第12話 レベリング2

私たちに休息日はない。


「自由時間が欲しいです」


「それは自分の立場とレベルを自覚したうえでの発言ですか?」


「ブラックすぎます。ホワイトな組織を目指しませんか?」


「私たちはホワイトですよ。数字上は」


「実態も伴わせましょう」


「でも、守るもん君が使えないのは痛いですね。真面目に攻略しないといけないじゃないですか」


「こんなことなら、初めからそうしてれば、良かったですね」


「私はそんなことを後悔してるわけじゃありません。どうせ禁止になるなら、何でもっと効率よく魔物を集められなかったかを後悔しているんです」


「呆れて何も言えませんね。でも、守るもん君の在庫処理はどうするんですか?」


「信者に、私が愛用している道具として売り出します」


「商人にでもなったらどうですか?」


「やっぱり才能ありますか?」


「はい。悪徳商人の」




私たちは平原エリアを抜けて第六層、森林エリアに来た。


「雰囲気ががらりと変わりましたね」


「ええ、ここは薄暗いので、盗賊を襲撃するときの気分になってきました」


「盗賊を襲う気分になれる何てすごいですね」


「慣れれば、普通ですよ。確か、このエリアはゴースト系の魔物が出るんですよね」


「意外ですね。幽霊が怖いんですか?」


「いえ、実体がないので、快感が得られません。なので、ゴースト系はやる気がわかないんですよね」


「師匠、何か、あそこに見えませんでしたか?」


木の陰にうっすらと白い何かが見えた。


「ああ、あれはゴーストですね。HPが吸われるので気を付けてください」


「どう、気を付ければいいですか?」


「すみません。やる気を失いました。もう、土と同化しよ」


「え? 師匠! ここで寝たら、危ないですって」


「ゴースト何て、滅べばいいのに」


「あのゴースト、私しか見てないじゃないですか? 私の近くに生命力にあふれた狂信者がいるのに! こっち、来ないで!!」


イラリアが逃げている。


「師匠! ヤバいです」


「頑張って」


「応援じゃなくて、武力的な援助が欲しいです!! ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


イラリアの必死の説得で、少しだけやる気を回復した私はゴーストを殲滅した。




「はぁ、はぁ。こんなに肉体的に疲れる戦闘は久しぶりかもしれません」


「実体のないゴースト何て……、肉が無いスライム何て……、すぐに崩れるスケルトン何て……、叩き甲斐の無い信者何て……」


「ぶつぶつ何を言ってるんですか? 怖いんですけど。というか、最後、変なのが入ってませんでしたか?」


「アンデッドの中でも、実態がある奴は好きです。アンデッドは肉が腐っているので、柔らかいですよ、肉が」


「食レポですか?」


「あれを食べれると思います? 叩き心地が最高なんです。生きた肉もいいですけどね」


「最近、師匠の目指している先が分かりません」


「それは私も分かりません。すべてはフライパンの導くままですから」




森では木々が気配を覆い隠すため、奇襲されやすい。


「ヒャッハー!!」


私は木から飛び降り、オークの脳天に一撃を入れ、仕留めて着地。


「ねぇ? 苦しい? 楽しい? もっと、楽しみなさいよ」


驚きで固まるオークを足で払い、重力に従い、オークの頭が地面に落ちる勢いを利用して、上からフライパンを叩きこむ。

オークの顔面が潰れた感触がフライパン越しでも分かる。

背後から、オークが殴りかかってきた。

遠心力を利用してフライパンを振るう。

オークの拳とフライパンが激突する。

が、勝負にならず、オークが吹き飛んだ。

流れるように2匹をフライパンで殴殺する。

不利を悟ったのか、恐怖のせいなのか、残りの1匹が背中を向けて逃げる。

追いかけて、後ろから膝を目掛けて蹴る。

するとオークは跪くような格好になった。。

私の胸の高さにオークの頭がある。


「ありがとう」


私はオークに数回往復ビンタする、フライパンで。


「グガァァァァ!!」


「もう、終わり?」


6体のオークが壊滅した。


「魔物を森の中で奇襲する人、初めて見ました」


「私の精神HPが回復しました。やはり戦闘はこうでないと」


「私のは減ってますね」


「それは大変ですね。頑張ってください」


「言葉の支援じゃなくて、行動の支援をお願いします」


「イタダイタオコトバヲジュウブンニケントウサセテイタダキタイトオモイマス(頂いたお言葉を十分に検討させていただきたいと思います)」


「何ですか! その変な発音は!! それに、やる気のない人の見本みたいな文言は何ですか!!」


「だって、これからオークの集落を壊滅しに行くんですよ?」


「え? 何ですか、その急展開は」


「魔物への容赦のなさはフライパン教徒が持つべきものです」


「師匠に至っては人間にも容赦のなさを発揮してるじゃないですか?」


「命の重さは多少の偏りがあるけど、だいたいは平等だから」


「修飾語がいろいろ残念にしてますよ。師匠の多少の偏りって、一方に全振りしてるって意味ですか?」


「それは偏りとは呼べませんよ。それは肩入れって言うんです。でも、そうですね……、集落に攻め込もうと思いましたが、時間的に厳しそうですね」


「まさかとは思いますけど、ここで野宿ですか?」


「はい。周辺に木がありますし、小屋でも作ろうかなと」


「生木は建築に向かないって知らないのですか? それに伐採する道具がないじゃないですか。何より、迷宮内で建築物を建てるのは禁止されてますよね?」


「燃やせば問題ないと思いませんか?」


「証拠隠滅の話ですか? 森で火気は厳禁ですよ?」


「でも、焼き討ちにした方が早いじゃないですか」


「師匠の狙いはそこですね? オークのために森を焼くつもりですか? でも、生木には火が着きにくいんですよ」


「問題ありません。私のフライパン術の中に水分92パーセントカットという技があるので」


「何ですか? その限定的な技は。それにキリが悪いですね」


「残念ながら92パーセント以上は今の私には難しかったです」


「師匠、生物には使わないでくださいね」


「この技は時間がかかるので、基本的には使いません。でも、50パーセントぐらいであれば、瞬時にできます」


「それも、やめてください」


「もちろんです。以前、魔物で試した時に後始末が大変だったので……」


「試したんですか?」


「こんなくだらない会話に時間を使っていると、小屋が建つ前に夜が来てしまいそうですね」


私はフライパンの側面を使って、木を伐採する。

木の倒れた方向にイラリアがいた。


「危なっ」


「気を付けてください」


「師匠、どうやって切りました?」


「フライパンの側面でいい感じに?」


「質問で返されても……」


追加で何本か木を伐採する。


「少し離れていてください」


「何をするんですか?」


「乾燥です」


イラリアは意味が分からないと言いつつも、私から距離をとった。

私は精神統一を行う。

フライパンに意識を集中する。


「秘技、水分92パーセントカット!」


フライパンで木を軽く叩く。

木の表面から勢いよく水が飛び散る。


「師匠! 本当にどうやったんですか!!」


「ノリと勇気と気合です。あとは信仰心があれば、私のレベルまでは到達できます」


夜までに何とか小屋を建て終わり、快適な夜を過ごした。

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