第7話【アイテムボックスの活用方法】
「その、アイテムボックスというのはどのくらいの物なら運べるのですか?
それが分からないと依頼の規模を決められないんですけど」
リリスの言うことはもっともだが実は僕自身もどのくらいまで収納出来るのか分からなかったので正直に答えた。
「今まで調べたことが無いんですけど……。
でもかなり入りそうな気がするから試してみてもいいですかね?」
僕はそう言うとリリスが許可を出す前に部屋のインテリアから机、本棚にいたるまで全て収納に入れてみた。
「なっ 何をしているんですか!?」
何も無くなりガランとした部屋に理解が追いつかないリリスが叫んでいた。
「うん。とりあえずこのくらいの量ならば問題ないみたいだね」
僕はそう言うと収納した物を再設置していき全て元に戻した後、リリスに微笑みかけた。
「………色々と言いたい事が山積みですけど、とりあえずこの依頼を受けてみますか?」
驚きすぎて、魂が抜けかけのリリスだったが気力を振り絞って一枚の依頼書を見せてきた。
――引っ越しの手伝い。
依頼書にはそう書かれており、町の中だけの荷物の運搬補助が出来る人を募集していた。
「この方は町の西地区に住居を借りていたんですがこの度、東地区にご自分の家を新築されたので引っ越しをされるそうです。
その際に家財道具の運搬を引き受けてくれる馬車持ちの業者を紹介してほしいと依頼されていたんですが、あなたの能力ならば馬車も必要ないですし、重いものも抱えずに傷もつかないと良いことだらけだと思うんですけど。
どうですか?引き受けてみますか?」
「そうですね。何か仕事をしないとお金も貯まらないし、僕の名前が売れたら治癒の依頼も増えるかもしれないしやってみます」
僕はそう言うと依頼の書類に必要事項を書いてから「行ってきます」とリリスに軽く手を上げてギルドを後にした。
* * *
――ここだな。
僕はリリスが用意してくれた紹介状と地図を手に西区の住宅を訪れていた。
「すみませーん! マルスさんの家はこちらですか?」
僕が家の前で依頼人を探していると「おう」と声がしてドアが開いた。
「斡旋ギルドからの紹介で引っ越しのお手伝いにきましたナオキといいます。宜しくお願いします」
僕は紹介状を提示して引っ越しの詳細を尋ねるが僕がひとりで来た上、馬車も準備していない事に怪訝な顔をしていた。
「馬車はどうしたんだ? 引っ越しだとギルドには伝えてあった筈だが……」
予想どおりの質問に僕は笑顔で「大丈夫ですので運ぶ荷物を教えてください」と言った。
「この部屋にある荷物全部になるんだが馬車も無くてどうやって運ぶんだ?」
「まあ、任せてください。この部屋にある荷物全部ですね?」
僕はそう言うと部屋の端から順番にアイテムボックスに収納していった。
「な、な、なんだ!? 俺の荷物は一体何処にいった!? 俺は夢でも見ているのか?」
目の前から荷物が消えて行くのを目の当たりにしたマルスは何もなくなった部屋の入口で口を開けたまま固まっていた。
「よし、これで全部ですね。では引っ越し先まで案内をお願いしますね」
「あ、ああ」
マルスは生返事をしながらも返しながら引っ越し先へ向かった。
「この部屋にあったものを置いて欲しいんだが、本当に大丈夫なのか?」
半信半疑のまま、新たな家に着いたマルスは何を何処に置くかを細かく指示してきた。
「ここにこれを置けばいいんですね。そしてここにはこれを……」
僕はマルスに指示されたとおりに荷物を収納から取り出して置いていく。
その光景を何故かげんなりしながら見るマルスだったが、全ての作業が終了した時には「お疲れ様だったね。これ完了証明ね」と笑顔でお礼を言ってきた。
* * *
――行ってきました。
僕は斡旋ギルドに戻ってリリスを見つけて完了報告書の提出をした。
「もう終わったんですか?ってあのインチキ能力ならばそれほど驚く事ないですか……」
完了報告書を見ながらリリスは淡々と事務処理の手続きを進めていった。
「では、これが今回の報酬になります。馬車の手配等がなかったので予定よりも手取り報酬は多くなっていると思いますよ」
リリスはそう言うと金貨1枚と銀貨30枚をカウンターを置いた。
「思ったよりも結構な額ですね」
僕が率直な感想を言うとリリスはため息をついて説明してくれた。
「今回は引っ越しの手配でしたから、本来ならば馬車を用意して銀貨50枚、引っ越しの荷物の持ち出しから再設置に通常3〜4人で一日仕事になるので一人あたりの手取りは銀貨20〜30枚くらいの依頼なんですよ。
如何にあなたの能力が
何度もおかしいと言われるのは心外だが、ともかく当面の生活費が稼げたのは非常にありがたかった。
「他にも引っ越しの依頼は無いんですか?」
あまりにも美味しい依頼だったので、もしかしたらと聞いてみたがリリスの答えは「そう度々入る依頼じゃないです」だった。
「また、ナオキさんに向いた依頼かあったらお知らせしますのでその時はお願いしますね」とリリスに言われ僕は「よろしく頼みます」と返してギルドを出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます