第7話 ゾルジ一族討伐4
最近、待ち伏せ攻撃に遭う頻度が多い気がする。
「ああああ!」
叫びながら斬りかかってきた兵士をフライパンでぶっ飛ばす。
「安定感のあるフライパン捌きですね。まるで武器のようです」
少し呆れた表情をしているのは気になるが、イラリアも私のフライパンへの思いを感じ取れるようになってきたようだ。
「ありがとう。でも、これは信仰心の賜物です。ここが、ロレンツィオ・ゾルジが隠れてる場所?」
「はい。ここが最も頑丈な場所で、攻城兵器で攻撃されても、しばらくは耐えられます」
マッシモは淡々と答える。
目の前の扉は、マフィアの拠点を襲撃した時にボスが隠れていた扉によく似ている。
しかし、その頑丈さはレベルが違うようだ。
それにしても、何で自ら、出入り口が一つしか無い場所に逃げるのだろうか?
普通は逃げの一手だと思うのだけど。
監禁されたいのかな?
だとしたら、かなりの被虐趣味をお持ちのようだ。
信者たちと趣味が合いそうね。
「少し離れて」
私は扉をフライパンで叩く。
金属同士がぶつかる、すさまじい音がした。
残念なことに、少ししか歪まなかった。
しかも、目を凝らして見ないと分からない程度の歪みだ。
「フライパン神よ。私に力を……、はあああああ!!」
私は祈りを込めて、もう一度フライパンで強打する。
今度は扉が大きくへこんだ。
扉は次第に亀裂が走り、ボロボロになり崩れた。
出入り口の見晴らしがよくなると、今度は兵士が次々と私に向かってきた。
私はあえて、部屋に入らなかった。
おかげで兵士は人数が多いのに、狭い入り口に殺到することになり、彼らは一人で私と対峙する羽目になった。
私は順番に私の前に現れる敵兵に的確な一撃を与える。
まるで、流れ作業。
しばらく続けていると目の前が開けた。
しかし、倒れた兵士が積み重なっているせいで歩きづらくなっている。
躓きそうだ。
「おっと、危ない。あなたがロレンツィオ・ゾルジですね」
「お嬢さん。何者だ? こんな、いかれた奴は聞いたことが無い。何が目的だ?」
「何で、同時に二つの質問をするんですか? バカなの? でも、いい気分だから教えてあげましょう。私はジーナ・ネビオロ。フライパン教の教祖です。目的は布教? ですかね」
「フライパン教? ……西の頭のおかしい教団か! なぜここにいる?」
ロレンツィオは不思議そうな表情を浮かべる。
「だから、布教のためだって言ってるでしょ」
私はイメージ向上のため、優しく穏やかな口調で言う。
「親父! もう、降伏してフライパン神に帰依してくれ!」
「マッシモ? お前、無事だったのか!」
「感動の親子の再開のはずなのに、息子の発言がヤバすぎてまったく感動できない」
イラリアがボソッとつぶやく。
ロレンツィオ・ゾルジは嬉しそうだ。
どうやら、親子の関係は良好なようだ。
私の計画がうまくいきそうでうれしい。
「師匠!」
後ろを見るとイラリアが人質に取られていた。
ナイフがイラリアの首に向けられている。
どうやら、伏兵がいたようだ。
計画がうまくいく喜びで注意が散漫になっていた。
イラリアを人質にとった男はゆっくりとロレンツィオ・ゾルジの下へ行く。
「近づくなよ」
「良くやった。形勢逆転だな。武装を解除して、降伏しろ!」
「それはどうでしょうか? マッシモ!」
「はい」
マッシモは私の前に立つ。
「マッシモ? 何をしている?」
マッシモは自分の父親に背中を見せる形で立っている。
私はマッシモの頭を掴み、手に力を少しずつ入れる。
「ガアアアアアアァァァァ!!」
マッシモの絶叫が部屋に響き渡る。
「何をしている! 貴様!! マッシモを放せ! こいつがどうなってもいいのか?」
イラリアの首元に向けている刃物がさらに皮膚に近づく。
