第11話 レベリング
迷宮都市に来た本来の目的はイラリアのランクをBにすることだったが、あまりにも弱く、このままでは盗賊からお布施をもらうことができないので、迷宮でレベル上げをすることにした。
私たちは宿を引き払って、迷宮に入場した。
「何で、宿を引き払ったんですか?」
「宿泊費、バカにならないんですよ? それに何度も入退場を繰り返すと入場料まで取られます。ここには信者がいてもお布施がもらえないので、厳しいのですよ」
「何でお布施がもらえないんですか?」
「信者が私と対面すると涙しながら、祈りを捧げるので当局に一発で宗教関連の人間だとばれます。それが原因で監視が着くと、いろいろバレてしまうので、ダメです」
「いろいろの部分に関して詳しく聞きたいですね」
「アンデッド化の様子を身をもって体験したいのなら、良いですよ?」
「今回は遠慮しておきます」
「でも、迷宮の第一階層周辺は雑魚しかいないのでレベリングが厳しいですね」
「その雑魚を倒せない私に向かって、それを言いますか?」
「すみません。私は弱い人の気持ちが分からないので」
「煽りに来てますよね? 完全に煽ってますよね? でも、師匠は迷宮を知り尽くしているから、良いスポットを知ってるんじゃないですか?」
「いいえ、私は迷宮に一回しか来たことないですよ。前回は市場規模の調査と総資産の確認、そして布教のためですから、まともに戦闘したのは今回が初めてですし」
「え? 慣れてる雰囲気を出してましたよね? でも、だとしたら、どこでランクアップしたんですか?」
「名前を憶えていないので、困りましたね。しかも、スタンピードで地図から消えちゃったんですよね」
「迷宮か何かですか?」
「いえ、普通の街です。ただ、近くに禍々しい気配のする森があったので一部の冒険者は重宝してましたよ」
「よくスタンピードで生き残れましたね」
「私はスタンピードの直前で逃げましたから」
「緊急事態が発生したときは強制のクエストですよね?」
「冒険者ギルドの幹部とは今後とも仲良くしておきたいですね」
「既に地の底まで落ちた好感度が地下に突入しましたよ」
「限界突破ですか? 素晴らしいですね。今日はここで野宿しましょうか?」
「平原のど真ん中ですよ! 正気ですか?」
「なぜ、フライパン教の教祖である私がこんな貧乏くさい服装をしているか分かりますか?」
「知りませんよ」
「この格好でフライパンを持っているだけの女が金目の物を持ってると思いますか? いや、思わない!」
「反語で強調されても困ります」
「私は攻められるのは嫌いです。攻めたいです。私に対して攻撃の検討をする、その事実があると考えるだけで吐き気がします」
「師匠、好感度下落の限界突破をそろそろやめませんか?」
「何言ってるか分かりませんが、攻められてると感じます。攻撃的になりそうです」
「理性を学びましょう。もう! 師匠のせいで話が脱線したじゃないですか!」
「では、戻してください」
「冒険者から襲われないのは分かりました。じゃあ、魔物からは、どうなんですか?」
「私の聖なるオーラを感じませんか? あの禍々しき連中は私の聖なるオーラで……」
「感じないです。真面目に答えてもらっていいですか?」
「真面目に答えたのですが……」
「では、師匠は何回、魔物に襲撃されましたか?」
「記憶に御座いません」
「両手では収まらないと思いますよ。しかも、この迷宮内だけでです」
「まあ、そこまで言うのなら、事前に用意したこれを使いますか」
私はアイテムボックスから魔導具を取り出す。
「何ですか、その女性受けを狙ったかのような人形は?」
「気に入ってくれると思ったのですけど、ドライな対応ですね。今度はホラーなものを用意しますね。これは1日守るもん君です」
「微妙な名前ですね。どういう魔道具ですか?」
「名前の通り、1日だけ、半径5メートル以内の空間を安全にしてくれます。ただ、残念なのは半径100メートルの魔物を引き寄せてしまうんですよね」
「デメリットが強すぎるじゃないですか!」
「いえ、これにはメリットもあります。魔物に囲まれている人間に近づきたい人がいますか?」
「確かに……、でも、師匠はみすぼらしい見た目のおかげですりに会わないって言ってたじゃないですか? この機能要らないですよね?」
