第5話 ゾルジ一族討伐2
案内された部屋に入ると30代後半ぐらいの見た目をした男が拘束された状態で椅子に座らされていた。
「これですか?」
「はい」
「あなたがマッシモ・ゾルジですか?」
「お前、俺にこんなことをしてタダで済むと思っているのか?」
私は捕まった小者が言いそうな定型文を無視して、マッシモに近づく。
そして、平手打ちをする。
「いいか、言葉に気を付けろ。別にお前を始末してもいいんだぞ」
マッシモは驚きの後に屈辱の表情を浮かべた。
「くっ、誰の差し金だ? アンガーの手下か?」
私はもう一発平手打ちをする。
「私が誰かの下に付くと思ってるのですか?」
追加でもう一発入れておいた。
「教祖様、フライパンの素晴らしさを教えますか?」
周りの男たちがフライパンを構える。
マッシモの小さな悲鳴が聞こえた。
私はマッシモに平手打ちをする。
「大丈夫。私が直々に教えを説くから」
「何で、誰もツッコまない! 平手打ちのタイミングがおかしいだろ! おい、やめろ! そのフライパンを下ろせ!! フライパン教徒って何だよ。教えを説くっていうのにフライパンを持って近づくな! おい、誰か止めろ。お願いだ。金庫の暗証番号を教えるから、そのフライパンを下ろしてくれぇ!!」
私はフライパンを振り下ろした。
鈍い音が周囲に響き渡る。
「いつ聞いても最高ですね。この音は」
「ん、ここは……」
「お望み通り、フライパンを振り下ろしてもらった感想は如何です?」
「最高です、教祖様」
マッシモは気持ち悪いほど恍惚な表情を浮かべている。
「それは良かったです。あなたのお父さんにもこの最高の気分を味わってほしいと思わないですか?」
私は優しい口調で彼に話しかける。
「はい。父はなぜ、あのような背信者になってしまったのでしょうか?」
マッシモは心底、不思議そうな表情で私に問いかけてくる。
私はそれに残念そう、かつ悲しみに溢れた表情で答える。
「可哀そうなことに、悪魔の誘惑に負けてしまいました。息子であるあなたが父親の過ちを正さなきゃいけないと。そう思いますよね?」
「はい」
「あなたのお父さんはこの屋敷の隠し通路を通って、どこかに逃げたらしいのですが、場所は分かりますか?」
「師匠、ドン引きなんですけど」
背後からイラリアの声がした。
どうやら、目的が終わり、ここに来たようだ。
「無事に仕事を終えたようですね」
「父と母は解放された喜びに浸ってました。村長や村の若い人は武器庫から武器をとってやる気満々でした」
「元気な証拠ですね。それよりも、今は友好的な会話中だから。後でいいですか?」
「まず、友好的な会話の定義を教えてください。じゃなかった、先に街の混乱を静めた方がいいですよ。ゾルジ一族の兵が押し寄せてるみたいですし」
「そうなんですか? あの自称マフィアのボスとか言う男、私に嘘を教えたんですね。あとで尋問しないと。じゃあ、後はあなたが聞き出しといてください」
屋敷以外にゾルジの兵士はいないと言ってたよな?
「了解しました。ご武運を」
「イラリア行きますよ」
「はい」
私は屋敷内の大広間らしき場所に行くとマフィアの方々が揃っていた。
「これで全員?」
「はい、教祖様」
「そういえば、あなた、私に嘘を教えましたね?」
「嘘だなんて、誤解です。街の外にいたゾルジの一族の誰かが異変に気付いて護衛を引き連れて戻ってきたようです」
「まあ、いいです。罰は後で下します。やることは分かってますか?」
「もちろんです。ゾルジの兵士を殲滅して見せましょう。あと、懲罰は激しめでお願いします」
「頼もしいですね。行っていいですよ」
「お前ら、行くぞ」
気合を入れ終わると、駆け足で出て行った。
「信者には危険な受け身思想な方しかいないんですか? 」
「みんな敬虔だから」
「敬虔の意味を辞書で調べた方が良いと思いますよ。私たちはどうするんですか?」
「高みの見物をするでしょ?」
「え? 前線に出ないんですか?」
「私は兵士じゃないんですよ。戦いは兵士に任せればいいじゃない。どこか街を一望できるところがありますかね?」
「さっき、侍女みたいな人がいたので、その人に聞いてみます」
私は逃げ遅れた侍女を捕まえて、屋敷で一番高いところへ案内させた。
素晴らしいバルコニーだ。
街の様子が一目でわかる。
これならば、どこから攻めてきたのかが分かりやすい。
おそらく、逃げられた原因もこれだろう。
「いい眺めですね。兵士の頑張り具合がよく分かります。あそこの部隊さぼってますね。あとで教育しないと」
「味方の士気が異様に高いですね。気分がよくなる薬でも摂取しているのですか?」
私の弟子は私をそんな風に見ているのか、地味に心が傷つきそうだ。
「私は信者の健康は奪いません。奪うのはお金だけです」
「健康は奪ってないようですけど、人生を奪ってるようですね」
「そんなことより、お菓子とお茶を頂けませんか?」
私は捕まえた侍女に話しかける。
この侍女、相当肝が据わってるというか、プロ意識の高い人で逃げられないことを悟ると完璧な侍女になった。
「かしこまりました」
侍女が粛々とお菓子を並べ、お茶を注ぐ。
「師匠、どのタイミングでお菓子を食べているんですか?」
「眺めがいいでしょ?」
「戦闘している兵士を除けば、ですかね」
「それを含めてです。だって考えてみてください。彼らが何のために戦ってると思いますか?」
「私の村の人たちは解放できたし……、あれ? 何のためですか?」
「やっと、お気付きのようですね。何のために戦っているのか分からないんですよ。ウケるでしょ? それで笑いをこらえてたらお腹がすいちゃって」
「不謹慎すぎて言葉が出ません」
「大丈夫です。すぐ、慣れます」
「人として超えてはならない一線を越えてるとは思わないのですか?」
「そうです。私は超越しています。だから許される」
「あれ? おかしい。会話が成り立たない」
「あ、終わったようですね」
「どっちが勝ちましたか?」
「見てなかったから分かりません。勝っても負けても、ここには人が大量に押し寄せるでしょ? だから、ここに来た兵士が刃物を振りかざしてきたら、私の負け、近くの人を人質に取って逃げるわ。勝ちました。口汚く罵ってくださいって頭を極限まで下げたら、私の勝ち。優越の笑みを浮かべながら私は兵士を罵ります」
「勝っても負けても嫌な展開ですね」
兵士が駆け上がる音がする。
「教祖様! 犠牲者0の完勝です。褒めてください!!」
私は持っているティーカップを投げつける。
「そこは、罵ってください、ブヒブヒだろーが!! 出直してこい!!」
「ありがとうございます!!」
直撃したティーカップにより兵士が倒れた。
「犠牲者0の戦いだったのに犠牲者が1になりましたね」
「問題ありません。あの程度では死にません。そんなことより、今すごく悔しい。戦いに勝ったはずなのに、いろんな意味で負けた気がします。あ、新しいお茶を持ってきてもらえますか? あと、掃除もお願いします」
「かしこまりました。こちらの方はどうなさいますか?」
「そこの伸びてる人のことですか? 重かったら、窓から捨ててください」
「かしこまりました」
「なぜ、ここまで平常心でいられるのでしょうか?」
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