第21話
あかりはいつまで残存世界に残るつもりなのだろうか?時間は有って無い様な物だから気にしないが、理由が気になる。あれから一年が過ぎようとしていた。あかりの二回忌が目前だった。「サラとはどうなの?」「可もなく不可もなく」「冷めてるのね、そのうち振られちゃうよ」違うのかもしれない、頭で分かっていても脊髄反射のように何かを拒絶している。なぜあかりに会いに行くのだろう?同情?未練?義務?彼女はもうこの世にいない。でもサラでは補いきれない何かがある。この特殊な状況に慣れてはいけない、現実世界のサラを幸せにすべきだろう。あかりもそう思っていた。そうだあれから何も進んでいない、自分の時が止まったままなんだ。このまま事を進めれば、自分の気持ちに一生嘘を付くことになる。どこかで破綻するだろう。その時サラは?
ただ自分に甘えていただけだ。最愛の婚約者を突然失い、都合よく瓜二つの双子に出会った。信じられない奇跡に救われたと心の何処かで喜んでいた。だがそれは生きている自分に自ら足枷を付けて、苦痛から逃げる為、時間を止めていたに過ぎない。偽善者だ、サラまで巻き込んで・・俺は最低だ。でもこのままではいけない。
解決策は考えていなかった。ただ不甲斐ない自分をあかりにぶつけた。「そうなんだ。サラにはちゃんと話してあげて、あと責任は私が取るって」「何言ってんだよ、責任って」「いいからちゃんと伝えて。それと湊に話があるの、聞いて」それは耳を疑うものだった。「あなたはどの道サラを幸せになんか出来なかった。だって今年中には死んじゃうもの」言葉に詰まった、少し間をおいて「いつから知っていた?」「あなたと再会した時、他の誰よりも「命の灯」が小さかったことに気付いたの。」「あかりの納得いく結末は俺を見届ける事?」「勿論、最初は湊を心配しての事よ。でもいろんな人の「命の灯」が消えていくのを見ているうちに、あなたの最後を見届ける事を納得する理由に決めたの」最愛の人に余命宣告を受けたが、衝撃は無かった。吹っ切れた、肩の荷が下りた様に晴れ晴れとした気分だった。
サラに全てを告げた、そして心の限り謝った。しかしサラは俺を責める事もなく「ミナト、あなたに会えてよかったわ。あなたのおかげであかりの存在も知る事が出来た。でもあかりに負けた事はちょっと悔しいかな」続けて「でももう少し傍に居させて、あなたが消えてしまうまでは」サラは少し悲しそうに微笑んでいた。
身辺整理を徐々に行い夏も終わりに近づいていた。そして最後に事務所を閉める事になった、本匠には体調が優れない事を理由に断りを入れた。その間定期検診があり、受診するも変化なし。どっちを信じれば良いのか分からなくなっていたが、体調は悪くなる一方だった。自分の体は自分が一番分かるとはまさにこの事だ。
秋も深まり寒さも厳しくなってきた。体の自由が日に日に効かなくなってきていたが、サラの献身的なサポートで普段と同じ生活が送れた。「ねぇ、あかりに会いに行きましょうよ」と誘われ、支えられながら公園へ向かった。霊視能力も大分落ちてきたようだ。歩み寄ってきたあかりに気付かず囁かれた瞬間、少しドキッとした「サラは甲斐甲斐しいわね、感謝しなさい」「あぁ本当だな」「あかり、ミナトの事よろしくね」「お姉ちゃんに任さなさい」こんな他愛もないやり取りが愛おしくて堪らない。俺は馬鹿だ、何でこんな単純な事に今まで気付かなかったのだろう?こんな大切な日常を見過ごしていたのだから「あかり、もうそろそろかな?」「そうね」誰一人いない静まり返った公園には、粉雪が舞い始めていた。
「サラ、あと少しだけ公園に居させてくれないか?」「そう、分かった。もう行くわ」「ありがとう。サラ、本当に・・」サラは強く体を抱きしめてきた、彼女の肩は小さく震えていた。もう二度と会う事はない、永遠の別れになる。それ以上言葉を交わす事なくゆっくりと立ち上がり、一度も振り返る事無く街灯の陰へと消えて行った。
別れ際はいつまでたっても慣れない。出会いがあれば必ず別れは訪れる。もう二度とこんな思いをしたくはないと分かっていても、今の苦しみを超える出会いを欲してしまう。人は弱い、生きている限り寂しさと言う麻薬からは逃れる術はない、だから繰り返す。
「あかり、膝枕してくれないか?」「うん」あかりと触れている感覚が現実と変わらないほど暖かく心地よい。強い眠気に打ち勝つよう必死にあかりの顔を見上げた。するとあかりは髪を優しく撫でながら「ねぇ湊。このあと残存世界で私とデートする?それとも一緒に転生しちゃう?」「・・もう少し、デート・・したい、かな・・」
「・・ようこそ残存世界へ。今度は私が案内する番ね」
人の一生は短い。歩んできた道を振り返った時に実感する。地位や名誉、富など所詮人が作り出したシステムに過ぎない。その過酷なシステムが故に人生を翻弄され社会から脱落する者もいる。逆にその全てを手に入れたとしても、最後は手放さなければならない。誰であろう死にゆく者の前では何の意味も持たない。
何の為にこの世に生まれ、何の為に生き、何の為に死に行くのだろうか?それ自体が大事ではない。人生のプロセスに満足出来たか、後悔の念に苛まれながら旅立つか?最後はそのどちらかでしかない。
人生最後の瞬間、あなたはどちらの側に立っているのだろうか?
霊能弁護人 @s_fujii1974
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