第15話

日を追うごとに気温が下がり、日が短くなるのが徐々に感じられるようになった。「あかりは何かしたい事ある?」そう聞くと「う~ん、温泉入って、美味しい物食べて、ビール飲みたい」ちょっと困ったフリで「さすがにそれは無理かな」と答えると「じゃあ聞くな。でも一つある、妹を見てみたい。あとお母さんにもう一度会いたい」二つあるのでは?と突っ込みたい気持ちを抑え、少し考えた後で

「じゃあ、妹に会わせられるかも」と伝えると、嬉しそうに笑った。

 ハート親子が近々仕事の都合で来日する事は知っていた。当たり前だがサラの存在を本匠の周りに知られるのは都合が悪かった。その間、サラの観光案内を任される事になっていたのだ。

 そして来日の当日、宿泊先のホテルに呼ばれた。「久しぶりだね、ミナト元気だったかい?」とハート氏と握手を交わした。その隣にサラの姿があった「今回は沢山お話し出来そうね、ミナト」そう言うと軽いハグをした。正直何度会ってもあかりと呼んでしまいそうだ。「ミナト、サラのエスコート宜しく頼むよ。楽しませてあげてくれ」そんな話をしている最中、サラに腕を組まれ強引に部屋から連れ出された。追いかけるように部屋から「ミナトを余り困らせないで」とハート氏の気遣う声も、耳を貸す事なくずホテルを後にした。しかし驚いた、容姿や声のみならず自由奔放な所まで性格まで瓜二つだとは。笑顔のサラを横目に見ながら、ひとり感心していた。

 数日が経ち、都内観光も大分飽き始めていたようなので、公園に誘い込む提案してみた。「サラ、夕食は僕が好きなローカルフードの店はどうかな?」すると、食いついた「いいわね、興味あるわ」あかりの気に入りだった居酒屋だ、サラもきっと気に入るはず。

 予め公園を散策するルートを段取りをしていた。「都会にこんな奇麗な場所があるなんて」腕を組まれ歩いていると、何か言いたげなサバイバーがずっと隣に張り着いていた。「なんだよ」「別に。仲いいのね」「仕方ないだろう」「そうね、仕事だもんね」事前にあかりには話をしていたが、ここまでフレンドリーに接してくるのは予想外だった。「じゃあな、もういくぞ」「はいはい、どうぞ行ってらっしゃい」そう不貞腐れて離れて行ったそのまま交差点へ差し掛かった時、何とも言えない恐怖に襲われた。あの時と全く同じ感じだ、隣にあかりを連れて歩いているような強い錯覚を覚えた。呼吸が浅くなり、視界も狭くなっていく。やっと交差点を渡り終えると、崩れるように膝を付いた「大丈夫?ミナト、どうしたの?」「何でもない、ありがとう」すぐその場を離れ居酒屋へと急いだ。何でもない訳がない、心の奥に刻まれた恐怖を呼び覚ますには、余りに条件が良過ぎた。デジャヴのような光景に、未だ心は癒えてはいなかった。

 後日、何とかサラのエスコートも終えた。無事帰国の途についたハート親子であったが、サラにはだいぶ気に入られたようで「すごく楽しかったよ。またエスコートお願いね、ミナト」と再指名確実となった。それよりあかりが妹を見てどう思ったか知りたい。しかし不可抗力とは言え少し時間を空けた方が良いのか迷っていた。

 数日後「なんで暫く来ないのよ」と開口一発、噛みつかれた。「あぁちょっと忙しくて、ごめん」やっぱりこうなった。ただ意外な言葉も聞けた「やっぱり双子だね、鏡見ているみたいで変な気分だった」そして「湊、ありがとう。会わせてくれて」やめてくれ、輪廻転生する前にみんな必ずそう言う。こんな別れ方は嫌だと、感傷に浸っていると「でもさぁ、何なのあれ?日本の淑女たるものが何たるかを姉として教えてあげなきゃ」と鼻息を荒くしていたが、意外と自分の事は見えないものだ。「そのまんまあかりだよ」と、ひとり突っ込んでいた。暫く「納得」する理由が有耶無耶になるなら、それはそれで安心だと安堵していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る