第6話 ゾルジ一族討伐3

デーレスの占拠は完了したが、ロレンツィオ・ゾルジはデーレスの陥落を想定したうえで避難先を用意していた。

避難先はアンガーの攻撃に備え、要塞化されていた。

山を利用した要塞なので、木々が弓兵や魔法使いを隠していて、発見しにくい。

また、山の中にもいくつかの坑道があるようで、どこから敵が出てくるかの予測が難しい。

試しに、何人かの熱心な信者を突撃させたが、魔法による攻撃と、弓による攻撃で見るに堪えない状態になってしまった。


「侵入方法が大変ですね」


「そもそも、ロレンツィオ・ゾルジを討ち取る必要あるんですか?」


「何を言ってるんですか? この地域にフライパン教を布教するにはこの街の一番偉い人に取り入るのがセオリーです。 だから、理想としてはロレンツィオ・ゾルジの改宗。無理だったら、討ち取って、マッシモ・ゾルジを傀儡の王として即位させます」


「そんなの、計画に無かったじゃないですか? そもそも、師匠は何のためにここに来たんですか?」


「デーレスに来たのは盗賊からお布施をもらうためですよ? だけど、イラリアの村の人を助けるためにデーレスに来たから、ついでにこの地域にフライパン教を布教しようかなと」


「私はヤバいのを連れてきてしまったのかもしれない。でも、別に盗賊からお金を巻き上げるのなら、デーレスに来る必要ないんじゃ……」


「私はレッサっていう街からここに来たんですけど、そこの領主が優秀で治安がとても良かったんです。でも、そのせいで盗賊が全然いなくて……。移動を考えていた時に丁度、治安の悪そうな町を見つけまして、それがデーレスだったというわけです」


