第14話 階層主

風景に代わり映えがなく、ただただ、森が続く。


「この一帯に足りないものが分かりましたよ」


「聞かなくても予想できるんですけど、一応聞いてもいいですか?」


「平地です」


「焼き討ちは却下です」


「伐採パーティーですか? 労力的に好みじゃないのですけど……」


「平地は作らないでください」


「あ、オークの群れだ。私の精神HP回復のチャンスね」


次の瞬間、オークが宙吊りになった。


「師匠、7体のオークが一瞬で全滅ですか?」


「あれは、トレントが密集しているようですね。彼らは縄張り意識が強いので、密集することはあまりないのですが、珍しいですね」


「何か、オークの体がやせ細って」


「養分を吸収しているようです。カラカラになるとバリバリと食べ始めます。よく、森の精神汚染源と言われてます」


「キモッ。この気持ち悪さ、フライパン教徒を超えてますね」


「口は禍の元ですよ?」


「師匠、武器を持って、背後に立たないでください」


「どこにいても、イラリアを仕留めることは可能です。気付きませんか? 守るもん君が足元に」


イラリアは瞬時に足元を見る。


「嘘はやめてください。びっくりしたじゃないですか!」


イラリアの頭から、守るもん君が落ちる。


「ね? 足元にあるでしょ」


「!! あれ? 落下したのに爆発しませんね」


「はい。これは、この前のスタンピードもどきを引き起こした時に使ったものですから、魔力はありませんよ」


「なら爆発の心配はないですね」


「でも、最近、アイテムボックスにしまっても、朝になると私の枕元に移動しているんですよね」


「師匠! 爆発しなくても、そんな悪霊がついてそうな物を人の頭に乗っけるとか信じられません!」


「信じられるぐらい繰り返しますか?」


「やめてください。呪われそうです」


「聖なるオーラを纏う私の持ち物ですよ? 呪われるなんてあるわけないじゃないですか」


「寝言って起きていても言えるんですね」


「そんなクレイジーな人がいるんですか?」


「はい。目の前に」




ただひたすら、まっすぐ森を歩く日が数日続いた。

退屈な日々を耐え抜いた結果、巨大な石の壁に遭遇した。


「森に石の壁ですか? どうやら、迷宮はデザインという言葉を知らないようですね」


「何で急に迷宮に喧嘩を売ったんですか?」


「見てください。この階層のコンセプトは森ですよ? いくら、階層主のいる部屋だとしても、石の壁で囲えばいいじゃん、というのはどうなのかと思いませんか?」


「思ったことをすぐに口に出さないのが大人なのだと思いますよ?」


「この中に入ると階層主ですね。準備は良いですか?」


「まったく良くないです。私の逃げ道を用意してくれませんか?」


「では入りましょう」


「ねえ? 聞いてました?」


私は大人3,4人が横並びでは入れそうな幅の門をくぐる。


「無視ですか? ちょっと、置いてかないでください!」




中はとんでもない獣臭がする。

それもそのはずだ。

ここの階層主は巨大すぎるイノシシなのだから。


「デカすぎませんか? それに、既に怒りのボルテージが最高潮になってますよね」


イラリアはイノシシの大きさにドン引きしている。


「大きさはどうでしょうね……高さは10メートルほどでしょうか? それにしても怒ってますね。もう少し待てば、ピークアウトしますかね?」


「本気で言ってますか? って、ツッコんでくる!!」


私はイラリアの襟首をつかみ、横へ飛び退く。

イノシシは壁に衝突した。


「これにイラリアが当たったら、即死しますね。回避に死力を尽くしてください」


「分かりました」


「では、私はこれをどうやって、外に連れ出すかですね」


「大きさ的に門は通りませんよ?」


「壁を壊さないとですね!」


私は跳躍して、イノシシの眉間にフライパンを叩きこむ。

イノシシは本能的にか、それを躱そうとするも、一歩間に合わず、胴体で受ける格好となった。

イノシシは思っていたよりタフで、さっきの一撃で姿勢が崩れたが、すぐに態勢を立て直し、後ろ足で蹴ってきた。

私はそれをフライパンで受け止め、後方に着地し、再び距離を詰め、攻撃する。

顔の側面を狙うが、ズレてしまい、牙とぶつかった。

牙は私のパワーに耐えられず、べきっという音を立てて、折れた。

折れた牙は壁に突き刺さっていた。

追い打ちを掛けようとしたが、イノシシが横薙ぐように首を振ったので、後ろに飛び退き避けた。

今度は側面に回って、フライパンを全力で振る。

すると、イノシシは壁まで飛んでいった。

イノシシはよろよろと立ち上がる。


「何へばってんの! ここからが本番ですよ!!」


私は再び跳躍して、上から、フライパンを叩きつける。

イノシシの悲鳴が周囲にこだまする。


「まだまだ!」


私はイノシシの首辺りに着地して、力いっぱいフライパンを振り下ろす。


「でかい図体してみっともないわね~。猪鍋にしますよ?」


次々と振り下ろされる重い一撃に耐えられなくなったのか、ピキッという不穏な音がする。


「師匠! 気持ち良くなるのは良いですけど、もうやめてください!!」


「邪魔しないで! 精神HPを回復してるの!」


「床のHPがほぼ0です! 亀裂が広がってます」


「あ、本当だ」


ついに崩落が始まった。

私はイノシシを踏み台にして、無事そうな床に着地する。


「迷宮の床って抜けるのね」


巨大な穴から下の階層が見えた。


「師匠、抜け道ですよ。良かったですね」


「迷宮の攻略方法はこれだったのね」


「それ、他の人の前では言わないでください。迷宮が可哀そうです」

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