「言われてみれば、そうですね。じゃあ、デメリットが大きめの魔導具ってことで。では設置して……」
イラリアが私の腕を掴む。
「しないでくださいよ!」
「でも、在庫が24万個ほどあるんですよ?」
「業者ですか? 要らないですよね、それ?」
「販売元も仕入れたはいいけど、買い手がつかないって嘆いていたので、タダ同然でもらえました。まあ、デメリットも大きいですが、寝ている間の安全を確保できますし、レベリングにはもってこいですよね」
「守ってくださいね」
「雇用条件の交渉をしてくれるなら、考えます」
「初期投資でお願いします」
「では、話し合いをしましょうか?」
結局、銀貨一枚で護衛を引き受けることになった私は、翌朝の疑似スタンピードでスプラッタでサディスティックに暴走するのだった。
瀕死の重傷を負った魔物をこそこそと止めを刺すイラリアは一日のスタートから末期だとこぼしていた。
末期状態のイラリアはゲッソリとしている。
「レベルの方はどうですか?」
「14になっています」
「疲れる要素ありましたか?」
「肉体的疲労ではなく、精神的疲労です」
「それは大変ですね? それよりも手伝ってもらっていいですか?」
私は魔物を解体して、素材を回収している。
「今日中に終わりますか?」
「ちょっと謎ですね。血臭でさらに、魔物が来そうですし」
「休ませてください。それより、解体はナイフでするんですね? 意外でした」
「フライパンでも、切断はできますが、商品価値が落ちるのでしません。それに先ほどの戦闘でたくさんフライパンを使ったので大丈夫です」
「何が大丈夫なんですか?」
「フライパン神はフライパンを使うと喜びます。フライパンは使うだけ、成長しますから」
「それは料理限定の話じゃないですか? 師匠の使い方はむしろ摩耗します」
「摩耗? 私のフライパンは熟練度がすごいのでこの程度では摩耗しません。それに戦闘中に大量の鉄分をとってますから。もしかしたら、油分もあるので、コーティングもされてるかもしれませんね」
「ワイルドな手入れですね」
「ありがとうございます」
「褒めてません」
その後、一週間、血臭と守るもん君による魔物の引き寄せ、そしてその殲滅の結果、周辺に腐臭と血臭が立ち込め、冒険者が立ち入らなくなってしまった。
異常を知った迷宮の管理者に私たちは注意され、強制退場になった。
とは言え、規則に違反しているわけではないので、一日限定の立ち入り禁止で済んだ。
一番痛いのは守るもん君が使用禁止になってしまったことだ。
「宿をとらないといけなくなりましたね」
もうすでに夕方。
運が悪ければ、都市内で野宿。
迷宮に入ろうにも、入場が禁止されている。
まさか、フライパン神の加護を試す日がこんな形で来るとは思ってもいなかった。
「私、腐臭と血臭が染みついているような気がして嫌なんですけど」
イラリアが服の匂いを嗅ぎながら言う。
「宿に入れないと嫌なので、それについては対策しておきました。たぶん大丈夫だと思いますよ」
「それを聞いて安心しました。というか、こうなることを予想していたんですか?」
「魔物を引き寄せるんですよ? しかも、大量に。予想できない方が難しいと思いますよ」
「それ、暗に私をバカだと言ってますか?」
「正面から言ったつもりでしたが、分かりにくかったですか?」
「弟子に悪口はどうかと思います!」
「フフッ。あ、すみません。迷宮の管理者に注意されていた時にイラリアが謝り倒しているのを思い出して、笑ってしまいました」
「笑い事じゃないし、私の話を聞いてください!」
「それは私の時給と比較して、聞く価値がありますか?」
「もう、いいです」
「でも、あの自称管理者、偉そうに私を注意してましたよね? 私の被ダメージセンサーがすごく反応してました」
「攻められてるって感じたってことですか? でも、復讐したら、本格的に追放されますよ」
「では、彼がこの街を出てから復讐することにします」
「私はタイミングの問題を指摘したつもりはないですけど」
その後、空いている宿を探して、1月分の予約をした。
フライパン神の強力な加護を確かめることができた。
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