「初めて見ました。盗賊がいないことに文句を言う人。話を戻しますけど、師匠は強いんだから、単身で突撃すれば、侵入できそうじゃないですか?」


「嫌です。だってあの要塞、広そうじゃないですか。あそこは内部の情報もありませんから、探すのに時間かかりそうですし。ここは数の力で押し切りたいですね」


「でも、大量の弓矢に魔法使い、強行突破するには人数が足りない気がします」


「ここはマッシモを肉壁にして突破するしか……」


「それ大丈夫なんですか?」


「親子の情を利用すればと思ったのですが、要塞に入るまでに息絶えたら、要塞の中で使えなくなりますね。私としたことが無計画でした」


「私はそんなことが言いたいわけじゃなく……、肉壁って、流石に可哀そうです」


「そうですか? マッシモは今では優秀なフライパン教徒ですよ? 喜んで盾になってくれると思いますが……」


「確かに、フライパン教徒には常識が通じないってことを忘れてました」


「ロレンツィオ・ゾルジがマッシモに対してどのぐらい情があるのかが分からないと人質作戦が難しいですね」


「相手に見られないで、敵を倒すことができれば、良いんですけどね」


「困りましたね。いい案が浮かびません。ちょっとフライパンに祈りをささげてきます」


「えっ、何ですか? フライパンに祈りをささげるって?」




私は人のいない部屋に移動する。

フライパンを机に置き、フライパンの正面に座る。

そして、目を瞑り祈る。

しばらく、祈りをささげていると、かすかに声が聞こえる。

祈りの妨害をした人間に教育が必要かもしれない。


「師匠、何してるんですか?」


私は目を閉じた状態で答える。


「見て分かりませんか? 祈りをささげています」


「いや、フライパンに祈りをささげるって意味が分かりませんから」


「フライパンの声に耳を傾ければ、万事解決します」


「では、良い作戦は思いつきましたか?」


「良いかどうかは分かりませんが、試してみたいことがあります」




私たちは要塞に兵士を連れて移動した。


「さあ、皆さん準備はできていますね」


「「「オオオォォォォ」」」


「行け!」


100人の兵士が突撃を行う。


「考えた末の力攻めですか? 祈りの効果ゼロですね」


「そんなことはしませんよ。力攻めするのなら、ここにいる残りの駒……信者は何ですか?」


「その失言は言い直しても無かったことにはなりませんよ?」


「今回の作戦はやる気満々の彼らを突撃させて、敵がどこにどの程度いるのかを予想して、その後に私が単身突撃して、敵の伏兵を殲滅して、味方を引き入れます」


「なるほど。でも、その作戦、祈らなくても思いつきますよね?」


「フライパンをバカにしてるのですか? 殴りますよ? じゃなくて、教育的フライパンが出ますよ?」


「それはやめてください」


「あ、そろそろ攻撃が来ますよ」


山の斜面から弓や魔法が飛んでいる。

大体の場所を暗記する。

突撃隊が、撤退を始める。

彼らには敵の攻撃を引き出せたら、撤退していいと伝えている。


「師匠、確認できましたか?」


「はい。フライパンが振るえる喜びに打ち震えています。それにしても、敵のやる気が足りないようですね。昼夜問わずの奇襲が堪えているようですね?」


「そんなことしてましたか?」


「はい。私が夜の散歩がてら嫌がらせに、放火したり、ゴブリンの群れを山に追い立てたりしてました」


「陰ですごい努力ですね? 一人でそれを?」


「はい。ゴブリンの群れを追い立てたときは兵士が素晴らしい断末魔を上げてました。あと、坑道を煙で充満させたときは兵士が必至の顔で穴から出てきましたね。あの時は爆笑を押さえるので大変でした」


「何か、いろいろと台無しにしますね。上がりかけてた好感度が下方修正されました」


「上がりかけということは上がってないの? しかも、下方修正までされて。実質的に、ただ好感度が落ちたってことですね。傷つきそうです」


「そういうのは傷ついてから言ってください」


「そろそろ私の番ですね」


「制圧の合図はどうしますか?」


「フライパンで山の斜面を叩いて、土砂崩れを起こすので、それを合図に突入してください」


「師匠、それができるなら、最初からやってください」


「仕方ありませんね。のろしを上げます」


「分かりました。無事を祈ってます」


「じゃあ、行ってきます」


私は隠密スキルを起動して、敵の要塞へ突入する。

下手に走ると足音でバレる。

敵が警備している要塞へ堂々と向かう。

隠密系のスキルを持っている人は多いが、ここまで隠密スキルを使いこなせる人間はなかなかいないみたいだ。

昔、隠密のスキルを持った冒険者と行動したことがある。

魔物の群れをやり過ごす時に私はお茶を飲みながら、隠密スキルを起動させていたが、彼は隠密スキルを使ったうえで、穴を掘って隠れていた。

残念なことに彼はメンタルが弱かった。

魔物が目と鼻の先に近づいただけで隠密スキルが使えなくなるぐらいパニックになっていた。

確か、ランクAとか何とか言っていたが、あれは嘘だったのかもしれない。

その結果、彼の掘った穴は彼の墓穴となってしまった。

ちなみに、私はやり過ごすこともできたが、彼のためにも仇討ちをして、代金として、装備を頂戴した。

装備を安く買い叩かれた悔しさからよく覚えている。

あの時に狩った魔物の素材の方が高く売れた。

それがどんな魔物だったかは思い出せなかった。

こんなくだらないことを考えていたら、いつの間にか入り口に着いていた。

何事もないかのように正規ルートから入る。

少々物騒な登山をしている気分だ。

記憶を辿って、山道を歩く。

そして、見つけた弓兵や魔法使いをフライパンで沈めていく。

周りの様子を探ってみるが、敵兵は見当たらない。

周囲の葉っぱを集めて、火をつける。

白い煙が空高く昇っていく。

これが原因で敵にバレる気がしなくもないけど、その時はその時ね。

しばらく待っていると兵士がここまでたどり着いた。


「はい、お疲れ様。この先に本丸があります」


「了解しました。おい、行くぞ」


兵士がぞろぞろとロレンツィオ・ゾルジの下へ向かう。


「師匠、マッシモさんを連れてきました」


「ありがとう」


「彼をどうするんですか?」


「何かあった時の保険よ。じゃあ、行きましょうか」


「私は戻ってますね?」


「戻るのは結構ですけど、私が排除したのはここの近辺の兵士だけです。他の場所にはまだ敵がたくさんいます。生きて帰りたいのなら、その判断はお勧めしません」


「私を守ってくださいね?」


「金貨1枚分の仕事はします」


「それがどのぐらいまで守ってもらえるのか、教えてほしいんですけど」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る