第30話【リリスの告白と一つの約束】
「――だから何も無かった事にした方が良いって言っただろ?」
「だって、私もそこまでやらかしてるとは思わなかったんだもん」
「まあ、終わった事はクヨクヨせずに前を向いて生きろ。
僕なんかに見られていたって僕が他に話さなければ済む事なんだから……」
僕はそう言ってリリスを慰めるが彼女は下を向いて何やらゴニョゴニョと言っていて聞いていない様子だった。
「………ってよ」
「ん? なんだ、何かあるのか?」
「『
あんな姿を
「はぁ!? なんかそれ責任を取るの意味が違わないか?」
「――そうだけど……。
でも!」
「でも……じゃないぞ。
大体、君は僕の事を好きになって告白してる訳じゃないんだろ?
ただ、裸を見られてちょっと
そんな関係でお互いが幸せになる事はきっと無いと思う。
違うか?」
僕はゆっくりと彼女を
「大体、僕は君の理想の彼氏には程遠い存在だよ?
貴族でも無いし、豪商の跡取りでも無い。それほどイケメンでも無いし歳も7つも上のおじさんだ。
君のような若くて可愛い
それに、僕は職業がら治療のためではあるけど多くの女性の胸を触る機会のある男だ。
今は君も仕事だから気にしないでいられるだろうけど、もし僕と付き合う事に、若しくは夫となった時、その行為を冷静に見ていられる自信はあるかい?」
僕は客観的に見てこのままなし崩し的に話が進むのは危険だと感じて一旦冷静になるように務めた。
(正直いってリリスは若くて可愛いし、そんな彼女と付き合えるとか夢みたいなものだけど、ここは僕が大人の対応を冷静に示さなくてはいけない時だ)
「分かってくれたかい?」
「――違うもん……。勢いだけじゃないもん……」
リリスは僕の言葉に大粒の涙を一杯に溜めてこぼれ落ちるのを我慢しながら反論した。
「お、おい……一体どうし……」
彼女の涙に僕は慌ててハンカチを出して涙を拭ってあげた。
「裸を見られたからじゃないし、
そんなのはただの口実に過ぎないの!わかってよ!この鈍感男!!」
リリスはそう叫ぶと僕の胸に握った両の拳を『ドン』とあて、こぼれる涙を拭いもせずに頭を僕の胸に押しあてて泣いた。
* * *
「――少しは落ち着いたか?」
正直言って彼女の行動は予想外だったし、そのため僕の行動は彼女を傷つける方向に向かっていたと言える。
「その……悪かったよ。
君がそこまで想っていてくれているとは考えていなかったんだ」
僕は素直に謝る。
「じゃあ結婚してくれる?」
僕の胸から頭をあげたリリスが上目遣いで僕を見上げる。
そんな彼女の肩に手を置いた僕はその身体を引きはがしてからゆっくりと言った。
「君の気持ちは嬉しいけれど、そう事を急ぐ必要は無いんじゃないかな?」
リリスはそう言う僕をしっかりと見据えて次の言葉を待った。
「僕達はまだ出会ってそう長くないし、お互いそういった関係として意識をしてきた訳でもない。
あくまでも仕事を通じて知り合って縁があって今も一緒に仕事をしている同僚だ。
そんな状態でいきなり婚姻を結ぶのは順番を飛ばし過ぎだと思うんだ」
じっと僕を見つめるリリスを前に照れくさくなって頭を掻きながら「分かってくれるかい?」と言う。
「それはつまり『今』は結婚出来ないと言ってるんですよね?
それじゃあ『いつ』なら良いんですか?」
リリスは全く引く気がないらしく、どうにかして僕の了承を得ようとする。
そんな彼女に対して曖昧な態度を貫くのはかえって彼女を傷つけるのが分かった僕はため息をついて彼女に言った。
「そうだな。じゃあひとつ約束をしよう。
まず1年間ほど婚姻を前提で付き合う事にするんだ。
そして、1年間経っても君の気持ちが変わらなければその時はその気持ちを受け入れよう。
もちろんそれまでは男女の関係は一切無しだぞ」
「えー! キスも駄目ですか?」
目に涙を浮かべてリリスが問う。
「ゔっ、それは……。ま、まあそのくらいまでなら……な」
「やったぁ! 絶対に約束ですよ。見てなさい、この一年で私以外の女の子が目に入らないようにしてあげるわよ」
リリスが喜びを爆発させて僕の胸に飛び込んで来る。
「はは、お手柔らかに頼むよ」
こうして、リリスとの正式なお付き合いが始まり、これからはお互い名前の呼び捨てで呼び合う事も確認した。
* * *
「――はい。次の方、診察室へお進みください。
あ、お連れの方も一緒に入っても大丈夫ですよ」
朝から色々と濃い内容の事件があったおかげでその後の診察は多忙を極めていった。
「はい! 次の方、診て欲しい内容を教えてくださいね。
あっ、ナオキ!勝手に休憩してちゃ駄目じゃない!患者さんが待ってるんだからキビキビと診察をしてくださいね」
今日の診療は終わるまで休憩は取れそうも無かった。
「リリスさん。もう、勘弁してください」
「ほら、私に『さん』づけはしない約束でしょ。あはは」
今日のリリスは本当に幸せが溢れていた。
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