「イラリアに何かをしたら、目の前でこの男の頭を潰してから、あなたたちを3ミリ単位で刻む。そして、こねてからにして、ハンバーグとして、このフライパンで焼く」
マッシモの悲鳴が強くなる。
本来ならば、シリアスな場面なのだろうが、私にはマッシモの表情が見える。
悲鳴こそ本物だけど、表情に喜びが感じ取れる。
できれば、この手を放したいが、今は我慢だ。
耐えろ、私。
そして、マッシモの顔がロレンツィオに見えなくて良かったと心底思う。
もし、これをロレンツィオに見せるとおそらく、作戦が失敗する。
「やめてくれ!! 私はどうなってもいい。息子だけは助けてくれ!! おい! その子を放すんだ!!」
イラリアが解放される。
「武器を捨てて、跪いて首を垂れろ」
ロレンツィオが私の指示に従うと部下は不服そうにしながらも指示に従う。
私はまだ、マッシモの頭を掴んだままだ。
その状態で、ロレンツィオに近づく。
フライパンの間合いに入るとマッシモの頭を放し、ロレンツィオに信仰心のこもった一撃を頭に叩き込む。
ロレンツィオが倒れ込む。
「旦那様!」
部下にも一撃を入れる。
2人の改宗を完了した。
「師匠、金貨一枚分の仕事はどうなったんですか?」
「無傷でしょ? もう少し、粘ってから助けるって言うのもあったけど、どちらがお好みですか?」
「……何でもないです」
これにて、ゾルジ一族の所領を完全に制圧した。
私はロレンツィオを椅子にしながら、報告を受けている。
「お疲れ様。敵の武装解除は?」
マフィアのボスに私は進捗を聞く。
「完了し、一か所にまとめています」
「じゃあ、後でまとめて改宗しないとですね」
これは余談だが、イラリアを人質に取ったロレンツィオの部下もイラリアのための椅子として四つん這いになっているが、イラリアが座ること拒否しているので、一人寂しく部屋の隅にいる。
「師匠、これからどうするんですか?」
「私は他の街に行こうかな? 布教しないといけない場所はいっぱいあるし」
「じゃあ、これでお別れですね」
「となると借金の返済はどうするの?」
「え? あれって本気だったんですか?」
「もちろんですよ。でも、弟子じゃなくなると、月利15パーセントの利子になるから。あと、私はここを離れちゃうから、取り立ては別の業者の人にお願いするってことで。それは、後で紹介するね? うちの教団の中でも優秀な業者を選ぶとして……そう言えば、彼らね……」
「嘘です! ついていきます」
「え? 身代わり速くないですか? まあ、そこまで言うのなら、仕方ないですね。利子は無しにしたままで、金貨一枚と通行料の時に貸したお金、締めて……」
「通行料もお金とるんですか?」
「当然じゃない?」
「弟子として伝道をお手伝いするので、食料やお小遣い、通行料などの経費は師匠持ちでお願いしたいです。それに、私が自由に宣教できるようになれば、教団にもっと利益が入るようになるんですよ? 未来の投資と思って、そこはお金をとるべきじゃないと思います」
「……仕方ないですね。金貨一枚に負けてあげましょう」
「ありがとうございます」
廊下の方から、ドタドタと足音が聞こえる。
「お話のところ失礼します」
「何事かしら?」
「ゾルジ一族の有力者ガストネ・ゾルジを取り逃がしました」
「ねえ? ロレンツィオ? ガストネ・ゾルジって誰?」
私は椅子に話しかける。
「ガストネは私の弟です。教祖様、踏んでください~」
「既に踏んでいると思うけど、もっと激しいのがいいなら後で。どこに逃げたか分わかりますか?」
「現在調査中です」
「急がせてください」
「了解しました!」
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