第27話【彼女が本気で酔った夜】
「はいよ、お待たせ。時間も材料も無かったから大したものは出来なかったけど腹はふくれるだろうよ」
僕が台所から料理を運んでくるとテーブルにはコップに半分程入ったお酒を呑みながらニコニコしているリリスが待っていた。
「あら、ナオキ。どうしてここに居るの?
えっ? 料理を作ってくれたの? ありがとう!」
酔っているのか上機嫌なリリスは僕の家だとの認識では無く、自分の家だと思いこんでいるらしかった。
まあ、彼女も住み込みだから自分の家と言えばそうかもしれないが……。
コップに半分だけ残ったお酒と昨日の様子から彼女はあまりお酒には強くないんだろうと苦笑いをしながら『僕もどんなものか少しばかり試してみるか』と思い、彼女の側にあったお酒の瓶を持ち上げて愕然とした。
(中身が無い?
まさか彼女が全て呑んでしまったのか?)
「リリスさん。まさかそれ最後の一杯ですか?」
僕は恐る恐る彼女に効聞いた。
「ほへっ? ああ本当だ。もう無くなったのね。
あのね、このお酒凄く甘くて美味しいの。
ナオキも呑んでみてよ……ってもうこれしか無かったんだっけ。
じゃあこれ私の飲みかけで悪いけどあげるから飲んでみて。うふふ」
確実に酔っているリリスは僕に飲みかけのコップを渡してくる。
「ほら、早く飲んでよ。でないと私が全部呑んでしまうわよ。うふふ」
「わかりましたよ。では一口だけ頂きますね」
僕はそう言うと本当に一口だけお酒を呑んでみた。
「うお!?
あのおばあさんが言っていた通り口当たりが良くて甘口の上等なお酒だった。
しかし、次の瞬間『ぐらり』と目の前が一瞬揺らいた感じがした。
(マジか? このお酒、一体アルコール度数はいくつなんだ?
生前に友人と飲み会をやった時に興味本位でウオッカを回し飲みしたことがあったけどその時の感覚によく似ているぞ。
と言う事は大体40度くらいだと思うけど高いものになると90度を超えるものもあるからな。まさかな……)
一口飲んだコップを片手に考え込んでいた僕の手にリリスが自分の手を延ばしてきた。
「もう飲まないの?
じゃあ私が飲むから頂戴!」
「いやいや、もうやめておいたほうがいいって。
ほら水を飲んで、少しは食べないと身体を壊すぞ」
僕は冷静にリリスに水を手渡すと料理をテーブルに並べていった。
「いっただっきまーす!」
陽気になっているリリスは僕が作った料理をパクパクと平らげていく。
「美味しい。美味しい」
本当に味が分かっているのか判断がつかないが「美味しい」を連呼して食べてくれるのは作った方としては嬉しい事だ。
その姿を見て僕はようやく自分の食事に手をつけることにした。
「でね、聞いてよ」
僕が食事を食べ始めるとちょうど食べ終わったリリスは水のコップを片手に話しかけてきた。
「ん? なに?」
食べ始めたばかりだったのもあり、僕は彼女の方をちょっとだけ見ると相づちだけうって食事を続けた。
「なーに? ナオキは私の話よりも食べる方が良いの?
へー。そうなんだぁ」
なんだかヤバそうな雰囲気を醸し出していたので僕は一旦手を止めて彼女の方を向いて言った。
「もう少しだけ待ってくれないかな? 君はもう食べたから良いけど僕はまだ食べてる途中なんだ。
食べ終わったらいくらでも聞くからさ」
出来るだけ冷静に返事をしたつもりだったが彼女は聞こえてないように勝手に話し出した。
「でさぁ」
「で、これがねぇ」
「聞いてよ!○○がさぁ」
「この間なんかね」
「ありえないでしょ?」
リリスの一人話は延々と続く。聞かないと機嫌が悪くなるから結局、彼女の方を向いたまま食事の続きをする事になった。
「あー、楽しかった」
一通り話したリリスは満足したようでニコニコと笑顔で水を飲んでいたが急にパタパタと手で顔を仰ぎだした。
「ふー、暑いわね。喉が乾いたから飲んでるけど、このお酒水っぽくない? お店の人に騙されて水で薄めたお酒を売りつけられたのかな?」
リリスはただの水を薄めたお酒だと思い込んでるようだった。
(これはマズイな。ただの水でも本人が酒だと思いこんで飲んでると頭が勘違いをおこして酔っ払うと聞いたことがある。
それでなくても彼女は本当に酔ってるのだからこれ以上は危険だろう)
「リリスさん。それは水ですよ。お酒ではありませんので間違えないでください」
そんな僕の言葉なんか聞こえないらしく、彼女は次にとんでもない事を言い出した。
「暑い……脱ぐ」
リリスはそうひと言呟くとカーディガンを脱いで床に放おった。
「なに脱いでるんてすか!?」
「えっ? だって暑いじゃない。ああこれも脱いじゃえ」
リリスはそう言うと上シャツも脱いでまたもや床に放った。
「ちょっ、ちょっと! リリスさん!」
僕は慌てて手を左右に振って静止するがリリスは笑いながら最後の一枚をも脱ぎ捨てた。
「あー、やっと涼しくなったわ」
こちらの世界には胸当てなるものがないため、上半身裸になったリリスをまともに見ることが出来ない僕は彼女の身体を隠すタオルを持ってこようと立ち上がった。
その目の前でフラリと椅子から立ち上がったリリスはスルリとスカートまで脱いで下着のみの姿で微笑んだ。
ドキリ。
彼女のあらわな姿に僕の頭の中で理性と衝動のバトルが繰り広げられる。
だが、その戦いが終わる前にリリスがひと言「眠くなったから先に寝るね」と言って自分の部屋に戻って行った。
後に残された彼女の脱いだ服とこのどうしようもない気持ちを解消するのに疲れた僕はその夜、ほとんど眠れなかった。
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