第14話【伯爵家からの依頼①】
「知ってる天井だ……」
次の日、目が覚めた僕は昨日の一連の流れを思い返して頭を抱えていた。
ワザとではない、ある意味不可抗力な流れだったとはいえ、18歳の彼女の胸を掴んでしまった事は言い逃れ出来ない事実だった。
(なんて謝れば良いんだ? とりあえず土下座か!?)
そんな事を考えていると、ドアがノックされ静かに開いた。
そこには少し顔を赤らめてはいるが普通を振る舞っているリリスが立っていた。
「おはようございます。朝食に行きませんか?
私もこの後、ギルドに顔を出しておきたいので……。
それと、ナオキさんにミリーナさんから手紙が届いてますよ。
おそらく領主様からの招集依頼だと思いますけど」
リリスはそう言うと一通の手紙を僕に渡した。
どうやら昨日の出来事は不可抗力としてスルーしてくれている感じだったので、僕の方からもあえて話題にしなかった。
「体調の方はどうですか?」
「はい。あれから嘘のように身体のダルさや熱っぽさが無くなりました。今はすこぶる体調は良いです」
「それは良かったです。もし、何かありましたらすぐに相談してくださいね」
「は はい。分かりました。では先に朝食に行きますね」
リリスはぎこちない動作で後ろを向いて食堂へと歩いて行った。
(あっ!しまったな。今の流れじゃまた治療が必要なら昨日と同じ状態になりますよと言ったようなものだったな)
僕は顔に手を宛てて天井を仰ぎながら『また失言だったかな』と呟いた。
食堂で朝食を頼み、配膳されるまで先程渡された手紙を読んでみる。
「何が書かれてるんですか?」
リリスも大まかな依頼内容は知っているが、詳細は聞かされていなかったので気になったようだ。
「とりあえず、領主邸に来てくれだって。
詳細についてはその時に説明するそうだ。
それにもし詳細が書いてあっても患者の守秘義務があるからいくら斡旋ギルドの職員でも情報は漏らせないよ」
「まあ、そうだよね。って言うかそれでペラペラ喋るようならギルドから厳重注意の指導があるわよ」
リリスは意地悪そうな笑顔でそう答えた。
* * *
「――さて、行くとするか」
僕は指定された時間に迎えに来た馬車に乗り、依頼の確認に領主邸へと向かった。
「――こちらになります」
馬車て領主邸の門前まで送って貰った僕はミリーナの案内で屋敷の応接室へと案内された。
ソファに座って出された紅茶を堪能していると反対側のドアからミリーナと恰幅の良い豪華な服を着た男性が続けて入ってきた。
「領主のアーロンド・フォン・サナール伯爵だ。
この度は妻の怪我を治療して欲しくて来て貰った事、ありがたく思う」
「治癒魔法士のナオキです。
主にカルカルの町の斡旋ギルドに所属して活動しています」
僕は相手が領主とあっていつも以上に失言のないように気をつけて話す。
「君の噂は聞いているよ。あまり良い噂ではないがそれを鵜呑みにするほど愚かではないつもりだ。
こちらでも独自に調査をさせて貰った結果からすると君は神の祝福を授かりどんな怪我でも治せる魔法が使えるとあった。
にわかには信じがたいが妻の怪我は領内はおろか王都の魔術士に依頼しても治してやる事が出来なかった」
「奥様の怪我とはどういったものなのでしょうか?」
「………片腕の切断だ。妻は先月のある事故で片腕を切断する大怪我を負ってしまった。
運良く処置が出来る部下がいた為に命は助かったのだが、流石に失った腕を治す事は出来なかった。
もとより腕の接合や再生など普通の者に出来る筈のない事だとは頭では分かっているつもりだが、塞ぎ込みパーティーなどへの参加を全てキャンセルする妻の姿を見るたびに不憫でたまらんのだ」
「分かりました。では本日の治療内容は奥様の片腕の再生治療ですね。
まずは問診をしますので奥様に面会をさせて頂けますでしょうか?」
僕の言葉に半信半疑のアーロンドだったが自ら依頼した手前、妻に会わせる事を渋る事は無かった。
「妻は自室で休んでおる。
ミリーナ、彼を妻に会わせてやってくれ」
「はい。旦那様」
ミリーナはアーロンドにお辞儀をしてから僕の前に立ち「こちらにお願いします」と軽くお辞儀をした。
「――奥様は怪我の他にも何か気になる点はありませんか?」
僕はミリーナに案内されながら情報収集に努める。
「奥様はとても美しい方なのですが、怪我をされてからは人前に出ることを極端に嫌われて食事もあまり進んでおりません。
もし、あなたが本当に奥様の怪我を治せるのならばきっと明るくて聡明な奥様が戻ってくると信じています。
奥様を宜しくお頼み致します」
「精一杯やらせてもらうよ」
「――こちらのお部屋です」
コンコン。
「奥様、ミリーナです。旦那様からのご依頼で怪我の治療を受けてくださった治癒魔法士のナオキ様をお連れ致しました」
「どうぞ、お入りなさい」
「失礼します」
入室許可がでたのでミリーナと僕は伯爵夫人の部屋に入った。
「こんにちは。あなたが私の治療をしてくれる方なのですね?
サラです。わざわざ来て貰って悪かったわね」
そこにいたのは気疲れで少しばかりやつれてはいたが美しい妙齢の女性だった。
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