第13話 在庫の行方

翌朝、小屋に着火して、証拠隠滅を試みたが、残念なことに弟子に邪魔されたので、フライパンで殴って、小屋を小さくして、アイテムボックスに入れた。


「なぜ、止めたのですか? このまま着火したら、偶然を装いつつ、小屋の証拠も隠滅できて、オークの集落を壊滅させられるんですよ。メリットしかないと思うのですけど」


「森が全部燃えたらどうするんですか?」


「大きめのキャンプファイアーと思えば、楽しく……」


「なりません。私たちはどこを目的に歩いているんですか?」


「何を言ってるんですか? あなたのレベルが50になるまでは引きこもりますよ。どこまで行けるか楽しみですね」


「宿に帰りたいです」


「それはゴーストとしてですか?」


「生きたまま帰りたいです」


「では、魔物をたくさん狩ってください」





守るもん君が使用できないため、魔物を一網打尽にする方法を考えている。

より強い魔物を追い立てて、生態系に多大なダメージを与えれば、大移動が起こるのではと考えた。


「何で、その結論に至るのですか?」


「考えてみてください、階層主を部屋から引きずり出して、野に放てば、多くの魔物が縄張りを捨てて、安全地帯に逃げようとすると思うんです。で、この階層で安全な場所へ移動するには階層の入り口しかありません。しかし、階層間の出入り口の移動キャパはそれほどありません。つまり、追い立てれば、そこで渋滞が起こるのは確実。大量駆除が可能となるわけです」


「危険性を考慮しないって言うのがすごいですね」


「当然じゃないですか。危なくなったら逃げるので、問題ありません」


「魔物に追われて逃げきる自信が何でそんなにあるんですか?」


「私が全力で気配を消せば、熱源探知でも探せなくなりますよ? どうやって、魔物が私を探すんですか?」


「師匠は、逃げられても私は逃げられませんよ」


「穴を掘るなり、何なりして、隠れてください」


「そんな無茶な~」


というわけで、私たちは階層主を目指し、森を進むことになった。




階層主が潜んでいる場所というのは実はよくわかっていない。

一応、獣道のようなものを辿ると、おそらくは階層主にたどり着く、と言われている。


「この道、合ってるんですか?」


「魔力濃度がだんだんと高くなってるので、多分、大丈夫なんじゃないでしょうか?」


トレントがツルをイラリアに向け、伸ばす。

私はそれをフライパンで弾く。


「水分50パーセントカット!!」


トレントから水が飛び散る。

トレントのツルに元気がなくなり、根元からちぎれた。

次第にトレントの動きが鈍くなった。

そこにフライパンの強打で木の幹を折る。

トレントが死んだことを確認する。


「ありがとうございます」


「トレントが増えてきましたね。気を付けないと首を持ってかれますよ?」


「どういうことですか?」


「トレントはツルで通りかかった人間や魔物の首を吊って仕留めます。だから、森で人っぽいものが木にぶら下がっていたら、トレントを疑うのですよ」


「トレントって平和的なイメージがありました」


「あれほどエグイ魔物を見るのは難しいと思います。だって、タダの木に擬態したうえで、獲物の首を吊って、窒息死させてから、ツルが体内に……」


「もう怖いのでいいです」


「首もってかれたら、大概の人間は終わりだから、捕まらないように注意してください。ぼさっと歩いていると死にますよ?」


「以後、気を付けます。あと少し気になったんですけど、技名、何とかなりませんか?」


「分かりやすくていいと思うのですが」


「ダサい。というより、普段、フライパンで殴っている時は技名を言わないじゃないですか」


「だって考えてみてください? 魔物からでた水が噴射されたら嫌でしょ? だから、事前に通告しています。そうすれば、かかっても私の責任にはならないじゃないですか」


「確かに。珍しく、師匠がまともなことを言ってるので、新鮮です」


「じゃあ、相殺するために言っときますね」


「何で自分から好感度を落としに来るんですか?」


「帰れるように、パンじゃなくて、守るもん君を撒いてたって知ってましたか?」


「違反行為じゃ……」


「ポイ捨ては禁じられてませんよ? それに起動してないからセーフ。ほら、後ろ見てください」


「常識的に考えればアウトですけどね。うわ! 本当だ。ファンシーな人形がずらっと並んでますね。何か、ホラーじゃないですか?」


「実は強い衝撃を与えると爆発します」


「え? 本当ですか?」


「嘘です」


「分かりにくい嘘をつくのやめてもらっていいですか? あ、あれはウルフですか?」


「そうね」


ウルフの群れから外れた個体だろうか?

守るもん君に興味津々のようだ。

ウルフが足で遊んでいる。


「ボールか何かと勘違いしてるんでしょうか?」


「さあ、餌だと思ってるのかもしれません。どちらにしても、あのウルフの頭を解剖してみないと分からないですね」


「解剖しても分からないと思います」


突如、守るもん君から赤い光が放たれ、爆発した。

ウルフの遺体は見る影もない状態であるのは遠目からでも予想できた。


「師匠にとっての嘘とは?」


「魔導具にも、突然変異ってあるんですね」


「面白い冗談ですね」


「残念なことに事実です」


守るもん君の注意事項には強い衝撃を与えると内臓魔力が暴走し、予期しない結果が引き起こされる恐れがありますと目に見えるか見えないかの大きさの文字で書いてあった。

戦闘に使う予定なのに強い衝撃に耐えられないって言うのは不良品どころの問題じゃない気がする。

とは言え、使い道のない大量の在庫を消費する手段が一つ手に入った。


「師匠、見てください! 誘爆してます」


守るもん君が連鎖的に爆発していた。


「帰り道がより分かりやすくなりましたね」


「また、怒られる気がして怖いのですけど」


「では、謝罪の方は任せます」


「いや、ですよ。師匠がやったんだから、師匠が謝るべきです」


「師匠の後始末は弟子の仕事でしょ?」


「普通は逆です」


「でも、これからどうしましょうか? 撒くものがありませんよ?」


「帰り道は二人で暗記しましょう」

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