第13話

あかりに真実を伝えるべきか、まだ悩んでいた。もう選択の余地はない、取り繕った所で結果は変わらない。やはり思いを遂げてしまうと、永遠の別れに至るきっかけを与えてしまうのか?そうだ、サバイバーと言うアドバイザーがいるじゃないか。早速近くの神社へ向かう事にした。

 眼帯を外して周りを見渡すと、ひと際きれいな緑色の揺らめきを纏ったサバイバーに出会った。着物を着た男性のサバイバーのようだ、恐る恐る近づくと相手から話し掛けてきた。「あんた、俺に何か用かい?」「はい。少し聞きたい事があって」気さくな感じで良かった。口下手な俺には話をリードしてくれる方が助かる。

 このサバイバーは自分で望んでこの場所に残っているらしい、しかもかなり長い間。「俺は祭りが大好きでさ、いつも人がいる場所が落ち着く」「あの、残っている方々は輪廻転生とかしないのでしょうか?」そう聞くと「するさ。納得すればな」

 どうやら未練を残したサバイバーは残存世界へ導かれ、「納得できる結果」を得ると自動的に輪廻転生のサイクルに飲み込まれるらしい。逆にこのサバイバーのように、まだ納得が出来ないとなれば残存世界へ残り続け、輪廻転生のサイクルにも乗らないようだ。人権ならぬ霊権があるようで、満足しても諦めてもサバイバーがその結果に「納得」した時点で、次のステップに行くようだ。

少し希望が持てた。あかりが死んだ事を知っても、その事に「納得」さえしなければ、残存世界に残る事が出来る。だが彼女がもうそれでいいとなれば即日、輪廻転生となる。なるほど、残存世界にも自動的にジャッジする審判制度のようなシステムがあるという事か、それも自分が自分で裁くというセルフスタイル。ならば彷徨えるサバイバーを希望に近い形で導く事も出来るはずだ。残存世界で途方に暮れるサバイバーの手助けが出来るなら、この能力の存在意義を見出せるかもしれない。正義の味方「霊能弁護人」の登場だ。

「気分はどう?」公園に着くと一人ベンチに腰を掛けていたあかりに声を掛けた。「ねぇ、交差点にある献花に私の名前が・・」涙ぐみ言葉に詰まる彼女にそっと寄り添った。自分の身に起きた事に気付いたのだ。そして宥めるように、ゆっくりと順を追って事の顛末を語った。彼女は取り乱す事もなく、蒼白い揺らめきが変わる事もなく、ただ一転を見つめる目に涙を浮かべながらじっと聞いていた。そしてこの事象についても丁寧に説明した。俺の能力の事も輪廻転生の事も全て、ただ一つを除いて。「なんか色々すっきりした。ありがとう、話してくれて」これで「納得」して輪廻転生とならないか不安で仕方なかった。だが彼女は消える事なく、こう続けた「まだ納得なんか出来ないよ、だって湊が心配だし」いつの間にか騒々しい蝉の声は消え、ヒグラシの鳴き声だけが公園にずっと響いていた。

 お盆休みに入る前までに、事務所の設備をなんとか揃えておきたかった。しかしもう間に合わないだろう。仕方なくお盆明けに採用する予定の事務員に謝罪を申し入れる事にした「本当にすみません。では翌月から宜しくお願い致します」電話を切ると、気配を消していたかのように本匠が真後ろに立っていた。「うあっ」と思わず声を上げると「幽霊を見るような驚き方をするなよ」と茶化された。「だいぶ形になってきたな」「はぁ、まだ必要な物が入って来なくて、今月は絶望的です」

 雑然とした事務所にスペースを作り、コーヒーを淹れながら本匠に尋ねた。「もしあかりさんが生きていたら、双子の妹の事を打ち明けましたか?」すると「親の都合で姉妹を引き裂いた以上、墓場まで持っていくつもりだった。」だった?もしかすると気付いていたかもしれない?今はあの戸籍謄本の意味を知る由もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る