第4話 ゾルジ一族討伐1
2日の休憩の後、デーレスに向かうことになった。
信者たちが関所の警備に就くことになり、お金と食料の提供が確約したからだ。
「師匠」
「何?」
「師匠の信者の中には金融業者が多いって言ってましたけど、師匠はなぜ、お金に困ってるんですか? お布施してもらえば、もっと裕福な生活ができそうじゃないですか」
「上納金は貰ってますよ。でも使うのが嫌だから、盗賊とか、犯罪者にお布施を貰います」
「上納金? それ、どっちが犯罪者か分からないですけどね」
「犯罪者に容赦は必要ありませんよ?」
「でも、一般人を狙わない良心はあったんですね」
「もちろんです。私を何だと思ってるんですか? それに、一般人を狙うと官憲が襲ってきたり、ギルドからの制裁があったりしますよね? それを誤魔化すのに大量の賄賂が必要になるから、あまり変なことはしたくありません」
「前言撤回します。良心なんてどこにもないじゃないですか」
「そろそろ、関所です。念のため、フライパンを抜く準備をしといてください」
「分かりました」
「こんにちは」
私が挨拶をすると関守が勢い良くお辞儀する。
「お疲れ様です」
「通行料はいくら?」
「いえ、結構です。こちらが上前です。おい、お前ら」
他の関守が食料と水を持ってきた。
私はそれをアイテムボックスにしまう。
「大銅貨ですか? ちょっと額が少ないですけど、今日のところは我慢しましょうか」
「申し訳ありません」
「師匠ってアイテムボックスを使うんですか?」
「フライパン以外の物を見せないようにするには必要だから。じゃあ、頑張ってください」
「ありがとうございます」
私たちは関守に別れを告げ、デーレスに向かう。
道中、ゾルジの雇った暗殺者が襲撃してきたが、入信させ、送り返した。
噂によるとゾルジ一族の有力者の一人が暗殺者により命に係わる重傷を負ったらしい。
マジ、ウケると思っていたが、弟子の前ということもあり、こぼれそうになる笑みを頑張って耐えた。
「ようやく、デーレスに着きましたね」
「通行料とられたのがムカつく。大銅貨2枚とられるとか。ここにそんな価値ねぇだろ。アイツら絶対に土に埋めてやる」
「ここ、公道ですよ。やめてください。で、これからどうするんですか?」
「まずは、拠点に移動しましょうか?」
「拠点ですか?」
「はい、拠点です」
薄暗い廊下。
地下なのだから光がないのは仕方ないのだろう。
「ヒヒヒヒッヒヒッヒヒヒヒッヒイッヒヒヒヒヒ。痛い? 気持ちい? アハハハハハハハ」
フライパンが硬いものにあたり、重低音が周囲に響き渡る。
あ、よく見たら、人間だった。
気にせず前に進む。
「気違いフライパン女だ!」
「魔法使いを出せ! 遠距離で仕留めるぞ!!」
こぶし大の火球が飛んでくる。
室内だというのに何を考えているのだか。
火球を弾く。
「こんなのじゃ、私に火傷すら負わせらんないですよ~」
火球が続々と飛んでくる。
フライパンで弾き、防ぐがキリがない。
「お返しします!」
火球を撃ち返し、攻撃する。
魔法使いの壊滅を確認して、前に進む。
「あ、ごめん。踏んでしまいました。イライラをぶつけるつもりが無かったわけじゃないの」
「じゃあ、故意じゃないですか」
弟子のツッコミを気にしないで前に進む。
一際、頑丈そうな扉をフライパンで叩く。
耳に響く金属音がした。
扉がへこみ、扉の向こう側が隙間から覗き込めるが、人が通れる大きさではない。
もう一発、フライパンで一撃を与える。
扉が、前に吹っ飛んだ。
ちょっと力を入れすぎたかもしれない。
部屋に入ると、既に護衛らしき人たちが倒れていた。
「内紛で部下を殺すのはどうなんですか?」
「お前が勢いよく扉を破壊したせいだろ!」
「え? そうなんですか? まあ、あなたの部下はどうでもいいです。あなたがここのマフィアのボスですね?」
「テメェ、俺が誰だか分かってるのか?」
「あなたがマフィアってこと以外、知ってるわけないですよね?」
「え? 俺が誰か、知らないの?」
「自意識過剰ですね。大体あなたがだれかなんてどうでもいいんです。私が欲しいのはあなたのアジトと駒です」
「お前、フライパンだけで襲撃するって以外もいろいろと、いかれてるのか?」
「師匠、あの人意外にも観察力がありますよ」
「どういう意味? 会話がめんどいから、入信してもらおう」
フライパンで一撃入れる。
「入信完了しました。おめでとう」
こうしてデーレス最大のマフィアの拠点が制圧された。
「何だこれ」
私は暫くこの拠点でマフィアのボスに座りながら情報収集に努めた。
