第16話
この世は決断の連続だ。片方を救えば片方が必ず傷つく、そんな当たり前の事が嫌だから悩む。どんな事をしても両方は救えないのが分かるから、余計に苦しむ。
クリスマスが近づき世の中が慌ただしくなる最中、あかりと俺のこの世から隔絶された時間は平穏に過ぎていたはずだった。「サラがまた来るそうだ」「そうなんだ、またエスコートしないとね」あれから月一ペースで来日していた、その都度エスコートをお願いされていた。「クリスマスの時間までサラに奪われそうね」寂しそうに背中を向けた「約束したケーキとシャンパンで一緒に過ごそう」と元気づけた。そのまま彼女は続けた「湊、サラの事どう思う?」「えっ?」何か思いつめた様子で振り返るとこう切り出した「ずっと考えてた事があってね、私がいると湊は前に進めないのかなって。一緒にいてくれるのはすごく嬉しいし幸せ。だけど私の時間は止まってる。湊とは同じ時間を歩けないんだよ。」沈黙が二人を包んだ、何も言い返せない自分が悔しかった。
一人ひとりが様々な思いを抱え、日々答えを求め続けている。これが最良だと思える答えに辿り着いた瞬間、また全てをゼロに戻されてしまう。何度も繰り返されるエンドレスストーリーに正しい答えは無い。そのプロセスに人々は翻弄され、誰もが生きている限りその十字架を背負わされる。
あの時のあかりの言葉が気になった。俺はサラをどう見ているのだろう?特別な感情がない訳ではない。ただ少し違う、瓜二つのあかりの姿をサラに映しているだけで、あかりが好きなのだ。あかりが言いたい事も良く分かる、こんなにも近くて遠い世界にあかりはいて、決して交わる事は出来ない。そしてもうサラに私の姿を映すのは止めてと、姉として妹を気に掛けているのだろう。そう考えていると、つくづく嫌な男だと今更ながら思った。
「ミナト、また来たよ」数日後サラと合流した。あの事で変に意識してしまう。サラはあかりではない、ちゃんと一人の女性として見てあげなければ失礼だ。当然、付き合っている訳ではないが、そんな見方になってしまう。遅めのランチを二人で過ごしていると「ミナトの部屋に行ってみたい、いいでしょ?」別に断る理由もなく滞在期間中に立ち寄ってもらう事になった。「クリスマスにプレゼント渡したいから約束ね」と人の都合も気にする事なくホテルに戻っていった。年末に向けて仕事もラストスパートを掛けているし、クリスマス前には余裕で終わるだろうと高を括っていた。しかし実際に終わったのはクリスマスイブの昼であった、肝を冷やしたが予定に狂いは生じていない。午後から掃除スタッフが入り年末の大掃除も兼ねてやってもらう、その間あかりと約束の品を揃え公園に向かった。駆け足であかりに向かって手を振った、そしてあかりも笑顔でゆっくりと歩み寄ってきた。初雪が降り始めた穏やかな日だった。
あかりとのイブは重い話も一切なく純粋に楽しめた。あかりは味わう事が出来なかったが、くだらない話によく笑っていた。二人の不思議なイブは時間を忘れて楽しんだ。
「来たよ、ミナト」インターホンの向こうにサラの姿があった。部屋に上がるや否や「メリークリスマス、はいプレゼント」と渡され早く開けるように急かされた。中には高そうな万年筆が入っていた、しかもネーム入りだ。適当に席に座ってもらいサラに渡すプレゼントを寝室へ取りに行った「あれ?どこだ」クリーンサービスの人が別の場所へ片付けていた。「ごめん、サラ。プレゼント・・」何かに食い入るように、写真を手に取り凝視していた。まずい、あかりの写真を隠し忘れた。「これ、誰?私にそっくりだけど」と不思議そうに俺を見ていた。「あ、その。婚約者だった人、もういないけど」
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