第8話【順調な稼ぎと予想外の指名依頼】
あれから斡旋ギルドにはちょくちょく荷物の配送依頼が舞い込んできていた。
どんな大きくて重い荷物も簡単に運んでくれると斡旋ギルドで口コミが広がっていったからだった。
「はい、今回の報酬はこれだけですよ」
すっかり僕の専属扱いになったリリスから依頼報酬を受け取ると毎日の日課となったあの言葉を伝える。
「それで本職の治癒依頼は入って無いですか?」
リリスはその言葉に笑顔で毎日同じセリフを言っていた。
「ふっふっふ。残念、ありませんねー(笑)」
((笑)じゃないと思うんだけどなぁ)
つまり、そう言う事だった。
大きな怪我や病気でない限り薬で対応出来る事の多いこの町では治癒魔法士としての仕事は壊滅的に無く、副職であるはずの荷物運搬依頼ばかりをこなす日々。
確かにお金は多少なりとも貯まってきたし、前に高くて手が出ないと思っていた領都への馬車代金も払えるくらいには余裕ができていた。
(でも、このままここで荷物運搬の仕事をしていても、人を助ける為に貰った能力を使わないまま時間が過ぎるだけなのは何だか違うよな)
「やっぱり領都に行ってみるしかないのかな……」
荷物運搬の依頼を着実にこなしている中で、この町の人達ともそれなりに知り合いが出来て居心地も良くなってきていた。
最近ではあれだけ広まっていた悪評もすっかり鳴りを潜めてギルド内でも皆が気軽に話しかけてくれるようになっていた。
「まったく、羨ましいねぇ。その能力だけで一財産くらい簡単に稼げそうじゃないか。
今度頼みたい依頼があるから安く受けてくれよ」
「そうしたいですけど、ギルドにもお世話になってるのでギルドに依頼を出して貰えると助かります」
そんな他愛もない会話をしていると受付からリリスが僕を呼んだ。
「ナオキさん! 緊急の指名依頼が届いたのですが、今からお時間は取れますか?」
(緊急の指名依頼? そんなものはギルドに所属してから初めての事じゃないか?)
「ええ、大丈夫ですよ」
僕が答えると、リリスは「では第一応接室にお越しください」と言って、自分は誰かを呼びに奥へ走って行った。
僕は言われた通り第一応接室の前で待っていると、リリスが奥の通路からギルマスを連れてやって来た。
「ナオキさん、お待たせしました。では中へどうぞ」
リリスはドアを開けて先に僕を迎え入れる。
その後をついてリリスとギルマスのラーズが入り、向かいのソファに腰を下ろすとラーズが数枚の依頼書をテーブルに置いた。
「領主のアーロンド伯爵からの依頼書だ。
簡単に説明すると少し前に事故で大怪我をされた伯爵夫人の治療を依頼したいと言うものだ」
「大怪我との事ですが、一体どんな状態なんですか?」
「いや、詳細は書かれていないが、まずは領都の領主邸に来るようにとの事だ」
「いつ出発すればいいですか?」
「明日の朝に馬車を準備すると書いてある。
領主様からの依頼だから断ることは難しいのですまないが行ってくれるか?」
「まあ、ちょうど領都には行ってみたいと思っていた所ですから馬車代金がかからずに行けると思えばある意味ラッキーだとも言えるかな」
僕がそう言って席を立とうとすると突然リリスが「私も一緒に行っても良いですか?」と言い出した。
「突然何を言い出すんですか? リリスさんはこのギルドの受付嬢であってわざわざ僕の依頼についてくる必要はないんですよ」
「それは分かってますけど、ナオキさんの能力を良く知っているのは私ですし、ナオキさんがもしこのまま領都に移住するならば今回の完了報告の受付が出来る私が一緒に行った方が無駄が無くていいと思うんです」
リリスは必死に自分がついて行く意義をギルマスに説明する。
「まあ、リリスの言うことも一理あるとは思うが、お前が居ない間のギルド運営に支障は出ないのか?」
「うっ それは……少しだけ心配かもしれないけど私が居なくても回せるギルド運営の練習だと思って……駄目ですか?」
「領都まで行って彼が依頼をこなして完了処理をして帰ってくる。
大体20日程かかるな」
「あはは、やっぱり駄目ですよね? ナオキさんが領主様に失礼を働かないかが凄く心配ですけど、やっぱり20日間も仕事を空けるのはまずいですもんね。
すみません。諦めます」
リリスは残念そうな表情を隠そうともせずにお辞儀をして先に部屋を出て行こうとするがそれをラーズが静止する。
「まあ待て、リリス。俺は駄目だとは言ってないぞ」
「えっ!?」
リリスがドアの前で振り返る。
「やれやれ、ナオキはうちのギルド所属のメンバーだ。
普通ならば個人の責任で行動してもらうのだが今回は領主様からの依頼だ。
彼の能力についての説明も必要だし、もしナオキが領都のギルドに登録変更をするならばその手続きをする者が必要だ。
少しばかり期間が長いが、領都斡旋ギルドへの研修扱いで行かせてやるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
リリスはラーズの言葉に跳び上がって喜んだが、当の僕は説明担当を付けないと領主様に失礼な事をする人物だと認識されていた事に軽いショックを受けていた。
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