途中、ロレンツィオ・ゾルジの首をとって来いと命令した信者が生きて平然と私の前に現れたので、罵倒したのだが、かえって喜ばしてしまった。
罰を与えるというのも、なかなか難しい。
しかし、その信者はロレンツィオ・ゾルジの屋敷の見取り図と警備の配置、交代時間が書かれた紙を持ってきたので、ご褒美に靴を舐めさせてあげた。
ご褒美があまりに嬉しかったのか、私がドン引きするレベルの舐めっぷりを披露してくれた。
彼らは靴舐め職人が天職なのかもしれない。
「師匠、本気ですか?」
「私はいつでもマジです。この人たちが道を切り開いてくれます。なので、そのまま兵舎に行って、イラリアの村の人を解放してあげてください。これ、鍵束です。拘束具はこれで外れるはずです」
私はイラリアに鍵束を手渡す。
先ほどまで凶悪なマフィアだった人たちが私の足元にすがる。
「教祖様、俺はこの子を守ればいいですか?」
「ロリコン趣味ですか? 黙っててください」
「いや、今のは普通に確認しただけだと思いますよ?」
「ありがとうございます」
「何に対してのお礼ですか!」
「喜んでいただけて何よりです。では、早速ですが、ロレンツィオ・ゾルジの首をもらいに行きましょうか」
ロレンツィオ・ゾルジの屋敷の周囲はマフィアの人たちが制圧している。
「教祖様、制圧完了しました」
「残りの兵士はこの屋敷にしか、いないってことですね?」
「はい」
「では、参りましょうか」
「教祖様のために道を開けるぞ!!」
「「「オオオオオォォォォ」」」
マフィアが屋敷の門へ突撃する。
「何だ。貴様ら? パボーニファミリーの連中じゃねえか、何で奴らが攻撃してくるんだ!」
マフィアは警備を瞬殺して、そのまま突入した。
「イラリア、行きますよ」
「師匠、本当に何者なんですか?」
「ただの敬虔な信徒ですよ」
「敬虔の意味知ってますか?」
「手筈は良いですね?」
「もちろんです」
私とイラリアはマフィアの後に続いて、屋敷に侵入した。
マフィアの皆さんにはイラリアの護衛をお願いしてるので、私は単身でロレンツィオ・ゾルジの首を討たねばならなかった。
私は見取り図に従い、屋敷の中を歩く。
散発的に奴の手下が襲ってくる。
通路を抜けると、いくつもの柱があり、天井が高い部屋にたどり着いた。
ここにはバルコニーのような見た目をした二階が左右にあった。
正面の柱に2人が隠れている。
二階には魔法使いが潜伏しているようだ。
私が柱の横を通ると2人が背後から斬りかかってきた。
一人を回し蹴りで対処し、残りはフライパンで黙らせた。
「食らえ!」
黙って撃てばいいものを、わざわざ射撃のタイミングを教えてくれた。
二階の三方向からの射撃だ。
左のバルコニーに2人。
右に1人だ。
一人は火球、残りは石を撃つ。私は飛び交う魔法を打ち返して、反撃するが、避けながらでは精度が悪い。
柱を踏み台にして、二階に移動する。
「近寄らせるな! 距離をとって対s」
喋り終える前に私のフライパンが黙らせた。
背後からの火球を避ける。
連続して火球が飛んできたので、撃ち返し、魔法使いを無力化した。
今度は石が飛んできた。
反対のバルコニーで、こことは直接つながっていないので移動が面倒だ。
私は柵を飛び越え、いくつかの柱を使って、反対のバルコニーに到達する。
「来るな! 来るな!」
慌てているせいか、撃ちだす石の数は増えているのに、まったく当たらない。
私はゆっくりと直撃コースの石のみを弾きながら近づく。
フライパンの間合いに男が入ると、恐怖のせいか、男は座り込んでしまった。
「お疲れ様」
私はフライパンを振り下ろした。
叩いてから気付いたが、ロレンツィオ・ゾルジの部屋ってどこだろう。
見取り図があるので部屋の配置は分かるが、誰がどこにいるか、までは書いてなかった。
軽めに叩いておけば良かった。
これだと、起こすのに時間がかかりそうだ。
「教祖様!」
私はフライパンを構える。
「教祖様、俺ですよ。村にいたときに情報をお伝えした」
「ああ、そんな人もいましたね。何となく思い出しました。ロレンツィオ・ゾルジの首でも持ってきましたか?」
「ロレンツィオ・ゾルジの首は無いですが、その息子を生け捕りしました」
「よくやりました。ロレンツィオの居場所は?」
「既に隠し通路で脱出したようです」
「逃げた先は?」
「それは分かりません」
「中途半端ですね。まあ、とりあえず息子とやらに会いましょうか」
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