第17話

「驚いた、私の分身ね」サラは一度視線をこちらへ向けると、また写真を見続けた。ハート氏からはサラの情報が殆ど伝わっていない、どこまで知っているのだろう?もし何も知らされていないのなら、大変な事になった。ゆっくりと写真棚へ戻した後、しどろもどろする俺の方を見て「昔、父から姉の話は聞いた事があるわ」どこまで知っているのか気になって仕方がない「でも、事情があって会う事を許されなかった。ミナト、教えて」歩み寄って隣に座ると、両手を握って懇願してきた。どこまで話して良いか判断が出来なかった。でもお互いもう大人だ、心の中だけに留めて欲しいとサラに約束してもらい全てを話す事にした。

 「今年は大変なクリスマスになったわ。あかりに会えなくなってしまった事はすごく残念。少し疲れたわ」そう溜息をついて俺の肩にもたれ掛かると、暫く目を閉じていた。そして「ミナトは私の事があかりに見えているの?」「最初はそう思っていたよ、でも今は違う」静かな部屋の中で二人の息遣いだけが大きく響き、サラは俺の鼓動が聞こえるほど近くに寄り添っていた。「今日は帰るわ」一人で帰る事を告げて、ドアの前で立ち止まり「ミナトはズルい人。でも私はあなたが好き、あなたは?」答えを待たずにそう言い残すと、振り返る事なく部屋を後にした。サラは俺に考える時間を与える為、敢えて帰り際に気持ちを伝えてきた。これから二人とどう向き合えば良いのか、真剣に考えた。そう思いながら窓の外に目を向けた。行く末を暗示するかのように、雪は強さを増していた。

 翌朝、雪はすっかり止んでいた。街は一面の雪景色に変わり、人の気配も少なくなっていた。メールの着信に気付いた、サラからだ。ホテルで朝食を一緒に食べようとあった。慌てて支度をして部屋を飛び出した。ホテルの広々としたダイニングに向かうと、そこは朝陽が差し込み乱反射していた。目を細めてサラを探すと、テーブルに一人座る息を飲むほど美しい彼女の姿があった。「おはようサラ、誘ってくれてありがとう」「おはよう、ミナトお腹すいたわ」答えを急かす訳でもなく、何事もなかったようにサラは振舞っていた。そんな健気な姿を見ていて心が揺れた。「サラ、必ず答えを出す。それまで待ってくれるか?」「もちろんよ」何かが吹っ切れたように、それ以来サラとあかりが被って見える事は無くなった。

「サラは幽霊信じる?」「信じていないけれど、怖いわ」「俺に幽霊とコンタクト出来る力があるとしたら?」そんな話をしていると「あかりと話をしてみたいわ」と乗り気であった。そしてこの能力の事をサラに全て話した。そしてサラは最後に「ミナトはズルい人。だけど嘘はつかない。だから信じるわ」こういう棘がある所はあまり似て欲しくないと、心の片隅で願った。

 年が明けて早々に、次回会う約束を交わしサラはアメリカへ帰って行った。雪がようやく消えた公園に出向くと、サラとのやり取りを一部始終話した。「そうかぁ、あの娘も私と同じなんだよね。親の都合に振り回されてさ」さすがのあかりもしみじみとしていたが、その後は怒涛の尋問が待っていた事は言うまでもない。ひと息つくと「湊、お願いがあるの。出来ればあの娘を守ってくれないかな」母親もいない。姉妹が引き離され再開する事なく、一人になってしまったサラを心配していた。その表情を見ていて、何かを決意したように強い眼差しで一点を見つめていた。

決断の時はいつだって非情だ。誰かの為の「必要悪」として演じざるを得ない時もある。善悪の尺度など、その当事者の置かれた状況で簡単に引っ繰り返る。ヒーローしかいない物語は好まれず、ヒール役が居なければヒーローが引き立たない。ドラマチックな筋書は要らない、ただ今は平穏な日々を送り続けたいだけだ。

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