況ですので絶対に必要です」
僕は『緊急事態に何を言ってるんだ』と思ったが少し冷静になるとリリスの言うとおりバークを起こしにかかった。
「バークさん! バークさん!」
男性に治癒魔法を使う訳にもいかないので顔を叩いてみたり、揺すってみたりと従来の方法で起こしていった。
「うっ! ここは?」
数分後、バークが気が付き頭を振って記憶を辿る。
部屋からは娘の泣き声が部屋の外まで聞こえていた。
「おかあしゃま! おかあしゃま!」
その声に全てを思い出したバークは頭を抱えて項垂れた。
「バークさん! あなたの奥様に蘇生魔法をかけても良いですか?」
その言葉にバークは僕が何を言っているのか分からない様子で「一体なにを……」と返すのがやっとだった。
「僕は奥様を生き返らせる事が出来ますがあなたの許可が必要なのです! 許可をください!」
僕の剣幕に思考の止まっていたバークが僕にすがって叫んだ。
「本当なのか!?
本当に生き返らせる事が出来るのか!?
だったら頼む! お礼は何でもするから妻を、妻を!!」
「分かりました。必ず成功させてみせます!」
僕はそう宣言すると彼女の前に立ち、祈りを込めて魔法を使った。
「――
僕の魔力注入が始まり彼女の身体が淡い光を帯びていく。
(このまま、ありったけの魔力を流し込めば……)
――どのくらいの時間がたったのか分からなくなるような感覚に僕は意識を持っていかれないように歯を食いしばっていた。
やはり、部位欠損などとはレベルの違う消耗具合に僕の心が折れそうになった時、目の前で大粒の涙を流しながらも母親にすがるのを必死に我慢している少女の姿を見て耐え忍んだ。
「あと、もう少し……」
僕の疲労がピークを迎えると同時に魔力流入が終わり、治療も終わった事を知った。
「ナオキ!?」
「リリス……。
すまない、また魔力切れの様だから暫く休ませてくれ……」
薄れゆく記憶の隅でリリスの声が心地よかった。
* * *
(――ここは?)
目が覚めた僕はベッドに寝かされていて側にはリリスが椅子に座ったままでうたた寝をしていた。
(リリスにはまた心配かけてしまったから謝らないといけないな)
僕はそう思いながら身体を起こして身体の状態を確認した。
「リリス」
僕が彼女に声をかけると『ハッ』とした表情をした後、涙を浮かべて抱きついてきた。
「良かった、気がついたのね。
前にも魔力切れで倒れた事があったから寝てれば大丈夫だと分かってはいたけど、やっぱり心臓に悪いから無茶はしないで欲しいな」
「ゴメンな。
予想はしてたけどやっぱり蘇生魔法は僕の全ての魔力を使い果たさないといけないくらいの消費だったな。
君の時は気持ちの高ぶりで限界を越えて魔力流入をしたけど今回は普通にギリギリで終わったから副作用は出ないと思うよ」
リリスから聞いた話だが、僕が意識を失ってから現場は騒然としていたそうだ。
バークの奥さん(後で名前をミナと聞いた)は1年ほど前から寝たきりで薬師や魔術士にも原因不明と見放されていたらしい。
僕が治療の話をした時に考える素振りをしたのはこの事だったが、領都での僕の治療を知らないバークは治癒士を普通の魔術士と同義に考えていて、とても奥さんを治せるとは思いもよらなかったそうだ。
「君を信用せずすぐに治療を頼まなかった事、本当にすまなかった!
そして妻を救ってくれてありがとう。本当にありがとう」
僕が起きたと聞いたバークが部屋に入るなり床に手をついて謝罪とお礼を繰り返した。
「仕方ないですよ。
確かに領主様の免状はありますが、どれだけの治療が出来るかは書いてありませんからね。
これから行く町での課題として受け止めておきますよ」
僕がそう言って笑うと、バークは再度お礼を言ってからこれからの事について話を始めた。
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